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能力者の日常  作者: 相上唯月
3ハンター出現

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2シールド

「ってことで、アタシ、今日帰ったらすぐにパパとママに報告し…、どうしたの、お姉様?」


目を輝かせ、そう話していたメイサは、突然、言葉を止めた。その目線の先には、光姫がいる。杏哉も瞠目して光姫を見つめていた。


「私の専属ドライバーである島光さんから、テレパシーが届いたんです。」


光姫が唐突に関係ないことを話しだしたので、メイサと杏哉は顔を見合わせ、首を傾げた。


「校門にいるそうです。」

「何が?」


メイサが咄嗟に尋ねた後、あっ、と小さく声を漏らした。光姫がこれ以上ないほど、警戒心をあらわにした表情をしている。光姫のような強大な力がないメイサにも考えがついた。


「まさか…能力者ハンター…?」


メイサが恐る恐るつぶやくように尋ねると、光姫は静かに首を縦に振った。


「嘘…! なんで? 今日がアタシの見た未来? でもアタシたち、能力使ってないわ!」

「まさか、残りの能力者のどちらかが…!」


メイサが声を張り上げ、続いて顔を青くした杏哉もつぶやいた。


「…残りの二人の能力者のどちらかが能力を使ったことは間違い無いでしょうね。しかし、私は〝今日〟一日では強いエネルギーを感じませんでした。…ただ…、」


光姫はそこで言葉を濁し、表情を曇らせた。だが、それは一瞬のことで、すぐにいつもの従容とした態度に戻る。


「あ、またテレパシーが。校内に入ってきたようです。二人とも、大丈夫です。能力を使わなければ、ハンターは私たちを無能力者と見分けることはできませんからね。」


一歩間違えばまさに『袋の鼠』になる、一触即発の危機的状況。それにも関わらず、光姫はその危機感を少しも感じさせない、朗らかで優しい笑みを浮かべた。彼女の微笑みは、メイサと杏哉の心にたっていた漣を穏やかにした。

けれど、すぐにメイサの表情は陰った。


「けれど…いくらエネルギーを出さないように気をつけていたって、アタシたちは存在しているだけで〝能力者〟なのよ。どうしたって、ハンターが近くに来たら気付かれるわ。」


その言葉に、杏哉も数回首を縦に振る。確かに彼らのいう通りだが、光姫のその微笑みに、一切の揺らぎもない。


「いいえ、大丈夫です。私が二人の周りに光のシールドを張ります。」

「シールド、といいますと? もしかして…?」


杏哉が光姫の言葉を問い返す。


「はい、おそらく杏哉さんの考えていることと同じです。私の住む守光神家の屋敷には、能力完全防備室というものがあります。ここではどれだけ能力を使っても、絶対に外に漏れることはありません。なぜなら、ここには部屋全体に、能力が漏れない光のシールドが張ってあるのです。杏哉さんはご存知ですよね? 杏哉さんの護樹宮家の屋敷にもこのような部屋はあるでしょうから。それを、私がお二人の周りに張ります。そうすれば、私たちが存在しているだけで能力者だと気付かれることはありません。」


光姫が説明し終えると、メイサは驚愕の表情を浮かべ、瞠目していた。杏哉は興奮で頬を紅潮させ、爛々と目を輝かせていた。


「え…? お姉様…というか、守光神家のお方は、能力を使ってもバレないようにする能力を持っているの?」

「ええ。守光神家や、守光神家に限りなく近い家系のみですが。回復の力を応用してテレパシーができるように、これもまたその力を応用したものです。光属性の能力者が何かを癒す時、対象となったものは光の膜で包まれます。我々の先祖は、この光の膜を対象となった能力者のレベルに近づければ、相殺されて外部にエネルギーが漏れることを防げるのではないかと考えたらしいです。テレパシーもシールドも、波長や大きさを調整するのが非常に困難なので、高い能力を持つ上位層しか用いることができないのです。ですが、改めて考えてみると不思議ですね。完全防備室の中に能力者がいない場合でも、シールドは張られ続けているのに、それが察知されないということですもんね…。恥ずかしながら、詳細な仕組みは私にもよく分かりません。」


