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能力者の日常  作者: 相上唯月
5平穏
51/81

21プレゼント交換

レストランを後にし、三人は再び車へ乗り込んだ。目的地の高台へは、約三十分かかる。都会から少し離れ、坂道を登って行くのだ。


メイサが隣に腰掛ける悠の方を一瞥すると、彼は窓の外を眺めていた。よく見ると、体全身が震えているように見える。これから告白するのだから、緊張するのは分かるが、体全体震える、とまでいくと、逆にどこか具合が悪いのではないか、と心配になってくる。メイサもメイサで、これから告白されると思うと今更ながら緊張して、悠とは一言も言葉を交わさずに、高台へ到着した。


メイサが未来予知で見た通り、そこには特にこれといったものはなく、周囲にはアベリアやケヤキが植えてある広場だった。高台の入り口から少し進んだ、前方が開けた場所に木製ベンチが置かれており、そこからは屹立する数多の超高層ビルがよく見えることだろう。


「悠、行こう。」


未来予知でその光景は一度見ているが、あのような景色は、何度見ても飽きることはないと思われる。メイサは光り輝くあの絶景の見たさから、躊躇わずに悠の手を引いて、ベンチへと走った。


「わぁ〜!」


前回見た時は、この、なんともロマンチックな光景に対し、感嘆の声どころか、声一つ発することが叶わなかった。すっかり暗くなった空にはほんの少しだけ欠けた月が浮かび、見下ろせばあちこちで大都会の街の光が煌々と輝くこの絶景。車のヘッドライトが鮮やかな流れとなって街から街へと流れ、あちらこちらに赤と緑の装飾がのぞいている。


「そうだ悠、アタシ、悠に渡したいものがあるの。」


メイサはベンチに腰掛け、リュックをおろして中身を漁った。葵仕込みのクリスマスプレゼントを掴み、隣に腰掛けた悠へと手を伸ばす。


「悠、メリークリスマス。アタシからのクリスマスプレゼントよ。」

「えっ、あ、ありがとうございます!」


悠は予想もしていなかったらしく、寸刻の間、瞠目した後、花が咲いたような満面の笑みで受け取った。


「ジンジャークッキー! メイサ先輩の手作りですか? とっても上手ですね。売り物みたいだ。特にこの、お花の模様が、細かくてとても難しそうです。僕のために、どうもありがとうございます。」


悠は数枚のクッキーの柄を、中の見えている透明な袋の上から眺め、感想を言った。


「ありがとう。喜んでもらえて嬉しいわ。」


自分の作ったものを褒められ、メイサは素直に嬉しく思い、お礼を伝えた。


「帰ってから味わって食べますね。」

「ふふ、味わうってほど、普通のクッキーと変わらないわよ。見た目にこだわったから。」

「普通のクッキーと同じなわけがありません。メイサ先輩が僕のために作ってくれたクッキーです。市販のものの何倍の美味しいに決まっています。」


悠の台詞に、メイサが苦笑しながら突っ込むと、悠は真面目な顔でそんなことを言う。メイサは思わず伏し目がちになり、


「…そ、そう。じゃあ、食べたらまた、感想教えてくれる?」


と、おろした髪を指先でくるくると巻きながら、そう頼んだ。


「もちろんです。」


すると、悠は何を当たり前のことを、という風な表情で、こくりと頷いた。


「あの、メイサ先輩のような、こんな凄い代物ではありませんが…僕からも、一応クリスマスプレゼントがあります。どうぞ。」


悠はそう言って、カバンから取り出した、包装紙に包まれた物をメイサに手渡した。


「…これは?」

「開けてみてください。」


悠の言葉を受け、メイサが包み紙を剥がすと、現れた物は――。


「…リボン?」


箱を開けると、そこから出てきたのは、二つの髪飾りのリボン。淡いピンクの生地の上が同じく薄い桜色のレースで覆われた、小さめのリボン。リボンの長い部分が、リボンの本体の五倍の、約三十センチほどの長さがあり、異常に長いことから、この部分を編み込みにするように作られたリボンだと思われる。


「はい。メイサ先輩はいつも二つ結びをしているので…。」


悠の方を見ると、彼はメイサから視線を逸らし、頬を赤く染めていた。女性へのアクセサリーを選び、それを贈った事が面映いのだろう。辺りは暗いが、街灯が二人を照らしているため、お互いがよく見える。メイサは悠からもらったプレゼントを胸に抱いた。


