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能力者の日常  作者: 相上唯月
5平穏

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39/81

9告白計画

その後――光姫たちは十三時頃まで男女に分かれて行動していたが、途中から四人で回ることになった。買った物といえばメイサのハイネックシャギーニット、そして光姫とメイサのお揃いのワンピースとコートくらいだったのだが、四人でぶらぶらしている内に、結局ショッピングモールから出た頃には十六時を回っていた。


彼らは行きと同じように島光さんに屋敷まで運転してもらった後、いつもと同じ時間・十七時頃に夕食を食べ始め、そして半頃には食べ終えた。


そして現在、光姫と杏哉が肩を並べて屋敷の廊下を歩いている。目的地はすぐ目の前だ。


「悠、今いいか?」

「私、光姫も居ります。」


杏哉がドア越しに尋ね、そして光姫も存在を主張すると、半分ほど扉が開いて悠が顔を出した。


「どうしたんですか、二人とも。」


と、首を傾げながら悠が顔を出した。


「決まってるだろ。告白計画を立てるんだよ。というわけで、入ってもいいか。」

「…決まってる、かどうかはともかくとして…。まぁ、協力してくれるのはありがたいですし、恩に着ます。どうぞ、入ってください。」


悠は一礼すると、扉を全開し、二人を招き入れた。ソファなどもちろんないので、この部屋の中で一番座り心地の良いであろうベッドに光姫と杏哉を座らせる。そして悠自身は勉強する際に用いている椅子に座り、二人と向かい合う形になった。


「早速なんだが、告白日を決めた。」

「はっ? なんで僕のいない時に勝手に日付を…?」


杏哉が早速、そのように口火を切ると、クリスマスイブの日を提案しようとしていることを知らない悠は、勝手に日付を決められたことが不快だったのか、眉を顰めた。が、


「日付にこだわってるわけじゃない。特別な年中行事がある日にこだわってるんだ。分かるだろ、イエス様の誕生日だ。正確には、イブの日にしようと思ってるがな。」


と、杏哉が付け足すと、途端に表情を明るくした。


「あ…っ、クリスマス! なるほど、確かに良いタイミングですね! もう、そういうことなら初めに言ってくださいよ、杏哉先輩!」


悠は腕を腰に当て、頬を膨らませて自身の感情を表現した後、杏哉の背中を軽く叩いた。杏哉はごめんって、と笑いながら、もう一度叩こうとしていた彼の手を途中で止める。


「けど、クリスマスイブって、ちょうど終業式の日と重なってません?」


その時、悠はふと、学校の年間予定表を思い出してそう言った。


「ええ、そうです。けれど終業式は午前中で終わるので、そこから家へ帰って昼食をとった後、二人で出かけるのです。大体、出発は十四時頃になるかと想定しております。十四時から十八時の行動は悠さんにお任せします。そして、レストランでディナーを食べて告白したのちに帰宅する予定です。」

「…もうすでに、かなり色々と決めてもらっていてありがたいんですけど、夕食を中学生二人で外食は危険なのではないでしょうか? それに、レストランって。」

「いいえ? お二人には護衛をつけますし、レストランに抵抗があるのなら、貸切にしますよ。」


すると、悠の反論に対し、光姫はこともなげにそう言った。


「いやいやいや。まず護衛って、それ二人でデートじゃないです。それに、レストランに抵抗があるって言ってるのに、なんでどう考えても余計に抵抗が大きい貸切にするんですか。」


悠は顔の前で右手をブンブンと振りながら言い返す。


「護衛がいても、彼らは遠くから見守るだけなので、悠さんとメイサさんはちゃんと二人ですよ。それに、中学生なのにレストランに入ることに抵抗があるならば、周りで見ている人たちを取り除けばいい、と考えるのは普通でしょう?」


「普通じゃないです。」


周りの人を取り除く、そんな大それた考えが浮かぶのは、どこぞのお金持ちだけだ。一般ピープルにそのような発想はない。


「もういいじゃんか、悠。光姫様がそんだけ協力してくれるって言ってるんだぞ。素直にその恩恵に浴しとけ。」

「ですが…。」

「悠さん、私からもお願いします。私たちはあくまでも外野。お二人の関係に口出しする権利はありません。それは承知の上です。ですが、私はどうしても自分の願いを叶えたい。どうかお願いします。」


すると、光姫が悠の手を握った後、深く頭を下げた。それに対し、悠は当然慌てふためく。


「な、何言ってるんですか! 自分の願いを叶えてくれ、だなんて、頭下げるのは僕の方ですよ!」

「…では、護衛付きで貸切レストラン、オーケーしてくれるんですね?」


悠が頭を上げさせた光姫はそう問うて微笑んだ。無論、悠に拒否権はない。


「…はい。よろしくお願いします。」


その返答に、杏哉は隠すことなくニヤリと口角を上げる。心なしか、光姫も杏哉と同じ表情をしていたような…。だがしかし、二人は悠のために協力してくれているのだ。ここは杏哉の言うとおり、光姫の親切心の恩恵を受けとっておこう。


