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能力者の日常  作者: 相上唯月
3ハンター出現

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15/81

6頼り合い

「それが、今になって…?」


一ヶ月ほど前、つまり十月に発せられた強いエネルギー。あの時、ハンターはそれを感じ取っていたのか。もしそうなら、なぜ一ヶ月も過ぎてからやってきたのか。


(気づいていながらも後回しにされたこと、私の感じた能力の違和感。この二つ、もしかしたら関係性があるかもしれない…。)


思い巡らせていると、ハンターに動きがあった。校舎の入り口周辺からは異常がないと感じたのだろう。少しずつ、光姫が隠れている、そして水の能力者が能力を行使した場所へと近づいてくる。光姫はごくりと喉を鳴らした。


「お姉様ぁ〜!」


女子更衣室の裏側に隠れているのはあからさまに怪しいので、水の能力者と共に女子更衣室へ避難しようか、いや、だがそれだと二人同時に捕まってしまう可能性が…などと冷や汗をかきながら考えていた、その時だった。校舎の奥側から、ほんの少しハスキーな甘い声が聞こえてきた。光姫のよく知る大好きな声。


「お姉様ぁ、探したのよ! ここにいたのね!」


加えて、光姫のことを『お姉様』と呼ぶのは彼女しかいない。声質を聞かずとも誰だかわかる。


「め、メイサさん⁉︎」


光姫は勢いよく、声のした後ろを振り向く。すると、メイサが光姫めがけて全速力で走ってきているではないか。


「ど、どうしたんで…きゃっ⁉︎」


言葉が最後まで続かない。なぜなら、メイサが光姫に抱きついてきたからだ。妹の無事を確認して思わず顔が綻んだが、ハッと我に返る。メイサには自分の教室を動くな、と忠告しておいたはずだ。約束を破ってまで光姫を探していたということは、何かあったのだろうか。


「メイサさん! 一体何があったんですか⁉︎」


思わず大きな声が出てしまう光姫。

すると、メイサはキョトンとした後、忽然ムッと頬を膨らませ、光姫を軽く睨んだ。光姫はその表情にまごつき、いつ自分がメイサの不快に思うことをしただろうか、と頭を回らせていた時、メイサは光姫をより強く抱きしめた。


「何って? アタシの身には特に何もないわ。何かあったのはお姉様の方でしょう? アタシはお姉様が心配でお姉様を探していたのよ。だって、こんなアタシでもはっきりと能力を感じたのよ。…約束を破ったことは謝るわ。けど、お姉様が心配だったのよ。…それで、あのエネルギーは一体何だったの?」

「それは…私の過ちです。誠に申し訳ありません。私のせいで、メイサさんにも杏哉さんにも迷惑をおかけすることになってしまいました。」


懸命に謝る光姫の様子を見たメイサは一瞬、あの能力を使ったのは、まさかの光姫だったのかと思ってしまった。本当に囮になろうとしていたのだ、と。


「残り二人の能力者のうち、水の能力者がまだ学校に残っていたのです。そして、水の能力者が能力を使うのを、止められませんでした。」


だが、その後に続いた言葉を聞き、メイサは一瞬でも光姫を疑った自分を恥じた。そうか、水の能力者と火の能力者もこの学園に存在しているのだった。


「よかった…。」


メイサは思わず、喜びの言葉を漏らす。


「何が『よかった』なのですか…? ハンターに気づかれたのに…?」


一方、メイサの言葉の意味が伝わっていない光姫は眉を顰め、首を傾げる。

すると、光姫の胸に顔をうずめていたメイサが顔を上げた。


「お姉様が、自ら囮になろうとしてたわけじゃないってわかって、安心したのよ。」


彼女の顔は複雑な表情を作り出していた。唇を噛み締め、必死に泣きそうになるのを堪えていながらも、どこか嬉しそうに目を細めている。

その顔を見て、光姫は狼狽えた。知恵を絞れば、ハンターは自分一人で何とかできる。そう確信していたのだ。


「メイサさん…。心配して頂いたのはありがたいですが、私は一人でハンターを対処することができると判断したために、メイサさんと杏哉さんを教室で待機するように言いました。二人に危険が訪れない限り、簡単になんて囮になんてなりません。なので、メイサさんが心配することは、何もないですよ。」


