表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力者の日常  作者: 相上唯月
5平穏
42/81

12クリスマスデートのお誘い

「なんていうか…平和よねぇ。」


十二月十七日、木曜日。告白まであと七日。つまり一週間前。


平生のように、愛しい姉・光姫、同志の杏哉、そして――メイサの意中の人・悠の四人で食卓を囲み、朝食を食べながら、メイサは何気なく呟く。


メイサが杏哉によって『悠のことが好き』と自覚したその後も、メイサは悠の〝好きなところ探し〟をしようと試みた。…のだが、今更彼の素敵なところを探そうとしても無駄だということを知った。なぜなら、元からメイサは彼のことを目で追っていたから。学校で真矢達と過ごす時間以外、メイサは常に能力者の三人、とりわけ悠が隣にいたのだ。


その時、メイサの思考に玲瓏とした声が割り込んできた。


「平和とは…どういう意味ですか? 能力者は今も変わらずハンターに捕えられ、どんどん収容所に送られているんですよ、メイサさん。」


幼くして守光神家の当主、つまりはメイサたち能力者の女王となった光姫は、眉を下げながらテレビを見つめている。点いているニュース番組では、昨日能力者が何人捕まったか放送されているところだった。先ほどのメイサの発言は、彼女にとって相当に不謹慎な言葉だったろう。


「ごめんなさい、お姉様。今の発言は良くなかったわ、反省します。…それで、アタシが言いたかったのは…アタシたち自身の身には何も起きていない、ってこと。だから、アタシには近頃平和に思えるのよ。ほら、学園に能力者がいることはバレてしまったのだし、アタシたちっていつ捕まってもおかしくないのよ。」

「そうだな…確かに俺たちはいつ捕まってもおかしくない。けどまぁ…俺たちは能力を使っただけで、無能力者に危害を及ぼすようなことはしてない。だから後回しにされてるんだろ。近頃は、能力を使って無能力者に反撃する能力者も増えてるからな…。」


メイサが先ほどの発言の意味を説明した後、光姫が言葉を発する前に杏哉が口を挟んだ。

光姫は無言のまま、何かを考えるようにして頬杖をついた。


「不知火兄妹は今頃何してるんでしょうか…。あの二人、あの時以来一切会ってませんからね…。僕らと一緒にいた方が、絶対に安全だと思うんですけど…。」


沈黙を埋めるようにして、隣に座る悠がボソッと呟く。メイサが悠の横顔を一瞥すると、


「メイサ先輩? どうしたんですか?」


と、一瞬の出来事だったのにメイサの視線に気づいた悠が、すかさず尋ねる。


(うぅ…なんでこうも…人付き合いは苦手なくせに、気遣いは上手いの…! 不知火兄妹を気にすることもそうだし、アタシの視線にもすぐに気づくし…!)


「ううん、大したことじゃないんだけど…花ちゃんと炎先輩の事を心配する悠が、優しくて素敵だな、って思って。」


メイサは左の髪の触角を指先でくるくると巻くと、いつもより声を高くして、甘えるように上目遣いで彼の瞳を見つめる。いつの間にか、メイサより少し背の低かった悠が、頭半分ほどメイサよりも高身長になっていたのだ。言い換えればそれは、悠が〝かっこよく〟なったということ。いや、訂正する。悠は元からかっこよかった。正しくは、〝魅力がより増した〟ということ。メイサは以上の内容を心の中で呟いた。


「……いや…僕は…ただ…、」


メイサに褒められ、しどろもどろになる悠。本来のメイサならば、言葉一つで挙動不審になる男は頼り甲斐がないので、あまり好みでない。

だが、悠の場合、メイサの一言で挙動不審になってしまう悠がおかしくて、思わず彼を揶揄いたくなってしまう。


「ふふ。」


メイサは笑い声をこぼすと、彼の耳元に顔を近づけ、


「…あなたのそういうところ、アタシは好きよ。」


と、もう少し近づけばメイサの唇が悠の耳に触れそうな位置で囁き、スッと彼から離れる。


テーブルに置かれた、水の入ったグラスを手に取りながら、横目で悠を一瞥する。すると、メイサの思惑通り、悠は色白の頬を綺麗な茜色に染め、両手で顔を覆っていた。顔を隠す両手のせいで見えないが、おそらく頬だけでなく、顔じゅう真っ赤だろう。


さらに、メイサよりも角張った彼の右手を掴んで顔を近づけてやろうか、という考えが頭によぎったが、流石にやめた。これ以上攻めるのは心臓によろしくない。それは悠だけでなく、当人のメイサも、だ。


(あぁ…アタシ、さっき悠に〝好き〟って…。なんであんなこと言ったのかしら、もう告ってるようなもんじゃない! 確かに悠のことは好きだけど! けどアタシから告るなんて、これまで散々揶揄ってきたんだから……そんなかっこ悪いことしたくない! いや悠に告られることは知ってるけども! でも……でも…ああ〜〜!)