「では、夕食の件は決まりですね。問題は十四時から十八時のデート先ですが…。」

「で、デート⁉︎」


光姫が次の議論を始めようとすると、悠は光姫の発したあるキーワードが気になり、思わず身を乗り出して声を張ってしまう。悠のその白い頬が、ほんのりと紅潮している。


「何をそんなに驚いてるんだ。そのあと告るんだろ。」

「そ、そうですよね…。」


杏哉の冷静な言葉に、悠は一人でうんうんと首を縦に振り、自分を納得させる。


「悠さん、メイサさんと行きたいところあります?」

「え…そう言われても…。メイサ先輩の行きたい所も考慮した方がいいと思いますし…。」

「そうですね。では、明日私からそれとなくメイサさんに尋ねてみます。ということで、今日のところひとまずこの話題は終わりにしましょう。」


悠のアイディアに、光姫は納得して一旦議題を終わらせた。光姫は新たな議題がないか、頭を捻っていると、その時あることを思い出した。


「あ、そういえば。実はですね、メイサさん、もうすでにデート用の洋服を購入したんです。あ、今日買ったんですけどね。クリスマスカラーにしたんですよ。もちろん、悠さんとデートする話はしておりませんが。とても可愛いですよ。普段のメイサさんとは違う、大人な魅力が――。」

「みっ、光姫先輩。あ、あんまり語らないでください…。」


光姫が、普段の若者向けの飾り気の多い服装とは異なる、メイサの大人びたコーディネートを思い浮かべながら語っていると、悠の右手が突き出してきて、〝ストップ〟がかかった。そんな彼の顔を見ると、ほんのりと頬が赤くなっていた。メイサのデート服を想像し、恥ずかしくなったのだろう。


「分かりました。では、ご自身の目でしっかり見て来てくださいね。」

「え、あ、は、はい…。」


急に真剣な表情に変わった光姫に双眸を見つめられ、悠は思わずドギマギして曖昧に頷く。


「ふ〜ん。メイサが決まってんなら、お前の服も決めとこうぜ。」


杏哉はニッと白い歯を見せて口角を上げ、そう提案したかと思うと、次の瞬間、腰を上げて悠のタンスを開けた。


「ちょ、ちょっと!」


思わず声を張り上げ、彼の元へ近づく。別に見られていけない物はないが、これでは――。


「…お前、おしゃれとか全く興味ないだろ。」


呆れ顔の杏哉からは、悠の思った通りの答えが返ってきた。タンスの中には、ユニクロやGUで母親が購入してきてくれた、小学生が着るような使い古した服ばかり。


「いやぁ…まぁ…。」

「お前、いつも学校から帰った後も制服姿のままで着替えないもんな。土日だって襟のついたシャツに黒ズボンで、なんかどうにもフォーマルな格好してるし。なんでお前はいつも格式ばった服ばっか着てんだ、って不思議に思ってたら…今納得した。あれ以外に、まともに着れる服がなかったんだな? まぁ、こんな子供っぽい服、メイサに見られるのも嫌だろうし、こうなるのは必然的か。今日だって、出かけるってのに相変わらずの服装だし。」


杏哉は悠を、足の指先から頭まで舐めるように見つめる。悠の今日の服装は、襟のついたワイシャツに、まるで制服のような濃紺色の長ズボン。


「だって…。」


反論しようとするものの、それ以上言葉が出てこない。杏哉はため息をつくと、


「仕方ない。俺が新しくデート服を買ってきてやる。」

「え、僕は?」

「いや、サイズさえ教えてくれれば、俺一人でいい。お前が来たら『そんなの選ぶな!』って色々うるさそうだから。選べる服が減るだろ。」


杏哉は勝手にそう判断し、一人で買いに行く理由を述べる。


「え、何そのイメージ…。まぁ…杏哉先輩が僕の身の丈に合わないような服を選んだとしたら、そりゃ言うと思いますけど…別に、そんなにやたらめったら嫌だなんて言わないですよ。…え、待って。もしかして杏哉先輩、僕が絶対に着ないような、僕に似合わないような服買ってくること前提で考えてます?」


悠が杏哉の言葉の意味を深掘りしてある考えに辿り着き、そう問うと、


「…というわけだ。メイサの行きたい所も考慮してデート先は明日考えるとして、今日はこれで終わり。よし、みんな解散。」


と、杏哉は悠の問いかけを無視して、服装の話題を思い切り強制終了させた。


「ちょ、ちょっと! 話逸らさないでください!」

「大丈夫だ、悠。お前は可愛い顔してるんだし、似合わない服はないよ。」

「…それ、どういう褒め言葉なんですか?」


普段は気にしてない風に装っているが、実は中学生にもなるのに未だに女子に間違えられるという、ここ数年で一番の悩みの種である〝顔の可愛さ〟を突かれ、悠はギロリと杏哉を睨む。


「まぁ、あれだ。今は確かに女子みたいに可愛い顔してるけど、〝可愛い〟って褒め言葉だぞ。ほら、いいように言い換えれば〝端正〟ってことだからな、うん。」

「…嬉しくないです。あと自分で言ってて笑うのやめてもらえます? 傷つきます。」


悠の眼前にいる杏哉は、悠を説得するために自分自身の放った言葉にツボり、笑いを堪えていた。この瞬間、確実に悠の心に傷がついたといえよう。


「ごめんって。揶揄って悪かった。だから許して。」

「まぁ、別にこれくらいで怒りませんし。」


すると、杏哉はいつものように態度を一変させ、本気で謝罪の意を示した。こういう変わり身の早い部分が、杏哉が愛されるポイントなのだろう。彼はクラスで男女問わずから人気を集めているんだとか。杏哉は一つ屋根の下で暮らしている、悠にとって兄のような存在だ。だから、杏哉が人気者なのは〝ぼっち〟の悠にとっても単純に嬉しい。


「よかった。ありがと。じゃ、また明日。おやすみ。」

「はい。おやすみなさい、杏哉先輩。また明日。」


「あ、私もお暇します。悠さん、おやすみなさい。」

「おやすみなさい、光姫先輩。」


杏哉に続いて光姫とも夜の挨拶を交わし、二人は悠が開けた扉から出て行った。

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