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能力者の日常  作者: 相上唯月
6サプライズ

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3みんなでプレゼント交換

「えー、夜にするって話じゃなかった?」


メイサはおさまらない笑いを無理やり抑えながら、光姫にニヤリと笑いかけると、彼女は顔中、さらに耳まで真っ赤にした。その後、彼女は冷静さを取り戻そうと、息を吸ったり吐いたりしていたが、しばらくして、いつも通りの聡明そうな顔つきに戻った。


「そうでしたか? なら、また後で…、」

「あー、ううん。いいの、いいの。お姉様、よっぽど楽しみにしてたんだものね。今やりましょう。」


メイサは誤魔化そうとする光姫の言葉を遮り、彼女の後ろに置いていた白い箱をつかんだ。この中に光姫、メイサ、悠、杏哉が用意したクリスマスプレゼントが入っており、それをジャンケンで決められた順番に取っていくのだ。みんな同じ袋に入っているため、袋を開けるまで誰のものかはわからない。


四人はジャンケンし、一番初めに引くのは杏哉となった。杏哉は白い箱に手を突っ込み、勢いよく引っこ抜く。そして、するするとリボンをほどき、中身を取り出した。


「これは…文具セット?」


杏哉が取り出したのは、シャーペンにペンケース、ノートに定規といった、多彩な文房具が詰められた袋だった。それらは有名メーカーの文房具で、明らかに使い勝手が重視されていそうなチョイスだった。これは確かめずとも、贈り主が誰なのか一目瞭然だ。


「このプレゼントお前からだろ、悠。なんで文房具なんだよ、クリスマスにも勉強しろってか?」

「うん、僕の。だって誰が手に取るか分からないんだもん。文房具くらいしか入れるものないよ。」


杏哉が呆れたような口調で悠に視線を向けると、悠は肩をすくめてそう返した。そこへ、


「いいなぁ、杏哉。アタシ、悠からのプレゼント狙ってたのにぃ。」


と、甲高い嘆きが響く。頬を膨らませるメイサに、杏哉が「欲しいならあげるが? その代わり勉強しろよ。」と揶揄して返し、彼女を黙らせた。


そうして、光姫、メイサ、悠は二度目のジャンケンを行い、勝者はメイサとなった。メイサが袋を開け、中身を取り出すと、出てきたのは白い小さな箱だった。


「あ、それ私のです!」


すると、メイサの隣で頬を赤らめた光姫が、ぴょんぴょんと跳ねた。


「え、お姉様から⁉︎ 嬉しい〜! アタシ、悠か、お姉様からのプレゼントが欲しかったのよ!」

「おい、俺は?」

「いやー、まぁ、杏哉でも嬉しいけどさ〜、…ねぇ?」

「辛辣すぎる! その同情するような言い方がまた酷い!」


二人のやりとりに、その場に笑いが生まれる。勿論、メイサは杏哉からのプレゼントだって遜色なく嬉しかったはずだ。そういえばこの二人の掛け合いを見たのは何気に久しぶりな気がする。悠はしみじみと思った。


「ハンカチだわ! すごい気持ちよさそう!」

「はい。男女どちらに当たるか分からなかったので。デザインはシンプルですが、実用性は高いと思いますよ。」


メイサは無地の紺色のハンカチを気に入ったようで、頬にすりすりとハンカチを押し当てている。


そして、残る敗者は光姫と悠。二人は3度目のジャンケンをし、勝者は光姫となった。


「マグカップとソーサー! とっても可愛い! これはメイサさんからですか?」

「いいえ、アタシじゃないわ。」


光姫は袋から中身を取り出し、瞳を輝かせた。カップの淵の部分を金色の葉の模様で縁取られ、真ん中ほどまで綺麗なコバルトブルーで彩られている。男女どちらにもウケが良さそうな代物だ。そして、光姫のその表情の変化を見るに、さぞかしお気に召したのだろう。贈り主をメイサと想定するが、見事に外れた。となると、このプレゼントの贈り主は…、


「私からです。」


杏哉が口元をニヤつかせながら、すっと片手をあげた。光姫にプレゼントを気に入られて嬉しかったのだろう。


「そうなんですね! とっても良いセンスですね。大事にします。」


光姫はマグカップとソーサーを腕に抱え、にっこりと微笑んだ。杏哉は感無量、といった様子で光姫の言葉、仕草を噛み締めるように徐ろに頷いた。


「…となると、残りはメイサからの悠へのプレゼントか。」


ゆっくり頷いた後、杏哉がニヤニヤしながら、メイサの顔を見てそう言い、さらに続ける。


「未来予知で覗き見とかしてないよな? プレゼント当たる相手が悠だって、事前に知ってたりする?」

「知らなかったわよ。確かに昨日、覗いてやろうかと一瞬頭にはよぎったけど、それだと楽しみがなくなっちゃうじゃない。でも…悠に当たったか…。未来予知しとけばよかったかも…。」