メイサには、そう言う光姫の顔が、何かを我慢しているような、強がりの表情に見えた。


「けどアタシ、お姉様のお役に立ちたくて…っ。」

「すみません、メイサさん。お話は後で聞きます。女子更衣室に水の能力者が隠れているのですが、ここに隠れていては怪しいので、私たちも女子更衣室に入りましょう。」


光姫はメイサの言葉を光姫が遮った。光姫の目線の先には、女子更衣室のすぐ目の前まで足を運んでいるハンターたちの姿があったのだ。こんなところでハンター、能力者、などと話している生徒は不自然極まりない。


メイサは少々納得のいっていない顔つきをしながら、渋々光姫に従って女子更衣室の中へと入った。


一方で水の能力者は、ハンターに居場所を突き止められたのだと思い込み、すっと全身に力が抜け、そのまま脳まで何かが抜け落ちていくような感覚がした。くらっとしたかと思うと、次の瞬間には、視界が真っ暗になった。


光姫は奥で倒れている水の能力者を確認すると、声にならない悲鳴をあげ、すぐさま彼女の元へと駆け寄る。メイサも慌ててついてきたが、先に彼女の容態を確かめた光姫から、水の能力者は失神しているだけだと伝えられ、ふっと身体の力が抜けた。いや、普通に考えてなぜ捕まえるのではなく死んでいるのか、という話だが。


「けど、隠れたところで、一体どうするつもりなの? 見つかったとしても、怪しまれなければそれでいいのに。こんなところにいてもし見つかったら、絶対怪しまれるわよ。」


メイサが案じ顔で光姫のその端正な横顔を見つめながらそう主張すると、光姫はメイサの顔を真正面から見つめる。


「承知しております。だからこそ、ここに来たのです。」

「…それ、矛盾してない?」


メイサが頭に疑問符を浮かべると同時に、光姫がメイサの手を握った。手だけとはいえ、光姫が自発的にスキンシップをとるなんて珍しいな、と思いながらも、メイサは何かを切り出そうとする光姫の顔を見つめる。心なしか、その顔がどこか紅潮しているように見えた。


「作戦を考えたんです。そのためには、メイサさんの力が必要なのです。」


さっきから話が噛み合っていないような気がするのは、果たしてメイサだけだろうか。メイサはそう思いながらも、光姫に頼られたことが嬉しく、喜色を浮かべた。


「さすがお姉様。それで、どんな作戦なの? アタシは何をすればいいの?」


メイサは手を叩いて喜ぶと、光姫は唇に人差し指を当て、


「内容は秘密です。」


と、何とも艶かしい仕草、声色でそう言う。先ほど再会してからの光姫は、何というか、いつもの健全で誠実な少し雰囲気が違う。


「メイサさんには、十秒後の、ある場所の様子予知して見て欲しいのです。先ほど、私、メイサさん、杏哉さんがいた中庭の奥の方の茂みがあるでしょう? そこに、十秒後、誰も人がいないか見ていただけませんか? 安心してください。シールドが張ってありますので、能力を使ってもハンターに私たちの場所は特定されません。」

「中庭の茂みの? 別にいいけど、バレるんじゃ…あ、そっか…。」


メイサは『いいけれど、能力を使えばこの学園に能力者がいることがバレてしまうのではないか』と光姫に尋ねようとした。


(そうだった…さっき、水の能力者が能力を使ったんだ。もうこの学園に能力者がいることはバレている…。)


