表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力者の日常  作者: 相上唯月
2新たな当主
5/81

1約束

『今朝のヘッドラインです。昨日正午、新たに開発した〝能力封印水〟により、能力者の半数が捕まりました。水をふりかけるだけで能力を封印できるという優れものです。これを使えば、多くの能力者を捕らえることができ、街の平和は保たれるでしょう。そしてテロの中心人物である守光神照光容疑者は、能力者の最高責任者は不在であると主張を続けています。』


光姫がリビングで朝食をとっていると、眼前のテレビでそんなニュースが流れた。戦いのことがニュースに取り上げられるのは何ヶ月ぶりだろうか。

思わず目を奪われ、手に持っていた食パンをぽとりと落とす。


「あっ。」


光姫は慌ててパンを持ち直した。すると、その様子を見ていた明光さんが、光姫を落ちつかせるように、平生に増して穏やかな口調で、けれども力強く言った。


「大丈夫ですよ、光姫様。照光様はお強いです。新たな道具がなんですか! 人工物が、能力という、神々に与えられた自然の力に勝てっこありません。きっと、照光様は、私たちを勝利に導いてくれるでしょう。」

「そう、ですよね…。」


光姫は明光さんの笑顔に安心して、少しだけ緊張が緩んだ。


「ありがとう、明光さん。」


光姫が笑顔を見せると、明光さんはホッとしたような表情を浮かべた。


その後、光姫は島光さんにいつも通り車で学校の近くまで送ってもらい、車を降りた。


(そうだわ、今日はこのまま、メイサさんのところに行きましょう。)


光姫は校門をくぐり中学棟の下駄箱で上靴に履き替えると、光姫の学年、つまりは三年生がいる三階ではなく、二年生のいる二階へ向かった。一階下のフロアに足を踏み入れると、廊下にいた二年生たちが光姫を見て、目を丸くして固まった。そして、あちこちで光姫の存在について囁き始める。


「えっ、あれって、守光神 光姫さん⁉︎」

「え⁉︎ 三年生の、学校一の美人って言われてるあの有名人? うわー…本当にすごい、何あの美貌。でも、なんで二年生の階に?」

「部活の後輩に用事とか? あ、でも、守光神さんって部活入ってないんだっけ。」


さすがは、学校一の美人、かつ秀才。どの学年でも、光姫は有名人だ。部活に入っていないことさえも知られているとは。

光姫は自分のことが囁かれていると気づきながらも、全く反応せずに目的の場所へ向かう。


「すみません…わっ!」


二年三組の教室の前に止まり、ドアを開けようとした時だった。ドアが内側から勢いよく開き、中から誰かが飛び出てきた。そして、そのまま光姫に抱きつく。


「お姉様!」

「め、メイサさん!」


光姫はどうしたらいいのかわからず、メイサに抱かれたまま、フリーズした。今まで親族以外に抱かれたことなんてない。その状態のまま数秒が経過して、光姫はとある疑問を抱いた。


「ど、どうして私が来ることがわかったのです?」


メイサはそう聞かれることを待っていたかのように、ニヤリと笑った。そして、光姫の耳元で、小声で言う。


「実はね、予知したの。」


それを聞いて、光姫は目を丸くする。そして、少し強い口調で言った。


「えっ、ダメですよ。強いエネルギーが出て、能力者ハンターの装置に反応してしまいます!」


すると、メイサはそう言われることを予想していたのか、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「その心配はいらないわ。予知って、近い未来ほど、能力を使ったことによって生まれるエネルギーが少ないの。今のは十秒後の未来を予知したのよ。十秒間以内の未来だったら、そこそこの頻度で日常的に予知してる。けれどお姉様は、普段から感じてるエネルギーが強くなったことには気づいてないでしょ?」


光姫は能力者の中でも強い力を持つ家系なので、メイサが能力を使わなくとも、その存在自体からエネルギーを感じ取ることができる。だが、その力が能力を使ったとわかるほどに強くなったことは、確かに一度もない。


「そういえば、そうですね…。それじゃあ、昨日の、能力者ハンターが学校にやってくるのは、わりと遠い未来だった、ということでしょうか?」

「うーん…そうともいえないわね。明後日でも、アタシの調子の悪さによっては、あれ位の強さになることもあるから。」

「そうですか…。とりあえず、今日ではないことは確かなんですね…。」


少し視点を変え、二人がコソコソと囁き合っている中、二人の様子を見ていた周りの二年生の反応はというと。


「えっ、なんで守光神さんがメイサのところに?」

「てか、さっきのメイサ見た? いつもと全然違うんだけど。すごい甘えん坊になってた。」

「お姉様って言ってなかった? もしかして、なんか親戚だったりして?」


などなど、色々な疑問が飛び交っていた。


キーンコーン カーンコーン

予鈴が鳴り、廊下にいた二年生たちはみんな、自分の教室に戻っていった。


「ねぇ、お姉様。昼休み、中庭に来てくれないかしら。話したいことがあるの。時間は…一時で大丈夫?」

「一時に、昼休みに中庭へ? わかりました。」


わざわざ中庭という、人目のつかない場所へ集まるということは、能力者関係のことだろう。だが、それは一体何なのか。本当は詳しく聞きたかったが、予鈴から本鈴までは五分しかないので、そんな時間はなかった。


教室に遅刻ぎりぎりで入ってきた光姫を見て、教室内がざわめいた。普段、光姫はクラスで一番早く登校してくるのだ。こんな遅刻ぎりぎりの時間にやってきたら、驚くのも無理はない。実際には、登校したのはいつもと変わらぬ時間だったのだが。


「ね、光姫ちゃん。今日は一体どうしたの? 珍しく遅かったね。明日は雪でも降るんじゃないかと思ったよ。」


朝のホームルームと一限目の五分間の休み時間に、白城さんは後ろを振り向いて、告げ口するようにこっそりと尋ねた。この休み時間はあくまでも、教科書を用意して本鈴が鳴った後、きっちりと始められるようにするための時間である。そのため、先生はすでに教卓に立っているので、生徒は立ち歩いたり大きな声で喋ることができないのだ。


「いえ、登校時間はいつも通りでした。ただ、一年生の教室に行っていたので遅くなってしまい…、」

「え⁉︎ 一年生の教室に行ってたの⁉︎ あっ、昨日話してくれた子! そういえば、私、まだその子の話、一切聞いてないよ! 昨日、光姫ちゃんに逃げられちゃって…、あっ…。」


光姫が最後まで話し終える前に、白城さんが目を爛々と輝かせて食いついた。思わず大きな声を出してしまったため、周りから注目を浴びる。先生も一瞥したが、彼女が優等生なだけにスルーされた。これが問題児なら、騒ぐな、と釘を刺されていたことだろう。


我に返った白城さんは途中で話をやめる。そして、その後すぐにチャイムが鳴り、質問攻めは次の二十分休みに持ち越された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
能力者の王でなくテロの中心人物という扱いが、悲哀を感じてきますね。 光姫とメイサもそこはかとなく百合感出ていて良いです。お姉さまか……それもいいですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