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能力者の日常  作者: 相上唯月
5平穏

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40/81

10スイーツ作り

十二月十三日、日曜日。告白まで残り十一日。


そしてこの日はまた、葵との約束の日でもある。メイサは朝食を食べ終えた後も、ダイニングルームを出ていく光姫、杏哉、悠を見送った後、一人でダイニングルームに居座り、葵との約束の時間を待った。そして、


「おっ待たせ〜! メイサ待った? ごっめんね〜、うち、さっきまでお皿洗いしてて〜。」


時間ぴったりに、キッチンから、高いポニーテールを揺らして葵が駆けて来た。


「大丈夫、そんなに待ってないわ。お皿洗い大変ね。アタシもこれから手伝おうかしら。」

「いやいや、側近なんだからそんなことしなくていいって。うちの分も、主様のお側にいてあげて?」

「分かったわ。けど、本当に忙しい時には言ってね。すぐ駆けつけるから。」

「あはは、なんかメイサかっこいい〜!」


そんな他愛もない会話をしながら、メイサと葵は台所へ向かう。そういえば、メイサはこの屋敷の台所へ入るのは初めてだ。台所の中に足を踏み入れると、案の定、通常の台所の十倍ほどの広さはあった。まるでレストランのような。


「メイサ、何か作りたいものはあるの?」

「そうねぇ…クリスマスプレゼントだから…。」


悠への、という言葉は省く。もちろん告白する悠以外にもクリスマスプレゼントはあげたい、という理由もあったし、一番の理由としては、男にあげる、というフレーズを葵に聞かせたら、うるさいことになりそうだと直感的に思ったからだった。しかし、


「えっ⁉︎ クリスマス? え、え、もしかして彼氏に? メイサ彼氏いたの? 今度紹介してよ〜!」


と、謎の勘のいい彼女は、男に渡すとは一言も言っていないのに、そう興奮する。しかも、勝手に悠が彼氏にされている。いやおそらく、クリスマス・イブの夜の後は、そういう関係になるのであろうだろうが。


「…彼氏ではないけど…まぁ…。」

「へぇ〜! つまり好きな人なんだ〜? だれ、だれ⁉︎」


葵が知らない人である可能性の方が高いであろうに、なぜか葵はその人物について執拗に尋ねてくる。


「…悠よ。」


ここで黙っていても後から面倒なことになりそうなので、仕方なく、そう答えた。すると、


「嘘〜‼︎ あの水属性の側近の、超可愛い男子? うちもあの子狙ってたんだけどなぁ。…あ、これは冗談よ? うち自慢の彼氏いるしぃ。ちな、彼も光属性の能力者。だからそんな怖い顔しないで〜? でも…そうかぁ、そうだったのかぁ。」

「…変な誤解しないでよ。違うからね、悠がアタシのこと好きなんだからね。」

「ふ〜ん? それって悠くんの方が先にメイサの事好きになったって意味? 好きでもない人に手作りのプレゼントなんて渡さないもんね。でもそれならさ、どっちかが先かより、今が大事じゃない? メイサも今は悠くんのこと好きなんでしょ?」


メイサはここで反論しても堂々巡りだな、と諦め、黙りこくる。


「じゃあさ、メイサ。シュトーレンなんて、どうじゃない? 一本を切って複数の人にも渡せるし。悠くん以外にも、主様や杏哉くんにもあげたいでしょう?」

「シュトーレン? 作ったことあるわ、結構簡単じゃない? 確かに三人にあげるには丁度いいかもしれないけど…。」

「ほほぉ、メイサも普段から料理してたんだね? けど、元三ツ星シェフの母を持つ、うちの腕を舐めんなよ? 今年は本格シュトーレンに挑戦してみよ〜う! シュトーレンは作ってから一、二週間が食べ頃だからね。今日作って、クリスマス・イブに渡すのにも丁度いいよ。」


そう言って、葵は手慣れた様子で広いキッチンから道具を、そして大きな冷蔵庫から材料を取り出し、台の上に乗せた。何も事前準備なぞしていないのに、既に材料が揃っているとは、なんと品揃えの良いことか。


