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能力者の日常  作者: 相上唯月
4犯人
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4心配

光姫の提案で、二人は一階の端にある談話室へ向かった。談話室とはそのまま、会話するために設けられた一室。丸テーブルを間に挟み、向かい合わせにソファが置いてある。

この部屋は本来、相談者のために使われる。守光神家の当主は能力者たちの悩みを聞くことも仕事の一つなのだ。もちろん、話し声が外に漏れないように、防音性の高い部屋となっている。


二人が談話室に足を踏み入れると、丸テーブルの上には、湯気がたちのぼる、二人分の紅茶とクッキーが置かれていた。きっと、光姫たちの会話を聞きつけた使用人が、部屋に到着する前に急いで用意したのだろう。屋敷を出入りしていたとはいえ、今日引っ越してきたばかりで使用人たちの優秀さを知らない杏哉は、その光景を見て唖然としていた。


「杏哉さん、早速ですが、私に聞きたいこととは、一体なんでしょうか?」


光姫はありがたく思い、雄雅な仕草で紅茶を飲んだ後、杏哉の目を見据えてそう尋ねた。


「メイサと悠、のことなんですが…。」


杏哉は少し言いにくそうに、言葉を詰まらせながら切り出した。


「二人、特にメイサは側近になるほどの力を持ち備えていなくて…あっ、いえ、嫌味とかじゃなくて、事実として、そうじゃないですか。…そんな二人が、初めて当主の側近になって、世間からどう見られているのか、考えていたんです。」

「杏哉さんは、二人が他の能力者たちから嫉妬され、批判されるのではないか、ということが言いたいのですよね。」

「っ!」


光姫に考えを読まれ、杏哉は息を呑んだ。しかし、すぐに思い直す。何でもでき、何にでも気を回せる、あの完璧な光姫が、側近となったメイサや悠に向けられる、世間からの目を考えないわけない。

けれど、杏哉が考えていたのは、少し違う。


「あ、でも、光姫様、それは少し違います。私が言いたいのは、これから起こるかもしれない可能性の話ではなくて…。」

「杏哉さんの言いたいことはわかりますよ。二人が世間から批判されるなら、もう既にされているはず。それはつまり、彼らと繋がりのある、親族からも散々批判され、本人にも伝わるということ。けれど、メイサさんや悠さんの様子からは、そんな酷い批判を受けた気配は感じられない。それが謎なのでしょう?」


光姫は目の前に置かれたティーカップのハンドルを右手でつまみ、杏哉にふわりと微笑みかける。天女のような微笑みに翻弄されそうになるも、杏哉は踏みとどまり、真剣な表情でこくりと頷いた。


「…はい。その通りです。流石、私の考えなんてお見通しだ。それで、光姫様は何か知っているのですね?」

「ええ。全て私の仕組んだことですから。能力の低い能力者が側近になる、という異例を認めたくない能力者たちは大勢います。二人と関わりのある能力者はきっと、嫉妬や羨望から、批判の言葉でメイサさんと悠さんの心を痛めつけるでしょう。なので、私は二人に以前に関わったことのある能力者たちを調べ上げ、二人に何か吹き込んだら許さない、と言っておいたんです。」


なるほど、確かに現・当主から〝許さない〟なんて直接言われ、それに反するバカはいないだろう。能力者ならば、誰もが守光神家の当主の恐ろしさを知っているのだから。


「そうして、無事にメイサと悠は守られたわけですね。」

「そのようですね。」


心配事の消えた杏哉は、目の前に置かれた美味しそうなクッキーの山から、抹茶クリームの挟まったラングドシャに手を伸ばした。その時、


「杏哉さん、私からも一つ、お話ししたいことがあるのですが、よろしいですか?」


と、光姫の改まった玲瓏な声が頭上から降ってきた。杏哉は伸ばしかけた手を引っ込めて膝の上で両手を揃え、首肯した。


「私たちはこの間、能力者ハンターに存在を知られてしまいました。しかも二人はいると。そうなれば彼らは近いうちに、この学園を再び訪れるでしょう。私たちは二人でメイサさんと悠さん、そして残りの、まだ小学生の火の能力者を守らなければなりません。」

「…その火の能力者って、この騒動を起こした犯人ですよね? その小学生が能力を使ったせいで、ハンターがやってきたんですよね?」


光姫の話が区切れたところで、杏哉が不満げに口を挟んだ。そう、火の能力者は能力者ハンターを呼ぶ原因を作った張本人だ。そんな人を守るなんて、いくら相手が小学生だったとしても憚られるのは当然だ。


「ええ。けれど、その子もきっと何か理由があって能力を使わざるを得なかったんでしょう。なぜ、あんなハンターに気づかれるほどの強い能力を使ってしまったのか、本人に聞く必要があります。なので明日の昼休み、小学校を訪ねるつもりです。」

「私も行きます!」

「ええ、お願いします。杏哉さんだけでなく、メイサさんと悠さんにも声をかけようと思っています。」


光姫が微笑んだその時、談話室のドアがノックされた。


「どうぞ。」


光姫が許可を出すと、ドアが開き、明光さんが顔を出した。


「光姫様、ご夕食のご用意が整いました。」

「わかりました。すぐに行きます。…杏哉さん、行きましょう。」


光姫はソファから腰を上げて、杏哉にそう呼びかけた。

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