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能力者の日常  作者: 相上唯月
4犯人
18/81

1引越し

能力者ハンターが学園に訪れた、忘れられないあの日から数日が経った。


その間、特に変わったことは起こらなかった。〝変わったこと〟の指す内容は無論、能力者ハンターの再来について。あれだけの能力を使って、誤作動だった、なんてことは済まされない。それも、ハンターの目の前で雷と水、両方使ったのだから、確実に光属性と水属性の二人はいることがバレている。必ず、ハンターは再びやってくる。それも、前回よりも大人数で。常時、心構えはしておかなければならないが、とりあえず近頃は安寧だった。


それと同時に、ハンター襲来後の数日間、悠が光姫たちに加わり、さらに賑やかになった。

何に加わったか。それは、放課後に光姫、メイサ、杏哉で中庭に集まって話すという、もはや日課になっている行事のことだ。杏哉も悠の人柄の良さを知り、同性同士話しやすいこともあってか、出会って数日とは思えないほど仲が深まっていた。


それから、念の為確認しておくが、悠は普段、容姿も含めて歴とした男子だ。この間は彼は男女共通のジャージを着用していたため、光姫に女子と間違えられたが、普段は制服姿、つまりズボンとネクタイを着用しているため、まずそのようなことはあり得ない。さらに、男子と間違えられた恥辱からか、男子にしては稀有なほど長かったショートボブの髪をバッサリを切り、丸いシルエットにカットされた、マッシュヘアになった。正面からはひとまず置いておいて、後ろ姿だけ見れば完全なる男子だ。


――話が戻すと、先ほども書いた通り、光姫たちは毎日、放課後中庭に集まって話をしていた。しかしながら、十二月に入り、冬将軍が到来したこの凍え死にそうに寒い中、屋外である中庭に集まるのは得策ではないと思い始めた四人。そこで、今日からは中庭ではなく、光姫の迎えの車で集まることにした。というより、これから四人は学校にいる間以外、ずっと一緒だ。


ここは黒塗りリムジンの車内。後ろの座席に光姫、メイサ、杏哉、悠が並んで座っていた。


「今日からついに、光姫様と一つ屋根の下で暮らせる! 感無量…!」


瞳を潤わせて天を仰ぐ杏哉に、メイサがジト目を向ける。


「やらしいこと考えるんじゃないわよ、杏哉。でもまぁ、その気持ちはものすごくよくわかるわ…! まさか本当に実現するなんて思いもしなかったもの!」


だが、メイサも途中からころりと表情を変え、目をキラキラと輝かせる。


「本当ですよ。メイサ先輩はまだしも、まさか僕までもが巻き込まれる、いえ、側近にされる、いえ、一緒に暮らせるなんて思ってもみませんでした…!」

「色々と、心の声が漏れてますね…。」


悠のフォローに、光姫もメイサと同じ半目になって呆れる。


杏哉は光姫の側近であり、しかも光姫本人と既に仲がいいとなれば、近いうちに守光神家の屋敷に住み込みでお供するという話は出ていて当たり前だが、実は、他の側近がまだ決められていなかったのだ。光姫と同じ年代の子にするか、それとも信頼できる成人に任せるか。そんな中で、当の本人である光姫から側近を指名した。


それが、闇の能力者・メイサと、水の能力者・悠なのである。メイサも悠も、光姫の側近にするには能力が弱すぎる。水属性の能力の強さとしては平均的な家柄にいる悠はまだしも、メイサなんて派生した家系。無論、屋敷に住む皆から反対された。

だが、当主の意見は絶対だ。当主がそう決めたのならば、逆らえない。二人は光姫の思うまま、側近の家系の人々を押しのけ、光姫の側近となった。


それを二人に初めて話した時、


「えっ⁉︎ アタシがお姉様の側近⁉︎ 無理よ、無理無理! お姉様だって知ってるでしょ! アタシは闇属性でも、最低レベルに低い派生した家系よ! そんなの、上位層の人たちからメチャクチャに恨まれて、アタシの家系潰れちゃうわ!」

「そうですよ! 僕だって…水氣家だって、平均的な力しかないんですよ! 守光神の屋敷でも、周りの使用人たちの気圧で押し潰れちゃいます!」


このように、二人は一心不乱に光姫に反論した。だが、光姫がその雄弁を振る舞えば、二人を口説くことなんて楽勝だった。


これが、この状況に至る事の顛末だ。


「何がどうあれ、最終的に私の元に来る決断をしたのは三人です。メイサさん、杏哉さん、悠さん。皆さん、本当に、どうもありがとうございます。」

「…でも、よかったんですか? 側近は光姫様と釣り合う各属性が集まるものなのに…。」


たった一人、真っ当に側近になった杏哉は、光姫に認められ、身分を超えて這い上がってきた二人に嫉妬していた。杏哉としても、仲のいいメイサと悠がいつもそばにいるのは嬉しい。他の属性の側近たちと仲良くできるか、少し不安だったからだ。だがそれにしても、杏哉の自分の家柄に対するプライドはズタボロになっていた。


「はい、ご心配は不要です。世間の能力者は、側近は当主の力をさらに強めるものだと考えているようですが、私はそうは思いません。そもそも、当主は能力者の中で一番強い能力を持つのですから、その力をそれ以上強める必要性はないと思いませんか? それに、側近とは、常にずっと一緒にそばにいてくれる存在なのでしょう? 強さよりも、仲のいい人を選んだ方が、仕事も捗ります。側近同士のいざこざもありませんしね。…まぁ、本音を言いますと、メリットなんてなしに、私はただ、メイサさんと杏哉さん、悠さんと一緒にいたいだけなのです。皆さんは、私の初めてできた〝親友〟ですからっ。」


光姫は杏哉に、いや、杏哉、メイサ、悠三人に向け、胸に秘めていた持論を語った。光姫はその後、これ以上の幸せはない、というふうに満面の笑みを浮かべた。

その微笑みを見た杏哉は、先ほどまで持っていた自分の考えを呪いたくなった。それと同時に、心臓が大きく脈打つ。心なしか、頬が熱い。そうか、そうだったのか。


「…よくわかりました。」


杏哉の心にはもう、さっきまでの矜持はない。

意中の人がこんなにも喜悦に満ちて幸せそうに笑っている。彼女の笑みを見た途端、杏哉は自分の幼稚なプライドがアホらしく思えてきた。

それに、能力者であるゆえに限られた、同年代の、唯一心許せる親友たちと一つ屋根の下で暮らせる、それは杏哉にとっても嬉しいことなのだ。杏哉はたった今、二つの幸せを噛み締めた気がした。

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