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能力者の日常  作者: 相上唯月
6サプライズ

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57/81

5ネタばらし

時は少し遡り、クリスマスの翌日の午前十時のこと。悠は光姫の部屋へ向かっていた。部屋へ到着し、ノックすると、内側から扉が開けられ、中へ招かれる。綺麗に整頓された部屋の中には既に、部屋の主である光姫はもちろんのこと、メイサもちょこんと座っていた。


「ここにいると、彼に話を聞かれる可能性があるので、隠し部屋に行きましょう。」


光姫の言葉に、事前にその部屋の存在を聞かされていたメイサと悠が、こくりと頷く。そして光姫は本棚の横へ移動すると、その見た目とは裏腹に、本棚が軽々とスライドして動く。すると、その場所に扉が現れた。光姫は机の引き出しから金色の鍵を取り出すと、現れた扉の鍵穴に差し込んだ。ガチャッと鍵の回る音がして、光姫は扉を開く。


「どうぞ、中へ。」


光姫にそう言われ、メイサと悠は顔を見合わせ、扉の奥へ入った。光姫もその後で扉をくぐり、本棚を扉の前にスライドして戻してから、扉を閉じた。隠し部屋の中はがらんどうとしていて、床は白色のタイル、壁も白色の壁紙で整えられていて、これぞまさしく〝無機質な部屋〟といった印象の部屋だった。


三人はどこからともなく部屋の真ん中で正座する。暫時の間、沈黙が流れ、ここに呼び出した光姫が重々しく口を開いた。


「今日みなさんにお集まりいただいたのは、他でもない、『杏哉さんのお誕生日会』に向けた準備のためです。」


光姫の言葉に、悠とメイサはコクリと頷いた。


「杏哉、誕生日が近いってなんで言ってくれなかったんだろう。杏哉のご両親から誕生日の贈り物が届かなければ、僕ら素通りしてたよ。」

「ほんと、杏哉のお母様に感謝しかないわ。大晦日当日でなくて、早めに送っといてくれて助かったー。」


今朝、何があったかというと。


今日はクリスマス翌日、つまり二十六日。実は今日の早朝、いつもの通り光姫が能力の訓練するために早起きすると、何やら大きな荷物が届いていたのだ。

使用人たちによると、今朝杏哉の母親がここを訪ね、これを置いて行ったらしい。杏哉に何を渡したかったのだろう、と疑問に思っていると、光姫の心を読んだかのように、玄関にいた使用人が説明してくれた。なんと、大晦日が杏哉の誕生日だそうで、そのプレゼントを持ってきたらしい。

杏哉の誕生日が今日も含め五日後だなんて、その場で硬直して瞠目している光姫は勿論の事、メイサも悠も知らないだろう。

光姫はそう推測し、悠とメイサにテレパシーを送った。まだ寝ていたかもしれないが、こんな一大事なのだから、二人ともテレパシーを聞いて飛び起きるだろう。ちなみに、テレパシーは寝ている間でも強制的に送られるのだ。


以上が、今旦に起こった出来事だ。


「早速ですが、杏哉の誕生日プレゼントはどういたしますか?」


単刀直入に、光姫が真剣な眼差しでそう切り出した。


「そうね…。素直に、杏哉の好きな漫画のグッズとかあげても喜ぶとは思うけど…。」


メイサは光姫の問いかけに対し、曖昧に答えてから、隣にいる悠へ視線を向けた。


「せっかく想い人が誕生日プレゼントを用意しようとしているんだもの。単なる物でも嬉しいとは思うけれど、お姉様に何かしてもらった方が、喜ぶと思わない? ねぇ、悠。」


メイサはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、悠の左手に、自分の右手を重ねた。悠はいきなり触れられて一瞬ビクッと手が震えたが、すぐに収まる。と同時に、メイサから思い切り視線を逸らされた。しかしメイサにはバッチリ見えている。彼の左耳が、夕焼けのように真っ赤に染まっている様子が。


「…そ、そうだね。」


悠は一言、途切れ途切れにそう返答したのち、小声で、「光姫先輩にコスプレとかでもしていただいたら…。」と付け足し、メイサを喜ばせた。


「コスプレ! ナイスアイディア! 確かに、お姉様に猫耳とかつけてもらったら、きっと大喜びするわよね。」


一方で光姫の反応はというと。


「コスプレ…? 私が、ですか? それは一体なぜ?」


首を傾げ、心底不思議そうに疑問を口にした。そう、超絶鈍感で超純粋な光姫は、未だに杏哉からの好意に気づいていないのだ。


「え、えっと…。」


メイサは率直に、光姫の疑問に答えることができず、口ごもった。周囲からバレバレであるとはいえ、杏哉の想いを外野が安易に本人に伝えるわけにはいかないからだ。


「そ、それはですねっ、光姫先輩! 男子という生き物は、コスプレに目が無いのですっ。猫耳なんて、その可愛さで身悶えてしまうほど。」


そこへ、悠が頬をひきつらせ、強引な助け舟を出した。想い人であるメイサが猫耳をつけた様子を想像し、正直な気持ちを述べたが、男子全員というのは、流石に言い訳じみすぎている。鈍感な光姫でも、いくらなんでも怪しむかと思いきや――。


