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能力者の日常  作者: 相上唯月
8私は一人じゃない

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2私は一人じゃない

最後に残された光姫は、一人で階段を駆け上がり、三階の廊下を歩いて教室へ入った。悠、メイサと同様に教室内は静まり返り、光姫は席につく。やがてクラスメートは明らかに光姫に向けた陰口を言い合って、光姫に刺すような視線を向けていた。


「守光神さん、能力者だったんだ。」

「しかも能力者のトップだよ。やばくない?」

「まじそれ。こんなところにいていい存在じゃないよ。どっか行け。」

「お姫様とか言ってもてはやしてたけど、本当にそうだったとはね。」

「プリンセスは宮殿にお帰りくださいな〜。」


わざと光姫に届くように陰口を囁き合い、光姫は瞳を閉じて両耳を塞いだ。その時、机に影ができて、光姫の机の前に何者かが立ったのがわかった。光姫が恐る恐る顔を上げると、そこには白城さんの姿があった。もしかして味方をして庇ってくれているのだろうか。光姫が希望を抱いて耳に当てた両手を外すと、


「光姫ちゃん、私のこと騙してたんだね。」


と、彼女からは聞いたこともないような低い声が耳に届いた。


「へ…?」

「しらばっくれないでよ。能力者なのに普通の人間のふりなんかして。メイサちゃん、杏哉くん、悠くんもみんな能力者だったんだ。私と一緒にいても楽しくなかったでしょう。」

「そんなことは…。」


白城さんは普段からは想像もつかないような、人を害する言葉と表情で光姫を攻撃した。


「私、光姫ちゃんのこと信じてたのに。勉強とか運動とか、能力者だったからあんなに完璧だったんだ。」


(あっ。そういうこと…!)


光姫はそこでやっと合点がいった。白城さんは勉強も運動も、全て能力で解決すると思い込んでいるのだ。能力が万能でないことはある程度能力者に興味のある人は知っているはずだが、白城さんは一切自ら情報を知りに行こうとはしなかったようだ。


「違います、白城さん。能力はそんなに万能ではありません。」

「あんな大地震止めておいてそんなチープな言い訳しないで。」


白城さんは自分が絶対正しいと思い混んでいるようだった。頭のいい人ほど自分に自信があり、人の話を聞かないとは本当のようだ。


「私、光姫ちゃんのこともう信じられない。今後、一切私には関わらないで。」


白城さんはそう言い放って背を向け、光姫の一つ前の自席へ腰掛けた。光姫は白城さんからの突き放しに、何の言葉も発することができなかった。わかっていたはずだ。全ての無能力者が能力者を受け入れてくれるわけではないと。しかし、光姫の人格を知っていて、より身近な人物は、光姫のことを好意的な目で見てくれると思い込んでいた。その代表が白城さんだった。それが今、明らかな拒絶を受け、光姫は目の前が真っ暗になる思いだった。


その後、担任がやってきて、光姫を一瞥し、卒業式へ向けて体育館へ移動した。ほとんどの人が高校へ上がるため、この中学では、卒業証書を受け取り、校歌を歌うことしかしない。今年は同時に入学式が行われ、校長先生の挨拶がなされた後、短縮された二つの式は終了した。他の学年はすでに式を終えただろう。今日は卒業式兼入学式だったため、保護者も学校に集まっている。しかし、陽子や照光は改革後の決め事で忙しく、二人とも来ることができなかった。代わりに島光さんが撮影してくれることになっている。


「光姫様、お疲れ様でした。」


式を終えて、体育館を出たところで待機していた島光さんと合流した。島光さんは光姫の姿を見るなり、恭しくお辞儀して光姫をいたわる。当たり前の何気ない仕草が、クラスメートからさげずまれた〝当主の娘〟であることを体現している気がして、光姫は今にも泣き出したい気持ちになった。しかし、それをグッと堪える。


「ありがとうございます。」


光姫は島光さんと並んで、平然を意識して校門への道のりを歩く。誰がなんといおうと、自分はあくまでも当主の娘なのだ。そして光姫自身もその出生に誇りを抱いている。島光さんに余計な心配をかけるわけにはいかない。今にも崩れ出しそうな感情を抱えたまま、光姫は一人食いしばって前を向いて歩く。すると、


「お姉様〜! 卒業&入学おめでとう! 今日はどうだった〜?」

「光姫様、中学ご卒業、そして高校ご入学おめでとうございます。これからは私と同じ学校に通えるのですね。歓喜の至りです。」

「光姫先輩! これ、お祝いの花束ですっ。ご卒業、ご入学、おめでとうございます! 少し登下校時にお話しできる距離が短くなりましたが、今後もよろしくお願いしますっ。」


