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能力者の日常  作者: 相上唯月
1初めての〝友達〟
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2五人の能力者

それから二ヶ月ほどが経過した、十一月の半ば。寒さを感じる秋本番の季節になっていた。能力者対無能力者の戦いは未だに終わりを告げておらず、平行線をたどっていた。戦いが始まった頃はニュースを覗けばその話題で持ちきりだったが、今ではまるっきり見かけなくなっていた。人々が進展のない戦いに飽きたのだろう。情報なんてそんなもの。一部では、戦いはもう終わり、無能力者が勝ったと勝手に思い込んでいる者もいる。


光姫は父のいない朝の稽古を終え、部屋を出た。

これもまた、初めは虚しくて稽古もまともにできる状態ではなかったが、今ではこれまで通りにできている。


また、この家には今、光姫の家族がいない。母親は里帰りをしている最中に争いが始まってしまい、戻って来られなくなった。下手に動くより、そのまま実家にいる方が安全だと判断されたのだ。

二ヶ月間も両親がいない。それは十五年の人生において初めての事象で、心の奥にポッカリと穴が空いてしまったようだった。


「光姫様。ご朝食の準備ができております。居間にいらしてください」


すると、使用人が廊下に立っていて、光姫に向かって頭を下げた。


「ありがとうございます。すぐに参ります」


光姫も同じように頭を下げると、使用人と共に居間に向かった。


朝ごはんは今が旬の秋刀魚に白ごはん、きんぴらごぼうにお味噌汁と、和食メニューだった。光姫などの守光神家のご飯を作るのは、元・三つ星レストランで働いていた上級シェフだ。そのきっかけは昔、能力者であることを隠しながら働いているところを、照光が発見したのが始まりだった。そして照光は彼女に、周りが皆能力者で、能力者であることを隠さずに生きられる場所で働かないか、と声をかけたのだった。守光神家はどこに能力者がいるのか、エネルギーを感じ取ることができるのだ。普通の能力者は、近くに能力者がいたとしても、その人が能力を使わなければ、能力者であるとわからない。

これまでの記述でわかるように、守光神家は能力者の中、さらには光を操る能力者の中でも、ずば抜けて能力が高いのだ。


朝食を食べ終え、歯を磨いて制鞄を肩から下げると、光姫は屋敷を出た。

屋敷を出ると、目の前に黒塗りのリムジンが止まっており、光姫はそれに乗り込んだ。光姫はいつも、学校に車で送り迎えをしてもらっている。


島光(しまみつ)さん、今日もよろしくお願いします」


運転手の島光さんに礼をすると、上品な仕草で車に乗り込んだ。

この屋敷は都会から離れた少し田舎にあり、学校までは車で送り迎えをしてもらっている。大体四十分くらいで着く。


光姫は車の中で数学の教科書を広げ、今日授業で習うと思われる箇所を予習している。


「到着いたしました」


学校の近くの、邪魔にならない場所で停車し、島光さんがボタンでドアを開けてくれた。


「ありがとうございます。行って参ります」


光姫はそう言って微笑むと、車を降りた。使用人たちとしては、光姫の警護として学校に行きたいのだが、目立ってしまうのでそれはできない。再認識のために書くが、光姫は使用人たちよりもはるかに実力が上だ。だが、もし能力者ハンターが大勢で押し寄せてきたとしたら、そんな彼女でも捕まってしまう可能性の方が高いのだ。


今日は秋風があまり冷たくなく、一年中こんな気候だったらいいのに、と願ってしまう小春日和の暖かな一日だ。校門前の花壇に植えられた紫や黄色のコスモスが、今が勝負所、とでもいうようにきれいに咲き誇っていた。

校門をくぐると、長い上り坂が待ち受けている。ここを登ると、右側に小学校がある。さらにもう少し進み、左側に行くと、中学棟と高校棟がある。中学棟と高校棟は隣り合っており、中学生は特別な事情がある場合、高校棟に行くことが許される。


「あ、おはよう。光姫ちゃん」


中学棟の目の前まで来た時、背中から穏やかな声が降ってきた。振り向くと、そこにいたのはクラスメートの白城(しらき)さんだった。基本、穏やかでおっとりしているのだが、実は押しが強い一面もある。彼女も成績優秀で、光姫と唯一互角に渡り合える光姫のよきライバルとも言える。いつもぎりぎりのところで光姫が勝っているのだが。


