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能力者の日常  作者: 相上唯月
5平穏

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4光姫と杏哉の真剣ゲーム

時は少し遡る。


「光姫様! お一人ですか?」


先ほど、メイサと悠のために席を外した光姫は、廊下でバッタリ杏哉と出会した。


「杏哉さんこそ…。どうされたのですか?」

「まだ寝るには早いと思ったので、ダイニングで時間を潰そうと思ったんです。あそこに行けば、誰かしらいるんじゃないかと思って。」


確かに、ダイニングルームに置いてある、座面の大きな、奥行きが深い高級感あふれるソファは当主&側近達の溜まり場となっている。ちなみに、まだ火の能力者の側近はいない。花火と仲良くなれたら是非彼女に、と思っていたのだが、予想以上に幼く、また炎の存在があったため、花火を側近にすることはできないだろう。だからといって、火の能力者を一人だけ学園外から呼んでくるのというのはやりたくない。とりあえず、当分はこのままでいたい。それが光姫の望みだ。


「あっ…ですが、今ダイニングルームに行くのはあまりよろしくないかと。悠さんが、メイサさんとお二人で話がしたい、とおっしゃっていたので。…杏哉さん。お時間よろしければ、私と一緒に訓練場に行きませんか?」

「無論、私もご一緒します。」


光姫の誘いに杏哉は笑顔満面で即答し、二人は長い廊下の先にある、一番奥の部屋へ向かった。ただっ広い、あっけらかんとした空間で、また同時に能力完全防備室である。光姫と杏哉は近頃、朝早く起きてこの部屋で能力を鍛えている。光姫からすれば昔からの習慣で、特に何も感情を抱いていなかったのだが、親友の杏哉がそばにいるだけで毎日の朝練も楽しく思えるのだ。


「杏哉さん。いつものようにただひたすらに訓練をしてもいいのですが、今日は少しだけ、ゲームをしてみませんか? ハンターに襲われた、もしもの時のためにも。」


部屋に到着し、扉をぴっちりと閉めた後、光姫は杏哉にある提案をした。


「ゲーム、ですか? それに、〝もしもの時〟って…。一体どんなゲーム…?」

「お互いの持っている能力を最大限に発揮するゲームです。十時までには部屋に戻りたいので、十分以内に私を倒したら杏哉さんの勝ち、倒せなかったら私の勝ち、というゲームです。もちろんハンデはつけます。私はゲーム中、一切回復能力を用いません。ですが、ご安心ください。杏哉さんは、私の攻撃によって傷付いた場合、すぐにヒールいたしますので。」


光姫は天使のような微笑みを浮かべ、そんな恐ろしいゲームのルールを述べた。杏哉は当然、光姫が怪我でもしたらと思うと背筋が寒くなり、拒否しようと口を開きかけた時だった。


「それから、ゲームに勝った方が負けた方の願いをなんでも一つきく、というのはどうでしょう。」

「やります。やらせてください。」


半ば光姫の言葉に被せるように、杏哉は即答した。


時計が九時四十五分になったら、つまり秒針がてっぺんに来たらゲーム開始。あと六十秒。


二人はお互いに距離を取り、体育館のように広い部屋の端と端で身構える。


光姫と必然的に目が合い、杏哉は、決して光姫の最後の一言で疾しいことを想像したわけではない、と必死に自分自身に言い訳する。


だがしかし、もし彼女の一言が要因の一つであったとしても、ただ単純に、光姫と手合わせがしたかったのは紛れもない事実だ。


そんなどうしようもない思考を巡らせている間にも、試合開始の時間は刻々と近づいてくる。あと三十秒。杏哉はグッと意識を集中させた。


お互いの瞳は獲物を待ち構える獣のように爛々と鋭く輝き、もしこの場に第三者が現れれば、すぐに殺られてしまうのではないか、と疑うほど、部屋中の空気は凍っていた。


残り五秒、四秒、三秒、二秒、一秒――。開始と同時に、二人はその場から動いた。


途端に、光姫のいた畳の上から、メキメキと細い小枝が成長し、あっという間に見事な大木が現れた。もしも光姫の移動が一秒でも遅れていたら、彼女は体を突き抜かれていたことだろう。


一方、杏哉のいた場所、いや、光姫のいる空間以外全ての部屋中に黄金の稲妻が走る。もちろん避けようがなく、杏哉は身体の全てで稲妻を受けてしまう。しかし、痛みを感じる前に光姫によって回復され、無傷になる。


(…なんていうか、これは…いいのか…?)


勝負になっていない気がする。少しぼうっとしていると、今度は光姫に稲妻の球を投げつけられる。杏哉は我に返り、再び攻撃を開始する。高速移動する光姫付近に次々と木々を生やしていくが、当たるどころか、一本も掠めない。


しかし、彼女から受ける稲妻の球は的確に杏哉の身体の一部を掠める。だが、やはりすぐにヒールされる。なんだか自分があまりに無力に感じ、虚しくなってきた。


(くそっ…!)