と、聞き慣れた三人の声が耳に届く。校門の道の途中で、メイサ、杏哉、悠が大きく手を振って光姫を呼んでいた。彼らの姿を瞳に映した途端、光姫は一目散に走り出していた。


そして彼らの前へかけていくと、三人にぎゅっと抱きつく。三人はらしくない光姫の行動に戸惑ったが、すぐに受け入れ、彼女の背中に手を回した。中央にいた杏哉に光姫の顔をあずけ、メイサと悠は左と右から彼女を包むように抱きしめる。


「…メイサさん、杏哉さん、悠さん、今後も、私と親友でいてくれますか。」


光姫が中央にいた杏哉の胸に顔を疼くめて、つぶやくようにそう尋ねた。


「何言ってるんですか。そんなことを確認するなんて野暮ですよ。私はいつでも光姫様の味方ですし、光姫様がそう思ってくださる限り、親友です。」


杏哉の包み込むような声が、密着した体から直接伝わるようにして身体中に響く。


「お姉様、アタシ達は親友でもあると同時に姉妹なのよ! いつまでも一緒にいるわ。お姉様が不安になった時は、アタシが一番に駆けていくから。」


メイサの温かな声が、すりよせた頰から温もりと共にじんわりと響く。


「もちろんです。僕は光姫先輩が救ってくださったおかげでこの場にいられるんです。あの時、光姫先輩が僕を助けにきてくれなかったら、すぐさま捕まっていたところでした。そんな風に、僕では力になれることは少ないかもしれませんが、いつでも頼ってください。」


悠の優しい声が、囁かれた耳元でこだまし、余韻を残して響く。


光姫はもう堪えることができなかった。杏哉のブレザーを濡らさぬように顔を上げようとしたが、彼はグッと光姫を抱き寄せた。メイサと悠も、光姫を一人にはしまいと、体をより近づけて強く抱きしめる。光姫は杏哉の服の上で泣き声をあげて感涙した。光姫が泣き止むまで、三人はずっと光姫を温かく包み込んでいてくれた。光姫が顔を上げた頃には、周囲に生徒に姿は見られなかった。思いの外時間が経過していたようだ。島光さんは先に来る前へ戻ったらしい。


「杏哉さん、メイサさん、悠さん、本当にありがとうございました。筆舌に尽くし難いくらい、皆さんには感謝の念しかありません。」


光姫は三人に向けて心を込めて感謝の気持ちを伝えた。彼らと出会って共に過ごし、たくさんの経験を共にした。地震の作戦だって、光姫一人では実行に移せなかった。三人の存在があったから、今の光姫があるのだ。本当はこんな言葉一つだけでは、光姫の抱く感情は表せられない。それをどうにかして彼らに伝えようとしていたら、


「わかってますよ。光姫様の気持ち。きっと私達も、光姫様に同じ感情を抱いているでしょう。」


と、杏哉に制された。


「同じ、ですか? しかし…。」

「アタシたちはお姉様に見つけてもらって救われたのよ。能力者で生まれたおかげで、かけがえのない存在…お姉様に、悠に、杏哉に出会えたんだもの。」

「メイサの言う通りです。みんな、同じ気持ちなんですよ。」


杏哉、メイサ、悠の感情が、光姫の心に直接届くようだった。いや、届くというより、皆が同等に形容し難い感謝の念を抱いていて、それがつながりあい、共有されたのだ。


光姫は杏哉、悠、メイサと違い、白城さんをはじめとし、クラスメートから受け入れられることはなかった。しかし、光姫はあの頃とは違う。メイサと出会う前――〝友達〟を知らなかったあの頃とは。光姫には今、何にも変えることができない、かけがえのない、大切で大切で仕方のない親友達がいる。彼らと一緒なら、たとえクラスメートに拒絶され、世間に差別されても、どんな困難も乗り越えられる気がした。


「私、本当に、皆さんに出会えてよかったです。」


光姫は杏哉、メイサ、悠の輪の中で、十五年の人生の中で紛れもなく最大の輝きを放っているであろう、極上の笑顔を浮かべた。

〈了〉

最後までお読みいただいて、誠にありがとうございます!! こんなにも長い物語になってしまったのに、最後まで読んでいただいて、感謝の念しかありません。もし宜しければ、感想等も是非ともよろしくお願いします…! 改善点があれば、今後の参考にさせていただきたいです。

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― 新着の感想 ―
 語彙が豊富で、環境描写や人物の心理描写が丁寧に書かれており、良かったと思います。  目立った誤字脱字も見受けられませんでした。  行間を開けたり、一話に詰め込む文字数を減らして読みやすくしたら、も…
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