「ありがとう。すっごく可愛い。大切にする。…そうだわ。悠、今、アタシにつけてよ。」

「えっ…。せっかくおろしてきたのに?」


メイサが悠にお願いすると、悠は少し残念そうな、けれども嬉しそうな、二つの感情を混ぜ合わせた表情をしていた。


「せっかくも何も、悠がくれたプレゼント、すぐにつけたいもの。」


メイサはそう言って、箱からリボンを取り出し、悠に差し出した。


「ぼ、僕、髪なんて結べませんよ。」

「じゃあ、ツインテじゃなくて、ポニテでいいわ。そっちの方が簡単でしょ?」

「…まぁ、多少は。」


それでも難関ですよ、とぶつぶつ呟きながらも、悠はメイサの手からリボンを受け取り、メイサの後ろに移動した。そして、丁寧な手つきでメイサの髪を梳いていく。悠に髪を触られ、メイサは妙に心臓が高鳴った。


「…一応、結べました。どう、ですか?」


メイサが胸の高鳴りを抑えようと、深呼吸を繰り返していると、悠がメイサの髪をポニーテールに結び終えたようで、メイサに確認を求めた。メイサは感心して、自分の髪を触る。


(凄い。アタシ、編み込みにしてって頼んでないのに、ちゃんとリボンの紐の部分を入れて、三つ編みしてる。)


頭のてっぺんの方を触っても、目立って髪が凸凹している部分はない。


「え〜! 悠、めっちゃ上手じゃない! 手櫛でよくここまで上手く結べるわね。男子のくせに。」

「あ…ちゃんと〝男子〟って言ってくれるんですね。よかった。前は〝女子〟だから当たり前、みたいなこと言って揶揄ってきたのに。」


何気なく、メイサが悠を褒めたのちに一言付け足すと、悠はわずかに目を見開いた後、クスクスと笑った。


(言われてみれば、確かに…。最近のアタシ、悠のこと〝異性〟として見てたからな…。)


指摘され、メイサはカーッと顔が熱くなった。が、悠にはその意味が伝わらないようで、


「メイサ先輩? どうしました?」


と、本気で分からない、という風に、メイサを心配した。

メイサが言い返す言葉を選んでいると、


「そういえば、言い忘れてましたが。そのリボン、やっぱり僕の思った通り、メイサ先輩にとてもよく似合っていますね。可愛いです。」


悠はさらにメイサの顔を沸騰させるような発言をした。それが彼の素、というのもタチが悪い。本人には、メイサを照れさせている、という自覚が全くもってないのだ。


(あぁもう、これだから悠は…!)


「あのね、悠。」

「はい?」

「そういうこと、平気な顔して言わないでよね。」


メイサは顔を真っ赤にして、メイサの隣に戻ってきた悠に向けて抗議する。


「そういうことって?」


それでも、悠には心当たりがないようで、首を傾げる。


「だからもうっ、じゃあ、アタシから仕返しよ。」

「仕返し?」


メイサがビシッと人差し指を悠に向け、息を大きく吸って叫ぶ。


「アタシは、悠がかっこいいと思う! 今日の服装、いつもに増して悠がかっこよく見えて、アタシ、思わずへたり込んじゃったんだから!」

「は、はい⁉︎」


メイサの言葉に、悠は途端に顔を茹蛸のように真っ赤にし、後方に退いた。


「いい? 分かった? 悠はね、今みたいなこと、無意識のうちにしょっちゅうアタシに言ってたのよ。言われる側の気持ちになってみなさい。」


メイサは先ほど恥ずかしいことを言ったのを誤魔化すように、早口でそう捲し立てる。


「え、あ、はい…。」


悠はなぜか責められていることに疑問に思いつつ、素直に首肯した。


「…というかさっき、メイサ先輩、僕のことかっこいいって…。」


のちに、冷静になった悠は、先ほどのメイサのセリフを頭の中で思い浮かべる。


「…そうよ。かっこいいわよ。」

「それって…。」

「それを、アタシに言わせる? 自分も同じ気持ちなのに?」

「えっ…。」


悠の方も、メイサが自分に好意を寄せている、ということは杏哉から話されていたために知ってはいた。だが、それが真実かどうかは確かめようがなかった。


(メイサ先輩、本当に、僕のこと…。)


メイサは確かに、悠と同じ気持ち、と言った。つまり彼女の方も、悠の気持ちに気づいていた、ということか。それが今更ながら恥ずかしく、悠はメイサから顔を逸らした。

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