光姫は己の知識のなさに対し、恥ずかしそうに瞳を伏せた。メイサは何一つ知らなかったようで、始終目を見開いて感心していた。無理もない。


シールドは力の強い能力者の屋敷にしか張っていないのだから。光姫の産まれる前から、守光神家の人々は全能力者の暮らす家全てにシールドを張ろうと努力してきたのだが、近頃その活動も活発にできなくなっている。いくら自身の能力を抑えていたとしても、シールドを張る時はエネルギーが出るため、少々外に漏れてしまう。もしその近くにハンターがいれば、即逮捕だ。能力者の中では決して強い能力者とはいえないメイサの家まで能力を張れていない、それが現状だ。


「あの〝シールド〟を、私やメイサの周りに張ってくださる…? そんな貴重なお力を…この上ないほどの光栄。感謝いたします。それから…、」


杏哉はそこで一旦言葉を切り、指をポキポキと鳴らした。顔には邪悪な笑みが浮かんでいる。まるで、映画に出てくるヤクザのよう。杏哉が整った顔だちなのもまた、その雰囲気を倍増させていた。


「それから…、もしも私が能力を使ったとして、校内にある木々をハンターの上に倒したとしても、問題ない、ということですよね?」

「こ、怖いこと妄想するわね…。」


杏哉が陰険な目つきでそう問いかける一方で、メイサは杏哉のその恐ろしい例えに少し引いていた。


「ええ、問題はありません。けれど、能力を使うのは自身の身が危険に晒された時だけにした方がよろしいかと。居場所までは特定されませんが、この学園に能力者がいることがハンターに確信されてしまいます。こちらから宣戦布告しているようなものです。」


光姫の言葉に、杏哉は不意をつかれたように目を見開いた。そして、ガバッと頭を大きく下げた。


「申し訳ありません! 私欲が先行してしまいました。」


最近では、光姫は杏哉のこのような大袈裟な行動にも慣れ、顔を上げてください、と冷静に言えるようになった。光姫は大丈夫です、と短く答え、話を切り替える。


「説明は済みました。では、これからお二人と私自身にシールドを張ります。他の人に見られては困りますので、場所を変えましょう。」


光姫の周りには常に光姫ファンが潜んでいて、授業中以外は常に監視されている。今もまた然り。光姫は杏哉とメイサをつれ、中庭の奥、整備がなっていない草が生い茂っている場所へと進んだ。流石に、少し距離のおいて見ている彼らは、すぐには来れない。その短時間で終わらせなければならない。


杏哉とメイサは光姫の厳粛な雰囲気を感じ取り、肩をビクッと震わせた。

光姫は辺りを見回して、周りに誰もいないことを確認した後、大きく息を吸い込み、意識を集中させた。シールドは、自分自身に張るのが一番難しい。技自体は他人や物に行うのと変わらないのだが、シールドを張る時に出るエネルギーを、瞬時に張られたシールドで包み込まなければならない。しかもシールドを扱える能力者は必然的に高い能力を持つ者ということになるので、自身のレベルに近づけるために膨大なエネルギーが出てしまう。一秒でもずれれば即アウト。すぐにハンターが駆けつけて即終了。周りの音を感じなくなり、空間と調和した感覚を得たその刹那、光姫は体の芯に力を入れた。


一瞬、光姫の体が眩い黄色、金色に近い神々しい光に包まれる。だが、それはすぐに消えて、光姫は体全体に透明なマントが張り付いているような感触を得る。


どうやら成功したようだ。ハンターの駆けつける足音は聞こえてこない。

そしてゆとりを持ち、杏哉とメイサにも同じように光のシールドを張った。


「わぁ…なんか、身体じゅうがビニールシートで覆われるみたい。」

「あぁ、少し動きずらいな。」


メイサと杏哉は腕を曲げたり伸ばしたりして、張られたシールドを体感した。


「ええ、初めは慣れないかもしれませんが、しばらくすれば体に馴染んできます。」


光姫が説明していると、光姫ファンが近づいてくる気配を感じた。そろそろ動いた方がいい。光姫は両手をパンパン、と叩き、二人の注目を向けさせた。


「さて、これからの話ですが。今学校を出るのも不自然ですし、かといって三人集まっている状態もよろしくない。各自、ハンターが去るまで自教室で待機しておきましょう。」


光姫は微笑みを崩さず、冷静にそう指示をした。


「そうね…一人でいるのは怖いけれど、もしバレて、三人いっぺんに捕まるのもごめんだわ。」

「ああ、そうだな。よし、そうと決まればすぐに行こう。」


メイサは渋々自分を納得させ、杏哉は特に迷いもないように言い切った。だが、その顔が少し引き攣っていることを、光姫は見逃さなかった。


その後、すぐに解散し、杏哉は高校棟へ、光姫とメイサは中学棟へと向かった。


教室に戻った光姫は自席に着くと、感覚を研ぎ澄まし、二人の居場所を探る。

突然教室に戻ってきた光姫に、クラスに残っていた生徒数名が、瞠目して彼女を見つめていた。だが、聞かれなければ、光姫は自分から説明することはしない。いや、聞かれても真実は言えないので答えをはぐらかすだけだが。