「おはようございます、白城さん」


光姫は微笑みを返す。そして二人は一緒に中学三年一組の教室へと向かった。廊下を並んで歩いていると、いつの間にか周囲の目が二人に惹きつけられていた。いや、正確には一人。白城さんは巻き添えを食らっているだけだ。


「学年上位2トップが歩いてる。守光神さん、今日も綺麗……!」

「光姫ちゃんって、本当に雄雅で、本物のお姫様みたいだよね」


そんな話し声が聞こえてきた。本物のお姫様みたい、というか、本物のお姫様なのだが。

こんなことは日常茶飯事だ。光姫は歩いているだけで何かと注目される。中身を知らなくとも、容姿がとにかく美しいのだから当たり前だ。天才だと知ったら尚更だ。


二人は人の目線を気にせず、教室に入って行った。


光姫は友達が多いタイプではなく、教室の隅でひっそりしていることが多いが、男女関係なく、違う意味で人気者である。光姫を覗きに、違うクラスから同学年、あるいは他学年の生徒が彼女を見にやってくる。まるで、アイドルのような人気があった。


だが、光姫は内心では不安でいっぱいだった。


(私がこんなにも、もてはやされているのは、みんな、私が能力者だと知らないから。もしも私が能力者だとわかったら、すぐに離れていくに違いない)


そう、思っていたのである。しかもただの能力者ではなく、王家の娘。さらには、本人にその自覚はないが、次期当主である。そんなことを知られたら、周囲がどんな反応をするのか、容易に想像がつく。きっと、光姫と話してくれる人なんて、一人もいなくなるだろう。いや、その前に、すぐさま強制収容所送りとなるから関係ないか。

彼女は常にその不安を抱えていたため、人と深く関わることができなかった。


(私にも…心を許せる友達がいたらいいのに……)


休み時間、じゃれあっているクラスメートを見ると、まるで兄弟みたい、と思う。光姫は他人の肩や腕をあんな簡単に触れないし、からかうこともできない。


(あそこまではいかなくとも、普通に、能力のことを知っても何とも思わない人と……)


そう思うが、そんな無能力者はいないだろう。となれば、能力者しかいない。


実は、この学校には光姫の他に数人、能力者がいることを光姫は知っている。彼らが能力を使わなくとも、微かに感じ取れるエネルギーを読み取っていたのだ。どうしてこんな都合よく、と思ったかもしれないが、世界はそのようにできているのだ。能力者がいるところには、その能力者と同じレベルの能力者が集まる。つまり、釣り合うようにできているのである。光姫がここにいるということは、光姫と釣り合う能力者がこの学園にいなくてはおかしいのである。光姫は強力なので、三、四人はいてもおかしくない。

だが、その能力者はこの学年にはおらず、みんな多学年だった。突き止めることまではしていないが、光姫の能力の高さ故、大体どの学年組に、どのくらいの力を持つ人がいるのか、わかってしまっていた。光姫が何もしなくとも、勝手に感じ取れたのは以下のようになっている。


(高等部に一人、かなり強力。本家に近いのかしら。能力は緑。この人は最近転校してきたっぽいわね。昔は感じなかったもの。それから、中等部に二人。一人は中学一年生で、もう一人は二年生。中一の子は水で、中二の子は闇。この子たちの能力はそこまで高くない。特に後者は、おそらく派生した能力。あと一人は、小学校からね。中等部からは遠いから、どの学年なのかは読み取れないわ。能力は火…力の強さまではわからない)


となると、人数は四人。光姫も合わせて五人となる。もしここに能力者ハンターがやってきたら、一気に五人も捕まる羽目になる。いや、光姫には能力を隠す力があるので、おそらく能力者だとは気づかれないだろう。


光姫は小学校からこの学校にいたが、最近転校してきた年上の先輩はもちろんのこと、一つ下の後輩は中学受験をして入学してきたようで、気配を感じ始めたのは一年前。唯一の小学生も今年から気配を感じている。一年生かもしれないし、転校生かもしれない。しかし、二つ年下の水の能力者は小学校受験をして入ってきた内部生のようで、光姫が幼い頃からその存在を認知していた。しかし、今の光姫がそうであるように、当時からその水の能力者に話しかける勇気なんて持ち合わせていない。そうこうしているうちに、昨年にドッと能力者の数が増えてそれはそれは瞠目したものだ。五人もの能力者がこの学校にいる。それにも関わらず、光姫は未だにそのうちの誰一人として顔も知らないのだった。