そう、本当はメイサも両手で顔を覆ってしまいたい気持ちでいっぱいだったのだ。けれど、そんなことしたらメイサのプライドが許さない。あくまでも、告白前に彼の気持ちに気付いてしまい、その彼をいじって遊ぶ彼女でありたい。自分でも趣味が悪いと思う。


これらの様子からも分かるように、いつの間にかメイサは悠に夢中になっていた。


そんな二人の様子を、光姫と杏哉は暖かい目で見守っている。告白まであと一週間。計画も、二人の仲も順調だ。


その後、四人は朝食を食べ終え、学校へ行く支度を整えて車へ乗り込んだ。他愛もない話をしているといつの間にか校門前についていて、楽しい時間はあっという間に過ぎる、いつも通りの日常。これまでも十分に充実して、これ以上楽しいことはないと思っていた。けれど、近頃メイサは気づいた。それに加えて、隣に悠がいて、その声をメイサのために発してくれるそれだけで、幸せな気持ちになり、胸がときめくことに。


学校につき、車から降りる。もう少ししたら、三人とはしばらく会えない。けれど今日・金曜日を乗り越えれば、明日は休日。彼らと、悠と、より長く一緒にいられる。メイサは、如何にも〝恋する少女〟のような思考をする。いや、実際そうなのだが。


メイサら四人は校門をくぐり、途中で校舎の違う杏哉と別れ、三人で中学棟の中へと入る。一階に教室のある悠とはここでお別れ。


「また放課後会いましょう、悠さん。」


光姫の美声が、彼女の天使のような笑顔と共にその場の空間を和やかにする。道行く人は皆が光姫に見惚れ、あちこちから歓声が聞こえてくる。日常茶飯事の光景である。


「はい。また後で、光姫先輩。」


そして、絶世の美女に返事をして美少年が微笑むと、そこでまた、先ほどとは違う黄色い声が上がる。相変わらず今も〝ぼっち〟の悠だが、光姫と行動するようになってから、メイサ、杏哉、悠にも生徒の注目が集まり、実は密かに悠ファンがいるのだ。理由はもちろん、


「今日も悠くん可愛いぃ。ショタってなかなかいるもんじゃないからねぇ。しかも悠くんは賢いし。ほんと、悠くん最高。推す。」

「分かり味しかない〜。ほんと、ショタは国宝だよね〜。なんで国宝級イケメンはあって、国宝級ショタはないんだろ。」


と、いう訳だ。顔が可愛いことをコンプレックスに思っている悠だが、彼女たちによると、ショタは国宝に値するらしい。


そんな中、メイサは悠に近づき、彼の耳元で、出来るだけ甘い声で囁く。


「じゃあね、悠。」


たった一言だが、悠はそれだけでビクッと肩を振るわせ、照れてしまったのか、メイサと顔を合わせないように後ろ向きになり、


「…はい。」


と、彼も上擦った声で一言だけ返した。後ろ向きになった悠の耳は、ほんのり赤く染まっていた。その様子を見て、メイサは相変わらず嗜虐心をくすぐられるものの、昂る鼓動、胸のときめきに負け、何も行動に起こせなかった。


その日の放課後。光姫の高級車が停まっている、四人の集合場所でもある校門前にやってきたメイサ。今日は終礼が早く終わり、一番乗りだ。この後は誰が来るかな、と、メイサは何気なく能力を使う。最近は前より、能力を使うことを躊躇わなくなった。もうすでに能力者がこの学園にいることはバレているのだ。それならば、元から能力の弱いメイサがほんの数分後の未来を視たところで、平気だろう。そう考えるようになった。


「あ、悠…!」


そして、メイサは約三十秒後に悠が来る様子を視た。


「メイサ先輩!」


未来予知した時間通りに、メイサの姿を捉えた悠が、早歩きで駆け寄ってきた。メイサが悠の正面に体の向きを変えると、あることに気がつく。悠の頬が何故か紅色に染まっている。普段の悠ならば、メイサと顔を合わせたくらいでは動揺したりしないのに。どうしてだろうか。メイサが不思議に思っていると、


「…あの、メイサ先輩。来週の金曜日のこと、なんですけど。」


と、悠はメイサと目を合わしたり逸らしたりを繰り返しながら、そう言った。その途端、メイサは舞い上がるような錯覚に陥る。


(やった‼︎ ついに! 告白される未来は視たけれど、全然デートのお誘いがなくて不安になってたのよね、未来が変わったんじゃないかって…。)


「クリスマスイブね? デートのお誘い?」


メイサは思わず感情が高揚し、そう口走る。


「えっ、え? な、なななんでそれを…?」


すると、まさかメイサが未来予知したとは知らない悠は、眉を読まれたのか、と勘違いして顔中真っ赤にした。


「…理由なんてないわ。ただの勘よ。」


これで、もし勘で先ほどの言葉を発して違ったら、どんなに恥をかくことだろう。メイサは勝手に妄想して恥ずかしくなった。


「そ、そう、ですか…。ま、まぁあの、その、デート、といいますか。あの、僕と一緒に、してくれませんか?」

「行くわ。」


興奮して、メイサは思わず悠の言葉に被せるようにして即答してしまう。あまりの速さに尋ねた悠自身も目を丸くしたのを見て、


「ち、違うわ! ただ単純に、クリスマスイブにお出かけするのが嬉しみだっただけなんだからね! その、決して悠とのデートが楽しみで即答したんじゃないからね! 違うからね!」


と、メイサは漫画や小説ではツンデレキャラの発言としてお馴染みの、〝否定した上で分かりやすく本当の答えを述べてしまう〟という失敗をやらかした。だが、悠はメイサのその言葉を真正面から受け取り、


「そ、そうですか…。」


と、あからさまにがっかりしたように肩を落とした。


「ち、違うわよ! 馬鹿正直に受け取らないで! 確かに単純にお出かけが楽しみ、って理由もあるけれど、一番は悠と出かけられるのが楽しみだったからなんだからね!」


メイサは慌て、悠の誤解を解こうと、結局隠した本音を晒してしまうのだった。が、その言葉で悠はこれ以上はないと思うほど顔を真っ赤にしたことにより、メイサは悠を翻弄することができて結果オーライなのだった。


…と色々あり、メイサは悠からデートの詳細を教えてもらった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