「まずですねぇ、ここにあるサルタナレーズンを水洗いしま〜す。」


葵の指示に従い、メイサはレーズンを水洗いする。


「そして、ここで五時間おきま〜す。」

「え、五時間⁉︎ そんなに⁉︎ じゃあその間何するの?」


メイサが目を丸くすると、葵は偉そうにふんぞりかえって言う。


「余った時間にもお菓子を作っておこう! あ、でもこれは一週間も置くもんじゃないから、直前にもう一回作ってね。今は伝授だけ。」

「分かったわ。それで、何を作るの?」

「とりあえず、色々作ってみよう。そこから、メイサの気に入ったものを選べばいいよ。」


葵の言葉に、メイサは納得して頷く。


それから、サルタナレーズンを置いておく五時間の間に、シンプルで素朴な味わいのあるジンジャークッキ、程よい大きさのカップケーキ、サクサクホロホロ食感のクッキーのようなスノーボールを作った。五時間が経ち、お昼を回ったが、それらを全て二人で平らげたため、お腹は膨れていた。


気づけば、台所の中には昼食作りに励むシェフ二人の姿があった。光姫たちにはメイサが今日、葵に料理を教えてもらう、ということを言ってあるので、いなくても不思議に思わないだろう。葵に手伝わなくて良いのか問うたところ、今日はいいの、と返された。メイサのために、本当に申し訳ない。そう思いつつも、葵の教えがなければ、人並みのお菓子しか作れないので彼女を頼る他ない。


「よぉし。大体五時間たったねぇ。もういい頃かな。次に、このサルタナレーズンにラム酒などを混ぜ合わせて一日以上置くんだけど…。」

「えっ、じゃあ今日は作れないの?」

「ノンノン。実はもう混ぜ合わせたものがあるの。この屋敷では毎年、クリスマスにシュトーレンを作っててね。それで、今年丁度昨日混ぜて、寝かせたものがあるわけで。たくさんあるから、少しくらい使っても大丈夫。てことで、次の作業! この後はね……」


と、葵の伝授はその後三時間ほど続き、無事に本格シュトーレンが完成した。完成したといっても、まだ粉砂糖をふりかけていないので完成ではない。だが、この作業は、グラニュー糖をまぶして一晩おいておく必要があるので、今日中に完成させることはできない。


「ほとんど完成ね。葵、今日はたくさんレシピを教えてくれてありがとう。またやってみるわ。」


メイサが使用した道具を洗い、そろそろお暇しようかと思って感謝の気持ちを伝えた。


「およ? まだ終わってないよ? 夕食まで、今日はお菓子作りに没頭しよ? 他にも伝授したいこといっぱいあるんだから。」

「えっ、いいの?」

「もちろん。てか、うちがメイサと料理するの楽しいからやりたいだけ。」


葵の言葉に、メイサは目を丸くした後、にっこりと微笑みを浮かべた。


「ありがとう。」


そうして二人は、実に夕食前まで、イベントやパーティに欠かせないに欠かせないショートケーキに、クリスマス定番のブッシュドノエル、真ん中に穴の開いたリースタルト、そしてひんやり系スイーツのチョコムースなど、様々なお菓子を作った。これらも自分たちで食べようかと思ったが、途中で流石に無理だと思って諦めた。結果、


「まぁ! これ全部、メイサさんが作ったんですか⁉︎」


夕食のデザートとして、それらのお菓子は並ぶこととなった。もちろん、クリスマスのために見た目の可愛さは控えてある。それでも、お店に並ぶような出来栄えだ。


ダイニングルーム内に、光姫の嬉しそうな甲高い声が響く。


「アタシだけじゃなくて、菊乃さんの娘の、葵もね。」


メイサは光姫がオーバーに喜ぶので、苦笑しながら一応補足しておく。


「にしてもスゲェなぁ。四人でもこんなに食べれる気がしないや。ん! このタルトうま!」

「メイサ先輩、このチョコムース、とっても美味しいです。」


杏哉、悠の順に、メイサと葵の手作りスイーツを褒めてくれる。それもそのはず。これらは全て、ほとんどが一流プロの娘によって作られた、売り物のような仕上がりなのだから。果たして、メイサにこれが再現できるのだろうか。少し不安になるが、気持ちを改める。葵があんなにも一生懸命に教えてくれたのだ。再現できなければ、それは葵に失礼である。


(そうだわ。クリスマスに、葵の分まで作りましょう!)


と、メイサは意気込んで心に決めるのであった。

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