今更ながら、メイサは身震いした。ハンターは、この学園内に能力者がいるとわかれば、必ず捕まえなければ気が済まないだろう。そうなれば必然的に、この五人の中の誰かが捕まる。


「メイサさん、お願いします。」


光姫に再び頼まれ、メイサは瞳を閉じ、意識を集中させる。自ら場所、時を特定して能力を使うのはいつぶりだろうか。下手すれば初めてかもしれない。

メイサは十秒後の、中庭の茂みの様子を見る。


(人は…いない、わね。)


メイサは茂み全体を隅々まで見渡し、確かに人はいない、と確かめた。目を開き、能力を止めた。


「誰もいないわ。」

「了解です。」


すると、その数秒後。


ドッカーン!


凄まじい轟音が鳴り響いた。


それと同時に、メイサはもう一つ、確かに何かを感じた。神経を糸に例えるならば、神経が切れそうなくらいにピンと張り、体中に激痛を感じるほど。もっといえば、その瞬間、大気中から酸素のみが抜き取られたように、呼吸をするのが苦しかった。

メイサは慌てて、カーテンをちらりとめくって空を見上げたが、やはり雲ひとつない晴天。それなのに、雷が落ちるなんて。だが、とても近く感じたものの、雷が落ちたのはここではないようで、落雷した形跡は見られない。


「…か、雷…? こんな天気に……もっ、もしかして…⁉︎」


メイサは頭にある考えが浮かび、ハッと光姫の顔を見る。すると、彼女はメイサに向けて、怪しげにニヤリと口角をあげた。


雷と共に感じたのは、能力を使う時に発せられるエネルギーだった。水の能力者の時とは比べ物にならないほど、凄まじい強いエネルギーを感じた。それはもう、莫大な。


「はい、その通りです。私が中庭に雷を落としました。中庭の植物たちは、今頃黒焦げになっているでしょう…。彼らには申し訳ありませんが、私たちを救ってもらうために犠牲になっていただきました。今度、茂みに手を合わせに行きます。…ふぅ。…にしても、雷の力を使うのは久しぶりで、少々肩が凝りました。ハンターの探知機には、雷を落とした場所からエネルギーが出ているように表示されるので、彼らは全員、あちらへ向かうでしょう。雷に気を取られているうちに、逃げましょう。杏哉さんと、それから水の能力者も連れて。」


唖然とするメイサの前で、光姫は腕をぐるぐると回し、凝りをほぐしながらそう説明した。その顔には、どこかスッキリしたような爽やかな表情が浮かんでいた。


するとその時、女子更衣室の前を通り過ぎていたハンターらが、こちらへ引き返し、女子更衣室を通り越してもっと先へと走っていく複数名の足音が聞こえてきた。光姫の言う通り、ハンターが雷から発せられたエネルギーを察知し、校舎を回って中庭へと向かっているのだろう。能力を使った当人はすぐ近くにいたというのに、何だか彼らが哀れに思えてくる。


(よかった…ん? あれ、待って…。…これってさらにまずい状況なんじゃ…?)


ハンターが離れて行くのがわかり、一瞬安心したメイサ。だが、すぐに我に返る。その理由はというと、


「え、え…ど、どういうこと? な、なんで雷なんか落としたのっ? いや、理由はわかったんだけど…。雷って…余計に危険視されちゃうんじゃ…⁉︎」


そう、光姫は簡単に雷の能力を使っているように見えたが、実際は能力者でも滅多にお目にかかれない凄技なのである。そもそも、能力者の中でも光属性、というのは特別な存在で、回復の力を持つ、最も優れた能力者たち。その中でも、能力者を取りまとめる守光神家は回復の力に加え、電光という攻撃の力までも持ち備えている。つまり、最強なのだ。そんな最強しか持たない能力を先程、あの瞬間に使ってしまった。それが何を意味するか。


(この学園に、能力者のトップ、守光神家の者がいるってハンターにバレた…。)