「そうなんですね! 男性は皆さん、仮装がお好きなんですね。杏哉さんと同性の悠さんがいて助かりました。」


と、光姫は心の底から納得したような、嘘偽りない和かな笑顔を浮かべた。そして、


「では、私だけでなく、メイサさんにもして頂かないと。」


その矛先は、メイサへと向く。


「へっ、アタシ? でも…、」

「光姫先輩。」


メイサは困り果てた顔をして光姫に弁解しようとするが思いつかず、言葉を詰まらせていた所、悠が被せるように身を乗り出した。何か良い言い訳が思いついたのか、と頼もしく思っていると、彼の口からは思いがけない言葉が発せられた。


「そうです。メイサにもコスプレ、してもらいましょう。」

「へっ? ちょ、悠…なんで…。」


思わず素っ頓狂な声が出てしまった。理由を問うと、悠は途端に顔を紅潮させた後、渋々といった様子で、メイサの耳元で囁く。


「…僕が、メイサのコスプレ見たいから。」


一瞬で顔が耳元から離れるが、その一言が、メイサにとって爆弾発言だった。活火山が沸騰したような勢いで、メイサの額が床にぶつかる。そして、右だけ少し顔を上げ、悠を睨みつけるように見つめ、


「そういうのは、ずるい。…それにアタシだって、悠のコスプレめっちゃ見たいからね。」


と、顔を真っ赤にしてそうこぼした。これには、今度は悠が身を捩らす番だった。


そうして、二人して機能停止し、光姫はあたふたと戸惑う。


「でっ、では、杏哉さんの誕生日に、私とメイサさんが仮装をする、というのはいいとして、やはりプレゼントはどうなるのです?」


(そうだった…。お姉様は杏哉が自分に好意を抱いていることを知らないから、コスプレするだけでプレゼントになることがわからないんだ…。まぁ、コスプレの他にも何かは渡すつもりでいたけど。お姉様のコスプレが一番の贈り物になるんだよなぁ。コスプレした状態で上目遣いとかしたら、一生忘れない誕生日プレゼントになると思うんだけどな…。それこそ、今日日付が変わるまで、杏哉の望む事なんでもしてあげる、的な…。)


メイサの脳内では、光姫が杏哉に上目遣いをし、杏哉に何でも願いを叶えてあげる、と言った所まで再生されていた。だが、それはなかなかの問題発言だと気づく。


(相手は杏哉だし、理性的なのは十分承知してるけど……。何でもはまずいわ…付き合ってもいないのにそんな言い方したら流石の杏哉だって落とされちゃう…。)


メイサは一人で勝手に妄想し、顔を火照らせた。


「そうですね、他にはさっきメイサが言ってたように、漫画のグッズとか、日用品とかあげたらいいんじゃないですか。」


メイサが身悶えしてる横で、悠が真面目にそう回答する。しかし、光姫は浮かない顔をしている。普通のプレゼントでは、納得できないらしい。


「でも、もっと何か特別な…。」

「あっ、じゃあ、誕生日ケーキ作りましょうよ。この家には幸いにも葵がいるんだし、教えてもらったら、相当豪華な、特別なケーキを作れるわよ。」


そこへ、メイサが頭に電球を光らせたように、思いついたアイディアを語る。


「それはいいですね。…そうだわ、手作りの物を贈りましょうよ!」

「手作りか〜…じゃあ、ぬいぐるみとか作る?」


目を輝かせた光姫に、メイサはかなりハイレベルなプレゼントを提案する。


「ぬいぐるみ? なぜ? というか作れるの?」


それに対し、悠は冷静に彼女の提案にツッコミを入れる。


「作れるかどうかじゃないの。作ってみるのが大事なのよ。杏哉はもちろん、お姉様と、アタシ、それに悠のぬいぐるみを作って渡しましょう! いつのプレゼントか分かるように、制服も着させてさ! アタシと悠とお姉様は中学の制服、杏哉は高校の制服にするの。どう? いい案でしょう?」


メイサは先程の光姫のように、溢れんばかりに目をキラキラと輝かせた。


「そんなの無茶じゃ…、」

「いいですね! やりましょう!」


悠は呆れ顔でメイサの考えを一蹴しようとしたら、その横から光姫が勢いよく食いついた。


「え〜…。」


メイサと光姫が感情を高揚させて手を取り合っている中、一番よく状況を理解している悠は、この先のことが思いやられ、ゆっくりとため息を吐いた。

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