表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力者の日常  作者: 相上唯月
6サプライズ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/81

2クリスマス

翌日、クリスマス。


当然、枕元にプレゼントは置かれていない。物心ついた時からそうだ。この家にクリスマスツリーはないので、その根方にも置かれていない。そのため、プレゼントは毎年偽りのサンタからの贈り物ではなく、父と母から手渡しされていた。今年はそんな両親もいない。光姫は囚われた父親と、里帰りしたままの母親の顔を思い浮かべる。たった三ヶ月だが、もう随分長い事会っていないように感じられる。光姫は徐に窓の外を眺めた。雪がしんしんと降っている。初雪だ。


だが今年からは、両親の代わりといってはなんだが、プレゼントを交換する親友達、家族がいる。自然と口角が上がり、光姫はベットから身を起こして寝巻きを脱ぎ始めた。そして今日のクリスマスパーティーのために購入した新品の一張羅に着替え、顔を洗いに部屋から出る。


振り向きざまに窓外が見えた。息を潜めるように舞っていた雪が、降り止んでいた。





「お姉様、おはよう! まぁ、そのドレスすっごく可愛いわ!」


光姫がダイニングルームへ向かうと、先にやってきていた最愛の妹・メイサが、すぐさま光姫に駆け寄ってきた。光姫が着ていた一張羅は、純白の生地に透かし彫りレースが華やかな、ミモレ丈の袖ありドレス。柔らかに広がるチュールスカートに、上品なワントーンと細やかな花柄レース。光姫の清楚さ、純潔さがとてもよく表れていた。


「ありがとうございます。メイサさんもとてもよく似合っています。ですが、なんというか…セクシーですね。」


メイサの着ているドレスは、華やかな赤色のフィッシュテールスカート、オフショルダーに薔薇の刺繍のしてあるミニドレス。少し広めに胸元が開き、背中もレースアップデザインで背中の半分程が見えている。


(それになんというか…胸元が開けてるドレスを着ている事自体から、すでに妖艶なのだけれど…それ以前に、メイサさんって…。)


光姫は徐に顔を下に傾け、自身を見下ろした。まず目に入るのは純白のドレス。そして、そのドレスの型を取る自身の身体。身体に意識を向けると、腹の上に起伏が伺える。光姫は自身の胸に触れ、そしてメイサに視線を移した。胸元から覗く谷間からは、両胸を互いに圧迫しあって、深い線を形作っている。一方で、光姫はどうか。


(私…別に自分が微乳だとは思っていなかったけれど…いや、別に一般的に見ても普通だと思うけれど…。なんだかメイサさんと比べると、どうしようもなく違いが…。)


メイサとの圧倒的な隔たりを目の当たりにして、我知らず虚しくなる光姫。そんな光姫の思考を知って知らずか、メイサは腰に手を当てて胸を張りながら、先ほどの光姫の言葉に応える。


「だって…昨日悠と付き合うことになったのよ。少しくらい攻めてもいいと思わない?」

「そうですね…って、え? メイサさん、そのドレスを購入したのは数週間前でしょう? 告白される前から、悠さんに告白されることを知っていたんですか?」

「あっ…。さ、察したのよ。」

「まぁ、そうでしたか。メイサさんって鋭いんですね。」


未来予知のことを知らない光姫であるが、人を疑うことを知らない彼女は、メイサの答えを素直に受け取った。


「ですが、所詮は家の中でのパーティーですよ。そんな気合いの入ったドレス…。」

「アタシの気合いの入れ方とは違うけど、お姉様も大概よ。でも、屋敷の中でのパーティーとはいえ、あの二人にも正装してきて、って言ったもの。決して浮くことはないわよ。」

「そうでしょうか…。」


メイサに指摘され、自分のドレスも派手すぎたかと、恥ずかしくなっていたところへ――。


「おはようございます、光姫様。」

「おはよう、メイサ。」


杏哉と悠が同時に部屋へ入ってきて、それぞれ想い人に向けて挨拶をした。そして、また各々が想い人の姿を目に映し――、


「…光姫様、そのお姿…。な、なんと神々しいことでしょう!」

「メイサ…ごめん、直視できない。」


と、顔を赤くして、夫々身悶えた。


では、まずは光姫&杏哉パートから。


「神々しい? ふふ、過分なお言葉ですね。」


光姫は天使のような微笑みを浮かべ、嬉しそうに笑い声をあげた。


「過分だなんて! 心の底からそう思います。」

「杏哉さんも、今日は随分きまっていますね。よくお似合いです。」


杏哉が着用していたのは、程よい光沢感のある素材の、ネイビーカラーのスーツ。


「ありがとうございます。」


光姫にお返しに褒められ、杏哉は顔を綻ばせる。だが、いくら気合を入れても、男性は女性のように華やかにはならない。制服姿と比べて、あまり変わり映えしていないと思う。光姫の言葉がお世辞だとは思わないが。


一方で、メイサ&悠はというと。


「悠、おはよう。」


動けずにその場に硬直している悠の元へ、メイサが歩を進める。そして、俯いている彼の顔を覗き込み、先ほどの挨拶を返す。そして、悠の格好を上から下まで舐めるように眺めた後、唐突に、悠に抱きついた。勢いよく抱きつかれ、悠は後ろに倒れかけそうになるのを踏みとどまる。


「ど、どうしたの?」

「今日の悠、かっこいいなぁ、と思って。」


耳元で囁かれたメイサの言葉を受け、悠の顔は急速に熱を帯びていく。


「な、何が…?」

「何って、格好が。全身白色のスーツなんて、普段は着ないじゃない。とっても似合ってる。格好いいわ。でも、なんで白なの? 悠のチョイスじゃないわよね。悠が、そんな派手な服選ぶとは思わないもの。」