メイサはそう言って、少し惜しそうに悠を見つめた。メイサに見つめられ、居心地悪そうにしながらも、悠は袋を開け、中身を取り出す。


「ハンドクリーム? あ、このメーカー…ロクシタンって聞いたことある。植物由来の良い香りが人気なんだっけ。」

「流石は悠ね。普段ハンドクリームなんて使わないでしょうに。豊富な香りだけじゃなくて、保湿力もいいのよ。それはローズの香りね。アタシ、プレゼントに何を入れたら良いか分からなくて、女友達に渡して喜ばれて、且つ男性にも渡せるものって考えて…。お姉様に当たれば万々歳だったんだけど…。悠、別に無理して使わなくてもいいからね。」

「何言ってんの、使うに決まってるよ。メイサからもらったプレゼントなんだから。メイサ、ありがとう。」


メイサが申し訳なさそうに話すと、悠は花のように微笑んで彼女にお礼を言った。そして二人は互いに互いを柔らかな眼差しで見つめ合う。それは、心の奥底から大切に思っていて、一生手放したくない、という意志のこもった――、


「おい、お前らほっとくと、本当にすぐいちゃつき出すな…。そういうのは二人だけの時にやってくれ。」


するとそこへ、杏哉が呆れ顔で割り込み、熱のこもったアイコンタクトを中断させた。


「はっ? 別にいちゃついてなんか…。」

「そうよ、そうよ!」


二人は同時に赤らめた顔を背け、杏哉に抗議するが、杏哉は相手にしない。その様子を、光姫はクスクスと、お淑やかに笑いながら見守っている。


楽しく充実したプレゼント交換の後、光姫たちはカードゲームやテレビゲームなどで遊び、夕食までの時間を過ごした。ゲームは普段から、食事の後に行う日もあるが、こんなにも満足に遊んだことはなかった。夕食はクリスマスのため豪華な料理が出された。ローストビーフにビーフシチュー、ピザにスパゲッティ、それから……数え切れないほどの料理が食卓に並び、使用人全員と共に食べた。クリスマス、大晦日、お正月などは使用人と共に食卓を囲む、というのが守光神家の恒例行事らしい。普段より遥かに賑やかな夕食を食べ終え、光姫もメイサも杏哉も悠も、この上ないほど充実したクリスマスを終えた。





充実したクリスマスパーティーを楽しんだ夜。光姫はメイサと共に風呂に入った後、自室へ戻ろうとすると、光姫の侍従である明光さんに引き留められた。


「どうかなさいましたか?」

「荷物を自室へ置いてから、談話室に来てもらっても構いませんか?」

「わかりました。」


深刻そうな明光さんの顔を見て、只事ではないと感じた光姫は、急いで自室へ戻った。そして荷物を置くと、談話室へ向かった。光姫はまだ中学生であるが、当主として、この部屋で日頃から悩みを抱える能力者達の話を伺ったりしている。もちろん、難しい書類等は明光さんたちに任せっきりだ。光姫は明光さんに促され、彼女の向かいの一人用ソファに腰掛けた。明光さんは深呼吸をすると、光姫の目を据えて重々しく口を開いた。


「実は…来年から、能力者ハンターが本格的に動き出すそうです。」

「え? どういうことですか? 今までも、十分動いているではありませんか。」


光姫は明光さんの話す内容の意味がわからず、そう尋ね返した。


「いいえ。まだまだ序の口ですよ。だって、光姫様の通っている学校だって、能力者がいると認識されているのに、すぐにハンターがやって来なかったでしょう。それが、来年からはハンターの数も増やし、容赦なく徹底的に捕まえにいくみたいです。」

「そ、そんな…。これまでの彼らは、まだまだ手加減していたということ…。」


明光さんの発言に、光姫は顔を青白くした。


「そ、その情報はどこから?」

「対能力者省に潜り込んでいたスパイからです。」

「まぁ…。」


対能力者省は其の名の通り、能力者に関連する決め事をする機関。能力者ハンターを何処へ動かすか、収容所の様子はどうなっているか、など様々なことを管理している。


「光姫様、この情報は私とあなたしか知りません。他の方には、新年の挨拶の際に、光姫様の口から仰ってください。今年もあと数日で終わりです。せめて今年いっぱいくらいは何も知らず、ゆっくりしましょう。お願いいたします。」


明光さんはそう言って頭を下げた。


「…わかりました。」


光姫は一言目を話した時の明光さんのように、重々しく首肯した。

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