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能力者の日常  作者: 相上唯月
6サプライズ

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15南海トラフ地震の有効利用

「それ、有効利用できるかもしれません。」

「どういうこと、お姉様?」


「能力者が力を合わせて、無能力者達の被害を少なくするんですよ。大地を操る能力者なんていませんから、地震そのものをなくすことはできませんが…。まぁ、そんなことをしたら、助けたことが無能力者に伝わりませんから、そんな存在があったとしても、地震そのものは無くしませんけどね。すみません、話が脱線しました。


初めに、無能力者を被害リスクの低いところへ移動させます。これは彼らが従うか危ういので、私達を信じて従った人のみ助かるということで。従わなかった人たちの方が大勢いると思うので、今度は彼らの被害をできるだけ減らします。


建物の崩壊の被害をなくすために、緑属性の能力者の手で、大樹など作成して支えましょう。いや、それだと我々の身に危険が…。建物と地面をツルで固定などしたら揺れを抑えられるかしら? 津波などは水属性の能力者で来させないようにします。


二次災害の火事は、火属性の能力者の手で一つ残らず無くしましょう。地震後、ガスや水道も止まると思うので、それらは能力者の手で補います。もちろん、怪我人は我々光属性の能力者で癒します。死者を復活させることは不可能なので、息絶える前に、なんとか全員救いたいですね。死者ゼロ、怪我人ゼロを目指しましょう。どうでしょう? これで被害は最低限に抑えられると思いません?」


内容の濃い説明に、側近三人は真面目な表情で聞き入っていた。最後に光姫に確認され、


「…現実的とは思えませんね。それが思うように実現すれば何よりですけど。そもそも、能力者の数は足りますか? 半分弱は捕まっているでしょう。突然全ての能力者が姿を現して、無能力者は助けてくれた、と思う前に、恐怖を覚えるでしょう。この地震は能力者が作り出したものなのではないか、なんて思い出す輩もいるでしょうね。そうなったら現状悪化ですよ。全員捕まります。無能力者の被害は減らせるかもしれませんが、こちらの被害は増大しますよ。」


と、珍しく杏哉が否定的な意見を口にした。


「それはそうですね…。今口にした内容は、理想以外の何物でもありません。初めに避難させる時、どうやって伝えるかにも問題はありますし…。他にも色々…。」


光姫は稀有な杏哉の険阻な表情に、一瞬、親に怒られたような、泣き出しそうな顔をしたが、すぐにいつもの真顔に戻った。だが、先ほど意気揚々と理想の作戦を話していた当主の姿はどこにもない。


「…でも、やってみる価値はあると思いますよ。」


悠とメイサが何も言動出来ずにオロオロしてる中、再び杏哉が口を開いた。今度は、先ほどの険しい表情とは真反対に、口角を緩め、優しい瞳をしていた。其の言葉と表情に、光姫は戸惑ったように小さく声を出す。


「え…?」

「いえ、あまりに光姫様が自信満々に語るので…。あくまでも理想…全て上手く事が進んだ場合の話だということをはっきりさせておきたかっただけです。このまま、だらだらと能力者が全滅していくのを待つより、私は其の作戦を実行する方が好きですよ。成功することを信じて、未来を賭けましょう。」


杏哉は引き締まった覚悟を決めた顔で、けれども何処か悪巧みをしているような表情で、そう口にした。光姫はそんな杏哉の表情に、一瞬、胸が高まったような錯覚を覚えた。


(…? 今のは一体?)


感じた事のない感覚に、光姫は疑問を抱いたが、きっと気のせいだろう。先程、いつもは光姫の意見に賛成してくれる杏哉から厳しい意見を受け、しかし其の後、しっかりと肯定してくれて。立場の差に捉われず、しっかり意見を述べてくれる杏哉に頼り甲斐を感じ、また素敵だと思った。きっとそれでだ。気のせいだと思い込んで、変わらずに話を続ける。


「ええ…そうですね。賭け事…博打です。其の地震の日の為、出来ることはし尽くして、万全の状態で進めましょう。とりあえず、前日に収容所を破壊します。」

「…今なんと?」


光姫の言葉で耳を疑い、悠は問い返す。


「能力者が捉えられている収容所を破壊するのです。彼らには事前に、地震のこと、そして各々の行動を伝えておきます。もちろん、まだ捕まっていない能力者全員にテレパシーを送りますがね。収容所の入り口に、私が雷を落とします。そこから逃げてもらいましょう。監視の無能力者達には、悪いですけれど気絶してもらうしかないですね。能力者に当てないように、ひたすら雷を落とします。」

