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能力者の日常  作者: 相上唯月
4犯人
19/81

2メイサと悠、光姫と杏哉

「うわぁ…、こっ、ここ、ここが、守光神家のお屋敷! おっ、おっきい‼︎」

「〝コココ〟って、鶏か何かですか、メイサ先輩?」


メイサが守光神家の屋敷を上から下まで眺め、率直に感想を述べると、悠がすかさず反応し、彼女の言葉を聞いて鼻で笑った。最近、こういう会話をよく耳にする。

悠が自分より少し背の高いメイサを見上げてドヤ顔をすると、メイサは悔しそうに唇を噛み締めた。メイサに女の子みたい、と散々いじられた悠は、彼女を揶揄い返すタイミングを常に狙っているのだ。

そして二人は、暫時、軽く睨み合った後、そのおかしな互いの顔つきと、その雰囲気に耐えきれなくなったのか、同時にプッと吹き出した。メイサも悠も、揶揄い合った後はさぞかし楽しい、という風に屈託なく笑い声を響かせる。もはや日常茶飯事となっている光景なのだが、出会って間もない頃は、メイサに揶揄われた後の、悠の表情が怖くて仕方なかったのだ。今の様子からは到底考えられないだろう。


「またやってますね…、あの二人。」


ギャーギャーと騒ぐ二人の後ろで、爽やかな雰囲気を身に纏い、車から姿を現したのはこの四人の中では最年長の杏哉。彼に続き、この家の主が車から降りようとしている様子を見た杏哉は、体の向きをくるりと変え、光姫の方を向く。


「光姫様、お手を。」


そして、杏哉は跪き、と自分の右手を差し出した。光姫は「ありがとうございます。」と天女のような微笑みを浮かべて礼を言い、彼の手に自分の左手を乗せた。杏哉の耳元は真っ赤に染まっていた。


「メイサさんに悠さん、本当に、仲が良くて何よりです。」


車から降りた光姫は、風で乱れた髪を耳にかけながら優しく笑う。その様は現実離れしていて、どこぞの映画のワンシーンにありそうなほどに美しかった。端整な横顔に、風になびく艶やかな栗色の髪。さらに、背景には花壇に植えられた、白、赤、黄、紫、橙などの色とりどりの芍薬。


杏哉の心臓はバクバクとうるさいくらいに跳ね上がり、隣にいる光姫にさえ、その鼓動が聞こえてしまうのではないか、と思ってしまうくらいだった。頬も耳も、耳を抑える手までもが灼熱の太陽に照らされたように熱い。今は十二月だというのに、その寒さを超越していた。


杏哉は自分の顔が赤くなっているのを光姫に見られぬよう、光姫から顔を逸らす。


「杏哉さん?」


そんな彼の様子に気付いた光姫は、首を傾げて彼の名を呼ぶ。

そしてその後、杏哉の顔を覗き込もうとすると、彼がまた顔を逸らしたため、光姫は慌てて先ほどまでの会話を脳裏に思い浮かべる。


(私、何か気に触ることしたかしら?)


「いえ、なんでもないです…。光姫様、そろそろ行きませんか?」

「え? あぁ、はい…。」


光姫の返事を待つ前に歩き始めた杏哉に、光姫は首を傾げながらも彼の後を追う。杏哉は気づいていないが、実は光姫は恋愛感情にとてつもなく疎いのである。





「「お邪魔します。」」


屋敷の門前に立っている、二人の警護にジロリと舐めるように見つめられた後、メイサと悠は肩を並べて守光神家の屋敷に足を踏み入れるた。すると二人の声が重なり、旅館のように広い玄関・エントランスの中で轟いた。二人の前には、明光さんをはじめとし、光姫ら守光神家の使用人たち十人ほどがずらりと並んでいた。


彼女らを通り越してメイサと悠の目線の先にある、長く幅の広い廊下の奥には、中身に満月と夜桜の描かれた絵画が入った額縁が飾られている。メイサは芸術作品なんて全く縁がなく、詳しいことは一切知らないが、これはとてつもなく高価なものだと一目で分かった。


「おかえりなさいませ、光姫様。それから、それから、緑の能力者・樹護宮杏哉様、水の能力者・水氣悠様、最後に闇の能力者・月輪メイサ様。これから、どうぞよろしくお願いします。」


光姫と杏哉が屋敷の中に入ると、明光さんが深々と頭を下げ、他の使用人たちもそれに続いた。このような光景を初めて目にするメイサと悠は、屋敷に足を踏み入れて早々に、たじろぎ、辟易としていた。それを後ろから見ていた光姫と杏哉は、さっきまで浮かれ調子に揶揄いあっていた二人が、柄にもなく緊張する様子がおかしくてクスリと笑った。


その後、いったん使用人たちと別れ、光姫と杏哉は今日初めてこの屋敷に入ったメイサと悠に、主要な部屋を案内するため、長い廊下を歩いていた。


「ねぇ、アタシたち…側近ってさ、この屋敷内でどういう立場にいるの?」


自分の口から〝側近〟という単語を口にするのが恥ずかしいのか、彼女はその部分を少し口籠もり、能力者の上層階級に位置する光姫と杏哉に尋ねた。その問いに対し、メイサの後ろにいる光姫の、その隣を歩く杏哉が説明を始める。


「まず、いうまでもないが、光姫様が一番上の立場だ。その次に光姫様の侍従であり、この屋敷の使用人全員を取りまとめる、使用人頭の明光幸枝様だろうな。なんせ、侍従は企業でいう所謂〝秘書〟というやつだからな。で、その次に俺たちだ。だから、他の使用人に比べると、俺たちの方が上だな。」

「へぇ。じゃあアタシたち、この屋敷内でも結構上の立場にいるのね。世間的に見ても、側近ってすごいけど。」


メイサは少しだけ目を見開き、疑問が解消されて鼻歌を歌いながら歩き続ける。


その様子を後ろから見ていた杏哉は、ある疑問を抱く。隣にいる光姫に尋ねようとしたが、やめた。メイサのいる前でこの話題を出すのはあまりよろしくない。

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