(えっと…緑の能力は高校の一階から、闇の能力は下の階から感じる…。二人とも自教室にいるわね。)


その時、光姫は上の階から、ふと別の能力を感じ、ある重大なことを思い出した。この学園にいる能力者は光姫、メイサ、杏哉の三人だけではない。あと二人いるのだ。幸いなことに、今はそのうち一人しか学校に残っていない様子。


(校舎の外に水の能力者がいる…! きっとハンターが来たことに気づいてないわよね…。かなりまずいわ…!)


メイサは普段、日常的に能力を少しだけ使うと言っていた。もしかすると、水の能力者も普段から少量の能力を使っているかもしれない。

それは光姫でも感覚をすまさなければ感じないほどの微かなものなので、ハンターも近くにいなければ気づかないため、なんら問題はない。だが、今は違う。すぐ近くにハンターがいるのだ。


(水の能力者が普段から能力を使っているかどうかはわからないけれど…もし使っていたら…。今にも、知らずに使ってしまうかもしれない…! 早く行ってシールドを張らなければ。)


光姫はそう考え、クラスメートの視線を横目に、教室を出て階段をこれ以上は出せないであろう速度で下っていった。だが、そうなるのも当然。少しでも遅れたら、水の能力者の今後の人生が狂ってしまうかもしれないのだ。

光姫は校舎を出て、両肩を上下させながら、焦燥のせいで鈍っている感覚を研ぎ澄ました。スッと周囲の騒音が聞こえなくなり、エネルギーのありかを探る。そして左側から、透き通るような水の能力を感じ取り、光姫はすぐさまその地点へと駆けて行く。下駄箱の左側へ向かうと、そこには秋桜や竜胆、撫子など、色とりどりの秋の花々が咲き誇る花壇が並んでいた。それらの目の前で、一人ポツンとジャージを着た学生が座り込んでいる。校舎横の花壇は園芸委員が丹精を込めて育てているものだ。きっとあの子も園芸委員の一員なのだろう。


そしてその学生が持つショートボブの髪は、目を惹く色素の薄い亜麻色。しかし、染めているような派手さはなく、おそらく地毛だと思われる。また、そう推測された別の所以は、非常に透明感のある白い肌を持ち合わせていたからだった。まさに肌肉玉雪という言葉がふさわしい。まるで、人生で一歩も外を出歩いたことがないような、抜けるような白皙だった。


光姫が思わず見惚れていると、唐突にその子がふっとこちらを振り向いたので、光姫はなんとなく校舎の柱に身を隠した。ちらりと見えたその子は、くりくりとした大きな瞳に、可愛らしい童顔を持ち合わせており、女の光姫でさえも庇護欲をそそられるような見た目をしていた。体つきも華奢で、少しでも力を込めると折れてしまいそうだった。


そして彼女は光姫がそこにいることに気付いた様子はなく、反対方向にも同様に振り向いていた。そして何度かその動作を繰り返し、周囲に誰もいないことを確認すると、隠れるように体を縮こませ、折った膝の上で両手を動かし、何やらゴソゴソし始めた。


光姫はその様子柱からちらりと顔を出して覗き見して、心の奥で漣が広がるように胸騒ぎがした。空を見上げると、薄気味悪い黒々とした雲が浮かんでおり、光姫の心情をそのまま写し取ったかのようだった。とてつもなく嫌な予感がする。そして同時に、光姫はあることを確信していた。この子は間違いなく水の能力者だ。纏う空気が一般人と違うことが明らかになる。水の能力者特有の、水のせせらぎのような涼しげな雰囲気を感じた。

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― 新着の感想 ―
光姫の能力はいろいろすごい能力感覚、離れても隠密スキルが使えるとは…… 新しい人物が登場ですね! 唯月さんの書くキャラが印象的で良い分け方してるなと感じましたよ〜
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