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能力者の日常  作者: 相上唯月
5平穏

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43/81

13前日準備

時の経過とは早いもので、その日から六日が経った。デートの日の前日である。


メイサは学校から帰った後、すぐさまキッチンへ向かい、葵仕込みのスイーツを作った。悩んだ末に作ったのは、持ち運びのしやすい、そしてクリスマス定番のジンジャークッキー。クッキー自体を作るのは簡単だが、それらをクリームでアイシングするのは難しかった。それを可愛らしい袋につめる。もちろん、悠だけでなく、光姫と杏哉、そして葵にも用意した。だが、悠以外は、お菓子渡すのは明日だ。


また、一週間前に作ったシュトーレンを切り分け、これもまた袋に入れていく。台所の中に、甘い匂いが漂っている。ちなみに今、葵は彼氏へのプレゼントを買いに、ショッピングモールへ行っている。彼女は明後日に、彼氏とクリスマスデートをする予定だそうだ。彼女ほどの料理の腕前があるのだから、何かを作ってそれをプレゼントにすればいいのに、とメイサは思うが、葵にとって料理の腕がいいのは当たり前なので、それをプレゼントにしようとは思わないらしい。一体何を買ってくるのか気になるところ。





「えー、という訳で。悠の準備が整いましたので、光姫様、お入りください。」

「はい。」


部屋の中から扉越しに杏哉の声が聞こえ、光姫は首肯してドアを開けた。


「…っ!」


その姿を視界に捉え、光姫は思うように声が出なかった。


「…やっぱり変ですかね。」


悠が身体を隠すように左手で右腕を掴み、不安げに光姫を見上げた。


「そ、そんなことありません! 似合いすぎてびっくりしたと言いますか、すごくかっこ可愛いです!」

「…〝可愛い〟が余計な一言だって、どうしてみんな気づかないんですか…?」


悠は愚痴を言いながらも、光姫に偽りのない言葉で褒められ、口元を緩めた。


そう、二十三日の夜、光姫は明日着ていく悠のデート服を見に悠の部屋を訪れたのだ。念の為、明日メイサに見せる前にメイサと同性の光姫からデート服について意見を聞いておこう、ということになったのだった。


「あ、すみません、つい。けれど、似合っているのは本当です。何といいますか、私も惚れてしまいそうなくらい。」


杏哉が光姫の発した最後の一言に反応し、悠は彼に何もしていないのにギロリと鋭く睨まれた。


光姫からこれ以上ない褒め言葉をいただいた悠のデート服はというと。


まず、トップスは青と白のチェックのワイシャツの上に白いセーターを重ねたもので、ズボンはメンズファッション定番のジーンズ。その上から黒色のチェスターコートを羽織り、首には赤色のマフラーを巻いている。

普段、制服のような服ばかり着ている悠からすれば、ワイシャツを着ているとはいえ模様付きで、しかも大人っぽい洒落たチェスターコートなんてものまで羽織っている、というこの格好は相当恥ずかしい。張り切りすぎてメイサから「イタい」と思われなければいいが。だが、光姫から想像以上のリアクションをもらい、悠は少し不安が和らいだ。


「光姫様はこの後、メイサのところへ行くのですよね? していただきたいことは済みましたので、行ってくださって構いませんよ。」


まだ悠への嫉妬心を消すことができていない杏哉は、ソワソワしている光姫に気づき、そう声をかけた。


「あっ、はい。そうなんです。この後メイサさんからも呼ばれていて。失礼ですが、ここでお暇させていただきます。」


やはり、部屋から出るタイミングを見つけられずに落ち着かない様子だったらしい。彼女はドアを開けると、一礼して去って行った。





光姫は悠の部屋から廊下へ出て、今度はメイサの元へ足を進める。彼女の部屋の前につき、ノックをして入室の許可をもらい、扉を開けた。


「お姉様、いらっしゃい。」


扉を開けると、その前に立っていた、部屋着姿のメイサが笑顔で光姫を出迎えた。


「遅くなって申し訳ありません。お約束の物を持って来ました。」


そう言って、光姫はポケットから小さな箱を取り出し、中身をメイサに手渡す。


「ありがとう。けど、なにも買ってもらうことないのに…。あくまでもこれは、クリスマスのプレゼント交換だからね。アタシも二十五日に、ちゃんとお返しするからね。」


メイサが受け取ったものは、ショッピングモールで話していた、ピンクゴールドのチェーンの、真珠のネックレスだった。しかも本物。メイサは遠慮したのだが、光姫はこのデートのために新品のネックレスを買ってくれたのだ。クリスマスプレゼント、という言葉で誤魔化して。


(…この高価なネックレスに対して、アタシのプレゼントは手作りお菓子なのよね…。)


メイサは他に何か光姫へお返しのものを購入しようかと考えたのだが、光姫はあまり物欲がない上に、欲しいものはすぐに手に入るはずだ。メイサからのプレゼントは、何でも喜んでくれることに間違いはないのだが、それでも、メイサのなけなしのお小遣いで購入した物を手渡すのは申し訳ない。なので、メイサはクリスマスプレゼントとして、悠と同等か、それ以上の、葵仕込みの手作りスイーツを、彼女のために作ろうと考えている。


(悠には外で渡すから、作ってもあんまり持って行けないのよね。凝ったものは渡す予定だけど。けれどお姉様には、いろんな種類のお菓子をたくさん渡せるわ。)


悠へのプレゼントが光姫へのプレゼントに劣る、というわけではない。あくまでも種類と量の違いだ。


「ええ、分かっております。メイサさんからのプレゼント、期待していますからね。」

「ええ、任せといて。」


メイサに悪い気にさせないように言ってくれたであろう、光姫の言葉に対し、メイサは強気な言葉を用いて、胸をドンと叩いて胸を張った後、心の中でありがとう、と呟いた。


「…あと、さっき悠のデート服見て来たんでしょう? どうだった?」


そして、メイサは小声で、今朝、光姫と夜に話す約束をした、一番の目的を切り出した。


「あら、知っていたんですか。」


と、光姫は目を丸くする。


(知らないわけないわ。アタシ、悠の告白のためにお姉様と杏哉が協力してるの知ってるんだからねっ。)


近頃、いつもは四人で遊んでいる時間に、メイサだけ仲間はずれにされているという事態が何度も起こったのだ。流石に無視してじっとしていることなどできず、メイサは彼らが集まっているであろう、悠の部屋の一秒後の様子を未来予知してみたのだった。その結果、メイサは年上二人組が悠と告白準備を進めていると知った。


先ほど光姫が悠のデート服を見て来たのを知ったのも、昨日行った未来予知のためである。昨日、会話から推測するに悠のデート服のお披露目と分かったので、今日は彼らの様子を観るのをやめた。悠のデート服は、当日のお楽しみだと思ったからだ。


「とてもかっこよかったですよ。ですが、私がここで説明するより、明日メイサさん自身の目で見た方がいいと思いますが…。」

「詳しくは聞こうと思ってないわ。まさかいつも通りの、あの制服みたいな服でデートに望むんじゃないか、って不安に思っててね。けど、そっかぁ…。かっこよかったのね…。ふふふ、明日が楽しみ。」


光姫の言葉に、メイサは安堵した後、悠のデート服を想像してにやけた。


「そういう事でしたか。それなら安心していいですよ。」


そう言って、光姫は嘘偽りない微笑みをメイサに向けた。

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