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能力者の日常  作者: 相上唯月
6サプライズ

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13訓練

お節料理を味わった四人は、その後、光姫の部屋に集まっていた。


「三人方…あの、どう思いました?」


光姫は側近三人に座布団を用意し、恐る恐る尋ねた。


「どうって…怖いと思ったわよ。けど、お姉様が言いたいのはそう言う事じゃないでしょ?」


メイサは素直な感想を述べたが、光姫の言葉の真意を探るようにそう言う。続けて、


「光姫様は、能力者の為に、何か行動を起こしたいんですよね。」


と、杏哉が核心に迫る言葉を発する。その言葉に、光姫の肩がビクッと震える。


「光姫先輩らしくていいと思いますよ、僕は。僕にできることなんて限られているでしょうが…精一杯協力します。ね、杏哉もメイサもそう思ってますよ。」


最後に悠がそう付け足した。光姫の瞳が潤い出す。


「本当よね。杏哉はまだしも、まぁ、悠もアタシに比べたら全然力強いけれど…、こういう時、やっぱり不便よね。お姉様がアタシ達を側近にしてくれたのは歓喜極まるけれど、能力を使うとなると、現実的な問題があるものね。はぁ…。なんでアタシ、こんなに弱いのかしら…。」


いつも明るいムードメーカーのメイサが珍しく弱気になり、その場の雰囲気が暗くなる。それを壊したのは、光姫の誰も予想しなかった言葉だった。


「あの…言ってなかったんですけど、実はお二人とも、能力、多少は強くなってると思いますよ。」

「「は⁉︎」」


悠とメイサの驚きの声が重なる。


「それはどういう…?」

「私の能力には〝癒し〟があるじゃないですか。それって、癒すだけで、向上させることはできないのか、ってふと思ったんですよね。それでテレパシーでお父様に尋ねてみたのですけれど、実例はないけれど、お父様や私くらいの実力者なら、理屈的にはできるそうなんです。それで三人が屋敷に来てしばらくしてから、密かに三人の能力の向上に努めていました。ダメ元で始めたんですが、本当に能力が強まったんです。あ、強まっているだけなので、元々派生のメイサさんは未来予知の力がより精度が良くなったりするだけですけれど…。」


光姫の衝撃的な話に、三人とも口をぽかんと開けて唖然としていた。いつもの通り、初めに口を開くのはメイサだ。


「な、なんでそんな重要なこと、今まで言ってくれなかったのよぅ…。てかお姉様、治癒に雷、エネルギー隠匿の能力、三種類持ってるだけですごかったのに…そこからさらに向上ですって? お姉様ってほんと神ってる…。」

「なんでって言われても…まだ力を込めている途中で、そこまでは強まってないので…。せいぜい、悠さんは以前は中の中でしたけれど、今は中の上くらい…で、メイサさんは以前は下の中でしたが、今は下の上くらいですかね。神ってるって…そう言いますが、闇属性の側近はもっと多くの種類の能力を持ち合わせていますからね?」

「全然すごいですって。どこがせいぜいなんですか。平均より高くなってるじゃないですか。」


悠は驚いた表情でそう返す。すると光姫は思い出したように話を続けた。


「あ、ですが、杏哉さんは特別強まってますけれどね。毎日私と一緒に訓練してますので。元々緑属性トップクラスでしたけど、さらに跳ね上がりました。他とは比べ物にならないでしょうね。」


口を尖らせるメイサに、光姫はおずおずとそう言う。そして最後に付け足された内容に、再びメイサが反応した。


「え、訓練したら強まるの。それも初耳なんだけど。だって能力って生来のものでしょう?」

「それはそうですが…どれだけ使いこなせるかは、訓練で結構変わってきますよ。そうじゃなきゃ、私や杏哉さんが毎朝訓練してる意味がないでしょう。」

「それはそうなんだけどさ…。アタシからしたら、雲の上というか、二人とも力が強すぎるから、アタシには関係ないと思って…。」

「ありますよ。もちろん悠さんもね。」

「僕、明日から毎日、光姫先輩と杏哉の訓練にご一緒させていただいても宜しいでしょうか。」


それを聞いた悠は即座に、訓練を共にする了承を得ようとそう尋ねる。


「もちろん良いですよ。悠さんは、今より広範囲、そして長時間水を生み出せるようになりましょう。徐々に自分が限界と思う水量から増やしていくのです。時間はかかるかもしれませんが、それを続けていれば、そして私の力を加え続ければ、水属性の側近クラスにまで上り詰められますよ。」


光姫に目標を提示され、悠は元気よく「はい!」と返事をした。


「アタシも! お姉様っ。」

「ええ。メイサさんは残念ながら派生した家系なので、いくら訓練したり私の力を込めたりしても、未来予知以外の能力を手にすることはできません。ですが、最も精度が良く、より未来を見通せる、この世で一番の未来予知者を目指しましょう。近日中に起こるであろう事象の良し悪しは、予知せずとも感じ取れるようになることを目指しましょう。」

「アタシ、頑張るわ! 早速、今から訓練場に行きましょうよ。」


メイサの言葉に反対する声はなかった。皆が二つ返事で首肯し、訓練場へ足を運ぶ。杏哉は早速、毎朝のように自己練を始める。光姫は悠とメイサに目標のアドバイスをしつつ、自分の訓練を挟んでいた。


