6風の便り
翌日、四人は光姫と共に島光さんに学校まで送ってもらった。二回目とはいえ、光姫以外の三人にとって、居心地が悪いことに変わりはない。それは乗っている間だけでなく、下車した時、光姫と共に校門前に降り立った三人を見て、周囲にいた生徒はどう思ったか。考えるのも恐ろしい。それでも、四人でいれることは他の何よりも安心感があった。
「光姫ちゃん、おはよう。ねぇねぇ、風の便りに聞いたよ。朝、メイサちゃんと杏哉先輩、それから悠くんと一緒に登校したんだって? しかも同乗してたんでしょ? 家近いの? なんで私に話してくれなかったの? もう〜、何がどうなってるのっ?」
光姫が教室に足を踏み入れた途端、白城さんがつかつかと光姫に駆け寄ってきて、滔々と流れ落ちる滝水のように勢いよく喋り出した。光姫は彼女の勢いに逡巡し、一歩後ずさった。
「あの、その、これはですね…。」
「何っ、何?」
爛々と目を輝かせる白城さんを前にして、〝能力者〟というワードを抜いて彼らと同居していることをどのように説明していいか分からず、光姫は言葉に詰まる。普通の家庭では、メイサは同性なためまだマシなものの、異性の杏哉と悠が同じ家に住んでいる、という情報を流せば、これまた騒ぎになってしまう。
「ひ、ひとまず荷物置くので、ちょっと待っててください。」
一つ何かを答えればその〝何か〟について追求され、彼女から逃れるのは至難の業だとわかっている光姫は、とりあえず先に制定鞄を机にかけようと考え、白城さんにそう言って教室に入っていく。歩いていると、どこからか複数の熱い視線を感じた。恐る恐る横を向くと、教室にいたクラスメート全員が光姫をじっと見つめているではないか。
(ひぃ…! 皆さん、私がメイサさんたちと登校したこと知ってるのかしら…。一体いつの間に…? 白城さんが風の便りに聞いたって言ってたけど、つい数分前のことよ?)
光姫は恐ろしいほど高速の、噂が広まる速度に思わず感心しながら、机に鞄をかける。一つ前の席には、椅子に腰掛けた白城さんの姿。彼女の双眸は、夜空に浮かぶ満月のように煌々と輝いている。
その後、彼女の質問は絶え間なく矢継ぎ早に襲いかかり、光姫を苦しめた。あまりに答えられない質問が多すぎるのだ。その度に咄嗟に思いついた出鱈目を言い、なんとか凌いだ。先生が教室に入ってきて、朝礼が始まってやっと、彼女の質問攻撃は終わった。周りを見ている余裕なんてなかったが、よく考えてみると、光姫が白城さんの質疑応答を受けている間、教室内は異常なほどに静まり返っていた。みな、光姫の言葉に耳を澄ましていたということか。思わず背筋がゾッっとした。