「全部見透かされた気がする…。そうだよ、杏哉に選んでもらった。というか、勝手に選ばれた。」

「やっぱり。」


メイサは微笑みながら囁くそうにそう呟き、抱きしめる力を強くした。


「…でも、なんで格好良かったら抱きつくの…?」


寸刻経っても、悠から離れる気配のないメイサに、悠は恥ずかしげに尋ねる。


「ええ? そりゃ、愛情表現よ。こんな格好いい彼を、誰にも渡したくない、アタシだけのものだって。それを実感して、確かめるため。」


メイサは少しも恥じらう様子を見せずに、堂々と言い切る。悠はそんなメイサとは対照的に、茹蛸のように顔を真っ赤にし、相槌を打つ。


「そ、そう…。」

「ってことで、悠もちゃんとアタシを見て。直視できない、なんて言ってちゃダメ。」


メイサはそう言って、悠から腕を離し、彼の顔を自分に向けさせた。


「どう?」


メイサが腰に両手を当て、少し前屈みになって尋ねる。その姿勢は故意なのか、ただでさえ広めの胸元が、さらに強調される。以前から微かに頭の片隅で思っていた事だが、今ここで確信に変わってしまった。やはりメイサは一般的な女性に比べて胸の起伏が大きい。今日の服装と、元来の体型も相まって、とても直視できるような格好ではないのだが、悠は思い切って、真っ直ぐに彼女を見つめた。そして、メイサに徐に近づく。


「?」


顔に疑問符を浮かべるメイサの背中に、悠は思い切って腕を回した。半分程開いている素肌に触れ、悠は慌てて、布のあるところへ腕を移した。


「…すっごく可愛い。」


悠はそうして彼女の耳元で呟いた後、すぐに抱擁を解いた。一瞬の抱擁だったのに、体と顔が火照って、メイサは呆然と立ち尽くした。


「でも、僕にはまだ、ちょっと刺激が強すぎるから…ちょ、ちょっと待ってて。」


呆然としているメイサを置いて、悠はダイニングルームから出て行く。そして約一分後に戻ってきて、メイサの肩に灰色の何かをかけた。それはカーディガンだった。


「あの、できれば着ていただけると…。」

「あ、う、うん…。」


顔を逸らしながら、けれどもその横顔がバッチリ赤くなっていることが丸見えな彼に対し、メイサは反論する気にはなれず、素直にカーディガンに腕を通した。少し大きめで、透き通る水のような、悠の匂いがした。


「これで、ちゃんとメイサを見れるようになった。」


顔を上げると、そう言って微笑む悠の顔が目に映る。真正面から見つめられ、メイサは面映くなって目を逸らす。すると、悠の視線がメイサの頭の左右に向かった。


「あ…そういえば、今日も昨日あげた髪ゴム、使ってくれてるんだ。嬉しい。」


メイサは早速、悠からのクリスマスプレゼントのリボンを使用していた。悠からの贈り物、という理由も大きいのだが、メイサ自身このデザインを甚く気に入っており、これからは三つ編みがスタンダードになりそうだ。


「ええ。すごく気に入っているの。」


メイサが心の底から微笑むと、悠もメイサに同じように笑い返してくれる。そうして、二人だけの幸せな空間に包まれていると、


「お前ら早くこっちこいよ。いつまでイチャついてんだ。」


と、呆れたような杏哉の声が、メイサの耳に入り込んできた。メイサと悠が同時に声のした方を向くと、杏哉はその声通り呆れ果てたような顔をしていて、その隣には、何故だか興奮したように顔を赤くしメイサたちを凝視する光姫の姿があった。悠とメイサは途端に顔を真っ赤にして、二人の元へ駆ける。


「そうそう、二人に渡したいものがあるの。悠には昨日渡したから。」


そこで、メイサは思い出したようにポンと手を打ち、光姫と杏哉に微笑みかけた。


「ジャーン。この間、葵に伝授してもらって作ったお菓子よ。一応補足しておくと、プレゼント交換のプレゼントとは別だからね。」

「まぁ! ありがとうございます、メイサさん! ジンジャークッキーですね! どの方も表情が違って面白いです。メイサさんはとても器用で、上手ですね。」

「俺のにはスノーボールが入ってる。あとカップケーキ。うまそう。ありがとう。」


二人から感謝の言葉を受け取り、メイサは顔を輝かせ、頷いた。


「どういたしまして。お姉様は見た目重視、杏哉は量を重視したの。」

「俺はそんな健啖家じゃないぞ。」


少し不機嫌そうに眉を顰める杏哉に、思わずメイサはクスクスと笑い声をこぼした。つられて悠も笑い出し、しまいには光姫まで口元を手で覆って笑い出した。


(葵にも渡したいけれど、彼女は今、彼氏とデート中なのよね。)


そして、帰って来るのはディナー後らしい。


(いいわね、デート。まぁアタシも昨日した訳だけど…。葵、楽しんでるかしら。ま、あの子のことだから、楽しくないわけないわね。)


メイサは、葵ならば何時如何なる時でも、あのハイテンションで楽しめる気がした。


「みなさん、あ、あのぉ…そ、そろそろ、プレゼント交換をしませんか?」


すると、光姫がさらりと思い出した風にそう切り出した。けれど、よく見ると頬をほんのりと紅潮させている。きっと、プレゼント交換がしたくてたまらなかったが、素直にそう言うには子供っぽくて恥ずかしかったのだろう。メイサは微笑ましい姉の姿を見て、クスクスと小さく笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