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能力者の日常  作者: 相上唯月
6サプライズ

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4疎外感

この頃、光姫やメイサ、悠の様子がおかしい。


十二月二十八日。クリスマスを終え、冬休みの課題をひたすら終わらせていく日々。杏哉は、事前に立てていた計画のところまで宿題を終え、教材を閉じた。


そして席を立ち、内側から部屋のドアを開け、廊下に出る。廊下を歩いて二階から一階へ階段を降り、リビングへ向かう。そしてリビングへの扉を開き、中を覗く。


(…やっぱり、誰もいない…。)


そう、ここ数日間、溜まり場であるリビングに光姫、メイサ、悠の姿が一切見られないのだ。もちろん、これまでも杏哉が訪れた時に必ず彼らがいたわけではない。しかし、いくらか待っていると、誰かしらがやって来ることが多かった。一昨日、昨日と、杏哉は数時間、誰かが来ることを待っていたのだが、誰もやって来なかった。


(別に、約束してるわけでもないし、そんな日が続いてもおかしくはないがな…。)


ここまでは、決しておかしな話はないのだ。杏哉は一人、リビングの広い座り心地の良いソファにどかっと座り込み、ため息をついた。


(けど、どこの部屋を探しても、三人とも見当たらないのはおかしいだろ…。外出してるわけでもなさそうだし…。)


そうなのだ。問題はここから。





杏哉は昨日、数時間ソファに居座り、誰かと読もうと持ってきた漫画を一人寂しく読んでいたのだが、やはり人恋しく、悠の部屋を訪問することにした。そして悠の部屋の扉をノックしたのだが、返事がない。耳をそばだてるも、人のいる気配がしない。仕方なく、今度はメイサの部屋を訪れた。だが、こちらもいない。


(この二人、付き合い始めてからずっとベッタリしてるからな…。どこかの部屋にでも遊びに行ったんだろう。)


この屋敷には様々な用途のために作られた部屋がある。娯楽部屋だと、部屋いっぱいに本が並べられた図書部屋、大きなモニターが部屋にかけられた映画鑑賞部屋などなど、行き着く先にはカラオケ部屋まである。メイサと悠が二人でそれらの娯楽部屋に遊びに行っていたとしても、おかしな話ではない。むしろ自然だ。あんなにラブラブしてるのだし。


(となると、残りは光姫様か…。)


杏哉は一人で咳払いし、跳ねている髪がないか確かめた。そして深呼吸をした後、光姫の部屋へぎこちなく足を運ぶ。そして部屋の前で再び深呼吸をすると、意を決して部屋をノックした。沈黙。


(いない、か…。)


揃いも揃って部屋から外出中というわけだ。先ほど玄関を通った時、三人とも靴は置いてあったので、屋敷のどこかには居るはずだ。まぁ、こんな日もあるだろう。杏哉は一旦リビングへ下がり、しばらくゲームをしていたが、やっぱり誰も訪れない。


人肌が恋しい。


三十分ほど経って、孤独なシングルプレイゲームをリタイアした。


(よし、探しに行くか。)


杏哉は勢いよくソファを立ち、リビングから出て行く。この後、彼らの行きそうな思いつく部屋を手当たり次第訪れたが、成果は得られなかった。


(…あ、いいこと思いついた。)


その時、杏哉の頭の上でピカッと豆電球が光った。杏哉は下を向き、廊下の床を見た。フローリングの、木目や艶が際立つ床。時を重ねるごとに経年変化していく、無垢フローリングだと思われる。杏哉はその場にしゃがんで床に手を当て、神経を研ぎ澄ます。


(あ、他の階のフローリングにも聞いてくれるって? そりゃありがたい。)


杏哉は緑の能力の一つである〝クサヨミ〟で年季の入ったフローリングから、その声を聞く。繰り返し言うが、声と言っても、植物の声が聞こえてくるわけではなく、頭に直接響いてくる感じである。それでも、その声の質感はぼんやりと感じ取ることができ、フローリングが悠久の年月を経ていることが伝わってくる。


(いない? え、床がフローリングじゃない所にいるって? そんな場所、この屋敷内にあったかなぁ…。)


三階までのフローリングから声を聞いたが、彼らは光姫たちの居場所を知らないと言う。なんでも、床が木ではない場所にいるんだとか。しかし、杏哉が思いつく限りでは、この屋敷内に床がフローリングでない場所はお風呂くらいしかない。まさか、こんな昼間からお風呂なんて入っているわけがない。


(あ、そうだ。最後に光姫様達がいた場所って覚えてる? …覚えてない? そうか、そうだよな。何処に誰がいるかなんて、いちいち覚えてないよな。うん、みんなありがとう。)


杏哉はフローリング達に礼を言い、よっこらしょっと立ち上がった。


(そういや、フローリング達ってどうやって人を区別してるんだろ。俺たち四人以外にも、使用人もたくさんいるし、体重とか声とかで区別できるものなのかなぁ。)


杏哉は昨日こうして、人探しに失敗し、諦めて自室へ向かったのだった。





今日もまた、一時間ほど経ってから、観念して自室へ帰って行った。もちろん、食事の時間は必ずやって来るので、一日中会えない、というわけではない。


(けど、その食事の時間もなんだかなぁ、俺、なんとなく疎外感を感じるんだよな。)


こちらは確証がない。本当になんとなく、だ。あからさまに無視されているわけではないのだが、ふとした時に、杏哉を除いた三人でアイコンタクトを交わしているような錯覚がする。


(よく分かんないけど、時間が経ったら元に戻るよな。うん、気にしない方がいい。)


全て杏哉の勘違いかもしれないのだ。そんな状態で、愛する彼らと険悪な空気を作りたくない。杏哉は深く思案しないことを心に決めた。

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