「悠さんはとりあえず、水量を増やしていきましょうね。けれどこの部屋一帯に降らすことは容易いでしょうから、土砂降りで。一時間は耐えましょう。あ、私たち三人に濡れないように降らしてくださいね。三十分耐えられて余裕ならば、手元で水鞠を作ってみてください。」


「メイサさんは明日の予知をしてください。そして今現在目にしているように、全ての物を正確に見とれるようになりましょう。おそらくこれはあまり時間がかからないでしょうから…。それが終われば、なんとなくでいいので、近日中に起こる良し悪しを感じ取ろうと試みてください。」


光姫に突きつけられた目標は、二人にとってなかなかにハードなものだった。


悠は三十分、光姫の望む量の土砂降りを降らせることになんとか成功した。その水量も恐ろしいのだ。人のいる場所は避けているが、もし当たっていれば、すぐに失神してしまうほどの、強い雨だった。三人がいる場所を避けて降らすのもまた、一苦労だった。初めから変わらない一つの地点をずっとあけていることはまだ容易いものの、皆が移動してしまうのだ。悠は三人の頭上から雨が降らないようにと、調整することに大変骨を折った。そして後半三十分がまた地獄だった。ただでさえ土砂降りに意識を集中させなけらばならないのに、その中で水鞠を作るなんて無謀だった。一つ作成したところで、悠は力尽きて雨を降らすことができなくなってしまった。


一方メイサは、光姫の言うとおり、より精度を上げて未来予知をすることは、あまり時間が掛からなかった。メイサは未来予知しかできないが、逆に言うと、未来予知はそれなりに極められているのだから。だが、もう一つの課題は困難だった。良し悪しを感じ取ると言っても、どうすれば良いのか、見当もつかないのだ。光姫に尋ねてみたが、彼女は光属性であって闇属性でないので、こればっかりはわからないという。つまり、メイサ自身でその方法を探り出すしかないのだ。悠は既に感覚を掴んでいることをさらに強化する訓練をしている。こちらは肉体的に厳しいだろう。だが、メイサの課題は精神的にかなり難儀だった。


結局、その日は一日中訓練場にこもっていたものの、悠とメイサは今日出された課題を突破することはできなかった。光姫もそれは計算済みだったようで、


「大丈夫ですよ、お二人とも。とてもよく頑張っていたと思います。初日なんですから上出来です。杏哉さんもぐんぐん強まっていますね。素晴らしいです。お三人方、明日から始業式まで、一日中訓練を続けますか?」


と、優しく微笑んでそう言った。


「はい、引き続きお願いします。」

「アタシも頑張るわ。」

「僕も参加します。」


三人は同時に頷く。その返事に、頼もしい側近達を持ったと、光姫はしみじみとした。

訓練場からの帰り道、メイサと光姫が前列で談笑している後ろで、悠は杏哉の隣で歩いて他愛もない話をしながら歩いていた。悠は杏哉に問う。


「ねぇ杏哉、杏哉はさ、訓練でどんなことしてんの? 杏哉レベルだったらさ、これ以上上がるものないと思うんだけど。同じく光姫先輩もなさそう。」


純粋な疑問だった。悠やメイサのようなレベルの低い能力持ちなら、上に登るためにすべき事はたくさんあるだろう。だが、杏哉、ましては光姫など、最高峰の能力者達にこれ以上するべき訓練などあるのだろうか。すると、杏哉はあっけらかんと答える。


「そんなことないぞ。練習すればするだけ上がるからな。俺はな、この間、光姫様と一緒に訓練をして、覚醒したんだよ。だから、今は其の精度を上げる訓練をしてる。なんていうかまぁ…特別難しいことじゃなくて…。人外の、友達を増やすような感覚かな?」

「ふぇ? 友達を増やす??」


其の返答に、悠は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。


「てか、覚醒って何?」

「実はさ、俺自身で指示せずとも、俺の気持ちを読み取って植物達が勝手に行動してくれるんだよ。其の状態になることが覚醒かな。」


其の言葉に悠は唖然として目を見張った。自分自身で置き換えると、悠が考えずとも、自身の能力である〝水〟が何か行動に起こしてくれるということか。


「えぇ…。ねぇ、それ、僕にもできるの?」

「いや、無理だろうな。光姫様は、俺の覚醒の能力は、樹護宮家でも、限られた人間のみが操れるようになるらしいんだ。だから、俺は詳しく知らないが、もし水属性にもこういう力があるのなら、側近の家系だけだろうな。」


杏哉は腕組みをしてそう教えてくれた。ちょうど平均的な能力を持って生まれた身で、元から期待なんてしていなかった悠は、そっか、と眉一つ動かさずに頷いた。


「でもすごいなぁ…自分が考えなくても勝手に動いてくれるってさ…。信じられないや。」

「だよな。俺も初めは疑心暗鬼だったよ。」


悠が心の底からの感嘆の声をあげると、杏哉はクスッと声に出して笑う。


「それを使いこなせる杏哉もすごいけどね。」

「まぁな。俺、一応正当な側近の家系だし。」

「そこで謙遜しないのが杏哉らしいや。」


悠がそう言って茶化すと、杏哉はニヤッと笑みを浮かべて目を細めた。


「お前相手に、今更気を使う必要なんてないだろ。」

「それもそうだ。」


悠がくすくすと笑い声をあげ、つられて杏哉も声に出して笑う。男子二人が突然笑い出し、前を歩いていた女子二人は、思わず振り返って不思議そうな顔つきをした。

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