5五人目の火の能力者
光姫と杏哉が夕ご飯を食べに居間へ向かうと、もう既にメイサと悠が椅子に腰掛けていた。
夕食が運ばれてきて、光姫はメイサと悠に先ほど杏哉と話していたこと、明日の予定を話した。
「火の能力者に会いに行くの? もちろん、アタシもついてくわ!」
「僕も行きます。一体どういう訳があって能力を使ったのか…僕たちにまで被害を及ぼしたのか、理由を聞かなければなりません。」
メイサは少し楽しそうに、勢い込んで頷き、悠もそれに続いた。メイサは仲間が一人増えるのが嬉しいのだ。だが、悠はメイサと違い、殊勝な面持ちをしていた。
「悠、なんでそんな怖い顔してるの? まさか怖いの? 能力者に会いに行くのよ? ハンターじゃないわ、仲間よ。」
それに気づいたメイサは、隣で腰掛ける悠の肩をぽんぽんと叩く。すると、
「その人の、気が狂っている可能性も否定できないからです。だって、普通に考えておかしいでしょう? 親からも、外では能力を使うな、って耳にタコができるほどに教え込まれているはずです。まぁ、僕も人がいなかったら、エネルギーがほとんど出ない微量なら能力を使うことはありますが…。それでも、強力なエネルギーを出すほど馬鹿ではありません。ずっと能力を隠し続ける世界に嫌気がさして、自暴自棄になってしまったのかもしれないじゃないですか。」
悠は訴えるようにして、必死に語った。メイサはハッとして瞠目し、しばらく固まった。
「けど、自暴自棄って、なんで? 捕まったらもっとひどい人生を送ることになるのよ?」
「理由なんて、僕に聞かれても困ります。ただ、その可能性も否定できない、と言っただけです。」
メイサに理由を求められ、眉を寄せる悠。その光景を黙って見ていた光姫が口を開いた。
「分からない事柄を、分からない者同士で話し合っていても意味がありません。今は能力を使った所以を考えるのはやめましょう。」
光姫の言葉を受け、メイサは黙って食事を食べ始めた。その後、他三人もメイサに続いて元・三ツ星シェフの美味しい食事を、言葉を発さずに味わった。全員食べ終わった後、光姫は明日の詳しい待ち合わせ場所と時間を伝えた。
「でも、小学校に中学生や高校生が勝手に入るのは…、」
悠は不法侵入になるのではないか、と案じ顔で呟く。
「それは心配いりません。私は小学校の先生から、『いつでも遊びにおいで。』というお言葉をいただいておりますので。皆さんがご一緒しても、何も言われないでしょう。」
「何をどうしたら、そんな許可をもらえるんですか…?」
おもわず苦笑しながら呟いたのは、この中で光姫以外の唯一の内部生・悠。
杏哉はつい最近に転入して来たのでもちろんのこと、メイサも中学受験をしてこの学校に入学したため、二人ともこの国立附属学校の小学校には通っていないのだ。
「何を…とは? 私は何もしてませんよ。というより、教師から見て扱いやすい生徒ならば、同じことを言われているとのだと思っていました。悠さんは違うんですか? 掲示板に張り出されている成績表見ましたよ。悠さん、学年成績一位の秀才じゃないですか。そんな悠さんならば、教師からも好かれていたのではないですか?」
「…〝秀才〟って、光姫先輩の口から発せられればただの嫌味に聞こえますよ。確かに僕は勉強はある程度できますけどね、光姫先輩のようになんでも完璧にこなせる人は、世界中探しても滅多にいないと思いますよ。」
悠は、光姫のお世辞でない心からの言葉に呆れ、ジト目で彼女を見つめた。そう、悠は学年成績トップファイブには確実に入っている秀才だ。では、小学生の頃はどうだったか。小学校の頃から、悠は成績優秀だった。授業態度も良く、生真面目な模範生だった。ただし、運動能力や同級生きっての臆病さを除いて。
それはひとまず置いておくとして、先生から見れば扱いやすく、お利口な悠でさえ、光姫のような自由に小学校に入っていいという、許可をもらっていない。
話の区切りがついたタイミングで、メイサが悠の正面に向き直った。そして、
「悠ってそんなに頭良かったの⁉︎」
と、驚愕の表情を浮かべながら、包み隠さず思ったことをそのまま述べた。
「失礼ですよ、メイサ先輩。」
悠は自ら成績がいい、なんて吹聴して歩くようなヤバ目のマウント取りでは無いので、メイサがそのことを知らなかったのは当然のことだ。しかし、それでも彼女の露骨な驚き方に幾分は傷ついたのか、悠は即座にメイサをキッと睨んだ。メイサも悠に倣って顔を膨らませるが、やはり張り合いがなくなって、いつもの如く、二人はしばらくして笑い出した。
光姫はメイサと悠の仲の良さを眼前で眺めながら、自分の頬が緩むのを感じた。
「…話を戻しますが、そういう訳なので、明日の昼休み、一時に小学校の銅像前に集合しましょう。」
そして、光姫は悠とメイサの様子を見計らい、強引に話を戻してそう告げた。
三人は光姫の言葉にこくりと頷いた。
その後は、夕食を食べ終えた四人は、光姫・メイサ、杏哉・悠に分かれてそれぞれ入浴した。光姫とメイサは、漫画でよくあるように互いに背中を洗い合った。そして、体も髪も全て洗い終わったのち、二人で露天風呂に浸かる。今までは、守光神家の人間が使用人と共に入浴するわけにもいかないので、光姫は竹藪に囲まれたこの広い露天風呂に一人で浸かっていた。それが、今はどうしたことか、隣には年下の、能力者という同じ境遇に置かれた少女の姿がある。血の繋がっていない、かといって義妹でもないが、絆だけは確かな光姫の妹。今、メイサはその長い緑なす黒髪を下ろしている。普段二つに結っている髪を解いた彼女は平生と異なる雰囲気があり、光姫は彼女のまた違う一面を見れたようで、頬が緩む。
入浴後は、これもまたホテルのように広い洗面所で、四人で歯磨きをした。メイサと悠はまだ部屋が少々散らかっているようで、布団を敷く場所を確保するため、片付けをしに早めに部屋に戻った。就寝にはまだ早い時間だが、二人ではすることもないので、光姫と杏哉もそれぞれの部屋へと向かった。
光姫は部屋に戻り、パジャマに着替えてベッドに寝転んだ。
(何て楽しいの…!)
光姫は布団を頭まで被り、毛布にくるまってぎゅっと握り締め、満面の笑みを浮かべる。何が楽しいか、それはいうまでもない。メイサ、杏哉、悠とずっと一緒だから。
今まで一人で孤独を感じていた光姫。能力者であることを隠さなければいけない学校では、白城さんの存在があっても、やはり心の中は孤独だった。それが、彼らが現れてからというもの、光姫の心と日々は充実し、輝いている。きっと、他の三人も同様だったろう。皆の心が満たされている。それが筆然に尽くし難いほど楽しいし、心嬉しい。光姫はこの生活がいつまでも続きますように、と願った。