「話しかけに行ってもいいのだけれど、でも……」

「ん? 誰に?」


心の声が漏れていたようだ。前の席に座っていた白城さんがその言葉に反応して、後ろを振り向いた。


「い、いえ。何でもありません」


光姫は慌てて手を振って否定するが、白城さんは聞かない。目を爛々と輝かせて、身を此方に寄せてきた。


「誰かに用事? はっ……もしかして、誰か友達になりたい人でもいるの? あ、それとも、気になる人ができたとか? どちらにしても、光姫ちゃんは人気者だから、すぐに仲良くなれるよ」

「だ、だから違いますっ。どちらでもありません」

「そうなの? ちょっと残念」


彼女はそれだけで、前に向き直った。彼女も光姫と同じく弱気な性格のため、人をからかうことは苦手なのだ。

その後も何事もなく時は過ぎ、帰りのホームルームも終わった。起立、礼をして、途端にクラスメートの話し声でクラス内が騒がしくなる。そして、教室からどんどん人がいなくなっていく。


「光姫ちゃん、私たちも帰ろう」

「ええ」


白城さんに誘われ、いつも通り、二人で下校する。とは言えども、光姫は学校の近くの角に迎えの車が来ているので、一緒に帰るのはそこまでだ。白城さんは電車通学である。


「そういえば、光姫ちゃん、誰か話しかけたい人がいたんでしょう?」


行きではきつかった上り坂を、今度は下り坂として歩いていく。その途中で、白城さんは唐突にそう聞いてきた。光姫は少し目を見開き、苦笑いを浮かべる。よほどあの言葉が気になっていたのだろう。


「またその話ですか? いないことはないですけど……。と言うより、どうしてそんなに興味が?」

「だって、光姫ちゃん、自分から誰かに話しかけることって滅多にないもん。誰と友達になりたいのか、知りたいよ。第一の友達として、第二の友達は把握しておきたい!」

「そうですか……。気持ちは嬉しいですが、何と言いますか、相手を説明するのは難しいです」


その相手を説明するには、相手が能力者であること、何より、自分が能力者であることも話さなければならない。


「そう……残念。」


白城さんがあからさまに肩をガックリと落としたので、光姫は今のは酷かったな、と思い直した。いつも思うことだが、白城さんに完全に心を開けないことは心苦しい。光姫だって、本当はもっと、白城さんと心で繋がりたい。


「あの……。私、その子と友達になれたら、白城さんに一番最初に紹介しますね」


光姫は肩を落としている白城さんに、優しく微笑み掛けた。


「本当? 嬉しい! そうだっ、実行は早い方がいいよ。今から行ってきたら?」

「ええ? 今から? けれど、迎えが……」

「いつものあの運転手さんだよね? 島光さんだっけ? 私が説明しておくから、ねっ?」

「うっ……」


白城さんの圧におされ、光姫は折れて能力者に話しかけに行くことになった。


(あぁ、私、当主の娘なのに、こんな簡単に説得させられちゃうなんて……。まだまだ、修行が必要ね)


光姫は神経を研ぎ澄まし、能力者のエネルギー源を読み取る。すると、近くで二つ、エネルギーを感じた。部活などで、まだ二人は校内に残っているのだろう。


(あ、ぐずぐずしていたらいけないわ。白城さん、私を待っててくれてるんだから……!)


今回は白城さんのせいでこんなことになったとはいえ、人気者だが友達が少ない光姫を心配してくれての行為だろう。それをないがしろにしてはいけない。それに、近くにいる能力者と顔見知りになっておくのは、これからの学校生活におけて何かと便利そうだ。


光姫はそう考え、再び学校へ向かって足を進めた。


その時だった。


(能力の反応が強くなった……! ま、まさか、能力を使った……? このままじゃ捕まるんじゃ。……いえ、これだけ微かな反応だったら、能力者ハンターの装置には反応しないわ。だから大丈夫、大丈夫……)


光姫は深呼吸して気持ちを落ち着かせた。その後、冷静になってから、


(微かだけれど能力を使ったってことは…。その子に何かあったのかもしれない……!)


と、光姫はそう思い、二人残っている能力者のうち、能力反応が強くなった、おそらく下校途中であろう能力者の元へ急いだ。

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― 新着の感想 ―
なるほど、能力者もバラバラで生きていて、お互いのことがわからない。これは数をまとめるのも難しい設定ですね。次に会える能力者は光姫にとってどんな風になるのか、楽しみです。
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