と、いうことになる。メイサはメイサは顔面蒼白になり、口をぱくぱくさせる。そんなメイサに比べ、能力を使った張本人・光姫はいたって冷静だった。


「大丈夫です。〝能力者が雷を落とす〟それが何を意味するかなんて、無能力者は何も知りませんから。メイサさん、能力者の常識は、無能力者には通用しないのですよ。…それにしても、抑えめではありましたが、久々に羽を伸ばして能力を使うのは楽しいですね。思わず興奮してしまいました。」


そう説明する光姫は、すっかり普段の彼女に戻っていた。その後、光姫はふふふ、と微笑んだが、先ほどの、酒に酔ったような様子はない。


「ん? 待って、抑えめですって? …ねぇお姉様、さっきの雷…あれ、お姉様の本気の力じゃないの?」


メイサは苦笑いを浮かべながら、恐る恐る尋ねる。


「まぁ、さっきが私の渾身の力だと? ふふ、まさか。これでも私は守光神家の当主ですので、あの程度はお茶の子さいさいです。本気を出せば…そうですね、日本列島くらいの面積を吹っ飛ばすことくらいは可能なんじゃないかと…。」


光姫は涼しい顔で、当たり前のようにそんな恐ろしいことを口にする。


「にっ、日本列島⁉︎」


思わず驚嘆の声をあげるメイサ。日本列島を吹っ飛ばすほどの雷なんて想像できない。頭が真っ白になりそうになっていたメイサは、光姫に腕首を掴まれ、覚醒した。


「メイサさん、そろそろここを出た方が良さそうです。おそらく、この校舎内にもうハンターはいません。出るなら今です。」


光姫はそう言うと、メイサを立たせて女子更衣室を出た。失神している水の能力者を運ぶほどの力は光姫にもメイサにもないので、杏哉に運んでもらおうという魂胆である。もしくは、早く意識を取り戻してくれるのを願っている。光姫が先に周囲を伺うように女子更衣室を出て、メイサはそれに続く。すると、光姫が更衣室から一歩出た後、突然足を止めたので、メイサは光姫の背中にぶつかってしまう。何やら、光姫の前に人の気配を感じる。


(な、何っ⁉︎ まさか、ハンターがまだ残って…。)


メイサは恐る恐る、メイサより背の高い光姫の背中から顔を出し、その人物を確認する。すると、そこにいたのは、筋の通った高い鼻に、キリッとした目つきの男子高校生。


「きょ、杏哉っ⁉︎」


そう、紛れもない杏哉だった。

そんな杏哉は、怯え顔をしていたメイサを見て、ニッと笑みを浮かべる。


「あぁ、俺だ。何だよメイサ、その顔は。はは、怖がってやんの。」


杏哉は同志であるメイサの青ざめた顔を見て、再会して早々に彼女を揶揄う。


「なっ、何よ! 怖がってなんかないわ!」


揶揄われたメイサもムッと頬を膨らませ、杏哉を睨みつけながら言い返す。そんな二人を、光姫は仲がいいな、と思いながら、ほのぼのと見つめていた。


「てか、なんであんたがここにいんのよ。教室で待ってろって言われたでしょ!」

「お前だって勝手に出てきたんだろうが。同じことしたやつに言われる筋合いはねぇよ。俺だってお前と考えることは同じだ。光姫様が心配だったんだよ。あの能力は例の水の能力者が使ったものだとはいえ、光姫様に無関係なわけねぇからな。」


杏哉にそう返され、メイサの言葉が詰まる。杏哉も自分と同じで光姫を心配してやってきた、それはメイサだって初めからわかっていた。メイサと同じ志の同志なのだから、光姫を守ろうとするのは当然のこと。メイサが驚いたのはそこではない。