「…ずいぶん大雑把な…。」


悠は半分呆れたような表情で、不安げに呟きを溢す。


「細かく作戦を立ててどうにかなる事ではありません。大騒ぎになると思いますが、彼らが犯人を突き止める前に、大地震がやって来ます。其の後は先ほど話した通りです。」

「お姉様。それだと、余計に能力者が地震を起こしたみたいになるわよ。」

「そうですね…。じゃあ、覚悟を決めて、先に警告しますか。テレビとか乗っ取って。」

「警告って…信じてもらえなかったら終わるわよ…。それに乗っ取るって…。」


計算高く精密な思考の持ち主である光姫の言葉とは思えないほど、全てが博打で、ざっくりとしている。不安を拭えないメイサだが、そこに杏哉の声が聞こえた。


「じゃあ、炎と妹、二人の両親を出させたらいいんじゃないですか。あの二人の親、能力者と無能力者なのに愛し合って結婚したんでしょう? 無能力者の二人の母親に、何か話してもらったら、多少は無能力者の心を動かせるのではないですか。」

「なるほど…。杏哉さん、炎先輩とLINE繋がってます? 私にも教えてください。」


そこで、二人は部屋の隅に置いていた荷物置きからスマホをとってきて、杏哉から光姫に、炎のLINEアカウントを教えた。


「後で炎先輩に、この作戦のことを話して、両親に協力してもらえるかどうか、連絡してみます。…そうなればより一層、この二人にはハンターに捕えられてしまってはいけませんね。でも誰かが代わりに捕まってしまう…。」

「じゃあ、もういっそのこと、学校全体を休校にしましょうよ。光姫様が雷を落とし校舎を壊して、僕が雨を降らせ当分使用できないように水浸しにして。滅茶苦茶にしちゃいましょう。杏哉も一緒にしたかったけど、認識されているのは光属性と水属性だけだから…。今回は二人で。もう、全てが博打なんですから。どうせ大地震で何処かが崩壊するでしょうし。これくらい、なんてことないでしょう?」


光姫に引き続いて、悠もいつもの冷静な姿とはかけ離れ、そんな提案をした。この空間にいる皆が、全てが狂っている。だが、其の元凶を作り出したのは、能力者を差別する無能力者に他ならないのだ。


「そうですね。そうしましょうか。どうせ、私と悠さんが遠距離から操作したところで、彼らには犯人を突き止めることなんてできないでしょうし。」


光姫もにっこりと微笑む。


「では、今から校舎を一ヶ月半ほど使用不能にしましょうか。」

「ええ。」


口角を斜めに上げて、目を細め、明らかに悪そうな表情をする二人。杏哉も其の悪巧みに出来れば参加したかったが、悠が説明した通り、学園にいると特定されている能力者の数を増やしてしまっては元も子もない。


「なんか俺たち…ハブられてるみたいだな…。」


こっそりとメイサの耳元で囁くと、彼女も他二人のように何かを企んでいそうな表情を浮かべたので、杏哉はシンプルに驚いた。


「アタシ、未来予知で一秒後の学校の様子を、二人がどんなに派手に破壊したか、確認するからね。」

「は…? ずるっ。俺にも見せろよ! 本当に俺だけ仲間はずれじゃんか。」

「どうやって見せろってんのよ? あ、見えてきた! まぁ、すごいわね。思わず感心しちゃう。小学校も中学校も高校も、金色の稲妻で、校舎の一部が黒くなっちゃったわ。あ、先生がいる! よかった。お姉様、ちゃんと避けて放ってくれたわ。悠の方も順調ね。車軸を転がすような土砂降り。あ、もうプールが満杯になったわ。校庭も、土が吸いきれずに、水が溜まってきてる! わ〜! もう、感動しちゃう。」


能力を使いまくる光姫と悠の背後で、メイサはまるで迫力満点の映画を見ているかのように体を揺らしている。杏哉は一人、疎外感を覚えながら、三人の様子をじっと眺めていた。


暫く経って、光姫と悠がこちらを向いた。二人とも、能力を思う存分放出する事ができて、満足げな表情をしている。光姫はこの程度は朝飯前だろうが。


「メイサさん、どうですか? いい感じに使用不能になってます?」


光姫は未来予知で学校の景色を確認していたメイサにそう問うた。


「ええ、もう、バッチリよ! 感銘を受けたわ。こりゃ、一ヶ月半なんて余裕で使えないでしょうね。学校にいた先生達、瞠目しながら逃げてたわよ。ついでに、花ちゃんと炎先輩が捕まる未来も視えなくなったわ。よかった、よかった。」


光姫の問いかけに、メイサが愉快そうに答える。


「悠、いい感じに訓練の成果、出てるじゃないの。格好良いわよ!」

「ほんと? やった!」


そしてメイサは光姫に返事をした後、顔を綻ばせながら悠を褒めた。


「あ〜、もう、何もかもが狂ってるわね。これが能力者の本性か…。確かに、無能力者が恐れるのもわかるわね。」

「本当だな。ま、だからといって差別して収容所に放り込むのは違うと思うぞ。俺ら、別に何か悪いことしたわけじゃないのに。」

「そうですよね。」

「昔は全員が能力者だったから世の中が丸く収まっていたのになぁ。」


そして四人とも上機嫌になって、そんなことを言い合った。


其の日の夜、光姫らは明光さんに作戦の全貌を話した。彼女は光姫らしくない大胆な作戦に目を見張っていたが、光姫の覚悟が捉えられたのか、真剣な表情で首肯してくれた。

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