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能力者の日常  作者: 相上唯月
5平穏

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31/81

1リボン

翌日・十二月五日、朝食を食べにメイサがダイニングルームに入ると、


「おはようございます、メイサさん! 可愛いですねっ、そのリボン。初めて見ました。」


と、先にダイニングについていた光姫が早くもメイサのいつもと違うヘアアクセに気づき、無邪気な笑顔を浮かべながら声をかけてくれた。


「ありがとう、お姉様。リボン変えてみたの。お姉様も欲しい?」


お決まりの毛先カールツインテは変わらないが、メイサはいつもより大きく、レースのついたリボンを左右に結んでいた。しかし、リボンの生地が落ち着いた真紅色なので、あまり派手ではない。


「いえ、私は…。」

「遠慮しないで。ほら、アタシお姉様用にもう一つ持ってきたの。」


メイサはポケットに隠し持っていたリボンを取り出し、遠慮する光姫の後ろに回り込む。光姫はいつも黒ゴムでハーフアップをしており、ヘアアクセを一切付けない。それが彼女の優等生ぶりや純真さを引き立てているのかもしれないが、自分を飾ってみるのは、新しい自分に出会えるので悪いことではない。


いや、これだと光姫におしゃれのセンスがない、という風に誤解してしまうかもしれないが、決してそういう訳ではない。私服は彼女が自分で選んでおり、それらの服は全てシンプルで飾り気はないのだが、それがまた光姫の美貌を引き立て、大人っぽくて素敵なのだ。ようは、光姫は何を着ても似合う故、飾りつけるようなおしゃれは不要ということだ。


(そもそも…お姉様は間違いなく絶世の美女だし、おしゃれなんてする意味がないのかもしれないわね…。)


メイサは思わず彼女の美しすぎる容姿と自分を比べ、ため息をつきながら、光姫の黒ゴムの上からお揃いのリボンを取り付ける。


「できた! 可愛いわ! どう?」

「いえ…自分では後ろは見えないので、なんとも…。」


光姫はおしゃれをした自分が気になるようで、そわそわと両手でリボンを触っていた。メイサはセーラー服のポケットからスマホを取り出し、カメラのアプリを起動する。そして、光姫の後ろ姿を写す。


「どう?」


メイサが撮った写真を光姫に見せると、光姫は目をキラキラと輝かせた。


「メイサさんとお揃い…嬉しいです…!」


メイサとのお揃いの感想ではなく、オシャレをした自分の変化への感想を述べて欲しかったのだが、とても嬉しそうなので尋ねたメイサ自身も照れ臭くなり、無言で固定席となっている、向かいの椅子に腰掛けた。


「おはようございます。光姫様、メイ――えっ⁉︎」


すると、絶妙なタイミングで杏哉がやってきて、朝の挨拶をしている途中で、メイサと光姫の――いや、おそらく杏哉のことだから――光姫のみ、の違いに気づいたらしく、途中で言葉を詰まらせた。


「み、みみ光姫様、そ、そのリボンは…?」


メイサはほらね、と心の中で呟きながら、また同時に、リボンをつけただけなのに、その動揺ぶりに驚く。光姫は途端に顔を赤らめ、顔を下に向けると、


「や、やっぱり、私には似合わないでしょうか…?」


と、世界中の女子たちに喧嘩を売るような発言をする。


「ま、まままさか! よくお似合いですよ! ただ…ただ、びっくりしただけで…。」


慌てて、杏哉も両手をブンブンと振り、彼女の言説を否定する。


「よかった…。実は、メイサさんにつけてもらったんです。」


杏哉に褒められて安心したのか、光姫は頬を緩ませ、その経緯を説明する。


「いいでしょ? お揃いっ。」


杏哉に視線を向けられたメイサは、Vサインを彼に突き出した。


「ああ…メイサも似合ってる。というか、お前はいつもリボンつけてるし、リボンの大きさ変わっただけで、ほとんどいつも通りだけどな。…でも、なんでいきなり変えたんだ?」

「それは…えっと、別に深い意味なんてないわよ。イメチェンよ、イメチェン。」

「そうか、失恋でもしたのかと思った。」

「それは髪切った時でしょー。」


メイサはケラケラと笑いながら、杏哉の冗談で言ったのか、本気で言ったのかよく分からない言葉にそう言い返した。が、確かに彼の言うように恋愛関連ではある。


「おはようございます。遅れてしまい、申し訳ありません。」


そこに、最後の一人が駆け込んできた。そういえば、彼の言うように今日は登場が遅かった。いつもは光姫と共にメイサたちを待っている立場なのに。


「悠! おはよう!」


メイサは一番に挨拶を返し、彼に近寄った。そして、わざとらしく真新しいリボンをアピールする。すると、悠はほんのりと頬を赤らめた。


(やっぱ悠…アタシのこと好きなんだ…。)


「め、メイサ先輩、り、リボン変えたんですね! とても…とっても似合っていますよ! か、可愛い…です…。」


最後の付け足した一言は、よく耳を澄まさなければ聞き取れないほど小さかった。おそらく、少し距離をおいた場所にいる光姫と杏哉には聞こえていない。けれど、最も聞こえずらかったはずなのに、付け足されたそのセリフが一番耳に残った。


(悠…!)


なぜだか、ほのかにメイサの頬が熱を持っている。それに、悠に褒められて、なんだかくすぐったいような、嬉しいような…。


(な、なんでもないわよ、きっと! そ、そうよ! 男子に〝可愛い〟なんて言われて、喜ばない女子はいないわ!)


メイサが謎の感情に狼狽えていると、悠は真正面からメイサを見つめられないらしく、俯きがちになっていた。髪型こそマッシュヘアになったが、顔は相変わらず可愛い。そんな庇護欲そそられる彼を見て、


(…ここは、ちょいと攻めてみますか!)


と、庇護――守るどころか、そんな弱々しい彼を見ていじめたくなるという、嗜虐心を煽られるメイサ。


「どうしたのよ、悠?」


少々の葛藤の後、メイサは自分の性格の悪さを自覚した上で、彼の顔を覗き込んだ。


「…ひっ!」


悠は顔をさらに赤く染め、小さな悲鳴を上げて、その場から飛び退いた。


「な、なななんですか!」

「何って…な、なんでもないわよ…。」


悠は後ずさり、メイサを軽く睨みつけた。いきなり大胆すぎたか。メイサは軽く反省する。


「二人とも、どうしたんですかー? スープが冷めちゃいますよー?」


光姫の声に、メイサはハッとして椅子に腰掛けた。隣で、悠も同じようにあたふたと椅子に座る。メイサが一瞥すると、悠は耳をほんのりと赤くしていた。

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