「…杏哉、なんで水の能力者が使ったってわかったの?」

「なんでって…あんな透き通った能力、水属性だってすぐにわかるだろ。」


杏哉は当然のように言ってのけたが、その言葉に、メイサは口をあんぐりと開けて目を白黒させた。メイサよりも距離のある場所にいた杏哉が、メイサよりも正確に能力の種類を捉えている。さすが、彼も強い能力者の一人なのだな、と改めて実感させられた。


「んで、さっきの雷。あれは光姫様のだよな。あの雷から発せられるエネルギーにハンターが気を取られてる隙に、俺たちが逃げようっていう作戦だろ? ですよね、光姫様?」


杏哉は光姫に向き直ると、それまでメイサに向けていた態度とは一変して丁重になる。


「ええ、そうです。さすがですね。杏哉さんには何も説明していないのに。それから、言いそびれていたことがありました…二人に。」


最後に二人に、と付け足され、杏哉とメイサは思わず顔を見合わせる。このタイミングで、メイサに何をいうことがあるのだろう。メイサは首を傾げながら、光姫の次の言葉を待つ。


「メイサさん、杏哉さん。私を心配してここまで来てくださり、本当にありがとうございました。」


光姫はくすぐったそうに微笑み、メイサと杏哉を交互に見た後、深く頭を下げた。メイサと杏哉は再び顔を見合わせ、自然に微笑みあった。

そして光姫が顔を上げた後、今度はメイサの顔だけを真正面から見つめた。


「それから、メイサさん。先ほどは話を逸らしてしまいすみません。」


光姫は少しうつむき加減で、恥ずかしそうに少し顔を赤らめていた。


(先ほどって確か…。)


メイサは女子更衣室に避難する前の会話を想起する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お姉様が、自ら囮になろうとしてたわけじゃないってわかって、安心したのよ。」

「メイサさん…。心配して頂いたのはありがたいですが、私は一人でハンターを対処することができると判断したために、メイサさんと杏哉さんを教室で待機するように言いました。二人に危険が訪れない限り、簡単になんて囮になんてなりません。なので、メイサさんが心配することは、何もないですよ。」

「けどアタシ、お姉様のお役に立ちたくて…っ。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


光姫の言う〝話を逸らした〟とは、彼女がメイサの言葉を遮った、この時のことを言っているのだろう。


(あの時のお姉様、なんだか強がってるように見えたのよね…。)


メイサがその時の光姫の表情を思い出していると、光姫が突然、メイサの名前を呼んだ。メイサはハッと顔を上げると、彼女は少し顔を赤らめながら、嬉しそうに微笑んでいた。


「一人でハンターを対処できると思っていたのですが…恥ずかしながら、メイサさんの力はとても役に立ちました。」


嘘偽りのないその笑顔に、メイサの表情も明るくなる。そしてメイサは、


「アタシも、お姉様の役に立てて嬉しかった。だから、これからも…。」

『だからこれからも、一人で無理をせずにアタシや杏哉を頼ってほしい』そう言おうとしたが、またもや光姫に言葉を被せられる。


「はい。次はお二人とも、私と一緒に戦ってくれると嬉しいです。」


だが、今度はあの時の強がりの表情はなかった。彼女は当主としてたった一人でメイサたちを守ろうとしていたが、一人で全てを背負う必要はないのだ。

彼女は一瞬瞳を潤わせ、にっこり微笑んだ。メイサも光姫に微笑み返し、そこに幸せな空間が生まれる。


「あの…光姫様、何の話をされているのですか…? いやあの、もちろん私は光姫様と共に戦うことは本望ですが…その…〝先ほど〟とは…?」


姉妹二人で幸せを実感していたその時、杏哉が口を挟んだ。彼はついさっきこの場所にやって来たので、光姫とメイサの会話を知らない。話に全くついていけていないだろう。もう少しタイミングが早ければよかったのに。


「ふふ、杏哉はわかんなくて大丈夫よ。」


メイサは杏哉の前に進み出て、彼に向けて意地悪くニッと笑った。

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