杏哉はやけになって、次々と木々を生やしていると、いつの間にか五分ほど経過し、そして部屋中が、濃密な新緑の葉を茂らせた大木で埋め尽くされていた。光姫に逃げ場なくなった、と言いたいところだが、残念ながら、木々に隠れてその光姫の姿が見つけられない。いつからか、光姫の攻撃は頭上からの落雷となり、光の球によって彼女の居場所を特定することもできなくなった。


(このままじゃ、負けは確定で、光姫様の姿も見つけられずに終わる…!)


杏哉は木々の中を足音をなくして駆け回り、光姫の姿を探した。

杏哉は光姫の姿を見つけられないのに、光姫は杏哉の居場所が分かっているようで、頭上から、杏哉に当たるように雷が落ちてくる。


(あと…三分…。)


チラッと時計を横目で見ると、時計の針は九時五十二分を指していた。この状態のままでは、どう考えても負ける。これ以上茂みの中を駆け回るのは無謀だ。


(そうだ、クサヨミをすれば!)


なぜ自分の能力を忘れていたのだろう。杏哉はそばに生えていた木に触れ、瞳を閉じた。


(教えてくれ。光姫様はどこにいる?)


そう、杏哉は木々と会話をすることができるのだ。緑の能力者はこれを〝クサヨミ〟と呼んでいる。光姫と会う前も、そうして彼女の情報を集めていたではないか。


(…俺の二つ後ろの木…?)


杏哉は大木の言葉を聞き、勢いよく後ろを振り向く。〝言葉を聞く〟といっても大木の声が聞こえるわけではなく、脳に直接言葉が送られるような感覚だ。すると再びその感覚が。


(横に逃げた…か。ありがとう。)


杏哉がお礼を言うと、その大木はどういたしまして、と返事をした。


その後、あちこちから草木の声を聞きながら、杏哉は光姫の後を追った。彼女の位置を木々に教えてもらっていると、なんだか彼らと一心同体になったような気分になる。狭かった視界が、一気に部屋全体まで広がったようだ。


(やばっ、あと一分じゃん!)


その時、腕時計を確認すると、なんとゲーム終了まであと一分しかない。


(これ…どう考えても、俺が負けること確定じゃん…!)


その時、どこからか大木の声が聞こえた。どの木が発している言葉なのかは分からない。


(〝私が彼女を確保する〟だと? どう言うことだ? この声の主…の木が、自分の意思で彼女を捕まえると? いやいや、あり得ないっ。だって、俺が指示しないと…。木々が自分で考えて行動することができるわけ…。)


「キャー!」


その時、光姫の甲高い悲鳴が響いた。光姫は勝負のことを忘れ、ただただ光姫の身を心配する。そして、声のした方へ全速力で駆けつけた。すると、杏哉の作り出した低木のツルが光姫の全身に絡まりつき、抵抗する彼女を動けないようにしていた。


(これが…さっきの〝私が彼女を確保する〟ということ、なのか…! すごい、俺の指示がなくても自分で行動できるなんて…! …人…仲間…そう、〝相棒〟みたいだ。)


杏哉は自分で作り出した木の相棒にお礼を言い、トドメを刺そうとした時、部屋中に黄金の稲妻が走った。無論、光姫を捉えていた低木にも、そして杏哉にも直撃する。その稲妻は今までに増して強力で、痛みは感じないものの、圧力を受けているように体が動かせなくなった。こんなに強い能力が使えるなら、初めから使っていれば良かったのに。


(ぐっ…! これが、光姫様の本当の力…!)


その間に彼女は低木のツルから逃れると、稲妻を消してその場に降り立った。


「杏哉さん、私の勝ちです。」


光姫は低木によって傷つけられた体をヒールし、にこりと微笑みながらそう言った。


「あっ、時間…。」


杏哉が慌てて腕時計を見ると、時刻は九時五十五分、秒針は頂点を過ぎていた。


「すみませんでした、最後は。手加減しようと思っていたんですが、お恥ずかしながら、負けそうになって思わず能力を半分くらい解放してしまいました。杏哉さん、とても強いですね。」

「…へ? 最後のも〝手加減〟してて、それも、〝半分くらい〟?」


光姫は照れているように頬をほんのりと赤らめながら、そんなパワーワードを当たり前のように口にした。最後に付け足された「杏哉さん、とても強いですね。」の一言は、光姫は人を馬鹿にするような人ではないと分かっていても、こればかりは杏哉を馬鹿にしているようにしか聞こえない。それに、光姫がずっと手加減していたというのなら、最初から最後まで本気を出していた杏哉が馬鹿みたいではないか。


「でも、良かったです。今日ゲームをした目的が達成できて。覚醒おめでとうございます。」

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