夜の公園でお姉さんとJKがお話する話
夜風が吹き抜ける。
公園にある遊具の頂点。
化粧の似合う女が1人と高校のセーラーに身を包んだ女が1人。
「やあ」
「……やあ」
私達は共犯者だ。
同じ痛みを抱える、世界で2人だけの仲間だった。
私が口を開く。
「今日はどうだったの」
「どうって、いつも通り。クソみたいな客しかいなかったよ。そっちは?」
高架橋を走る小さな光が目に入る。
「……変わらない。いつも通り。慣れたお客さんばかりだったよ」
嫌気は差すが、妙な安心感も覚えていた。
繰り返し同じような行為をしているからか、手元に残る紙幣の感触故かは分からない。
1年ほど前だった。
その日の私は初めて身売りをした少女で、鈍く痛む下腹部を抱えながらこの公園へ迷い込んだ。
階段を登って、遊具の一番上。
誰もいないと思っていたそこには先客がいた。
二人並んで話して、この件において彼女は私よりよほど先輩であると分かって。
それから、夜に時折集まって話すようになった。
私は、彼女とのこの関係性を酷く愛している。
彼女は溜めた息を吐くように言った。
「もう、やめにしたくて」
世界を壊そうとするその言葉に目を見開く。
「どうして?」
彼女の顔を見る。
整った横顔。口の端が歪んでいた。
「青少年を保護するため」
彼女は続ける。
「そもそも、君をこちらの世界に巻き込むべきではなかった。
ずっと後悔していたんだ。あの時、そんなことはやめた方が良いと突き返すべきだったって」
手足が冷えるような感覚。
喉が鳴る。
思わず彼女の顔を両手で掴み、こちらへ引き向けた。
「青少年を守るだなんて……ばかみたいなこと言わないで。私のことをそんな風に思っていたの?」
彼女の目は潤んでいた。
中に写る外灯が綺麗だなと思った。
「だって……私の弱さだったんだ。こんな小さな子を同じ目に合わせてしまった」
「小さな子じゃない!私は、私達は仲間だと思ってた。……違ったの……?」
年上としての尊敬はあるが、それ以上に対等だと思っていた。
そう思っていたのはこちらだけだったのか。
言いようのない無力感を覚える。悔しい。悲しい。
「違わない!私だって君のことは仲間だと思っている。でも、やはり、それ以上に君のことが大切で。大切にするべきで」
彼女は膝を抱える。
「どうしたら良いのか、分からなくなっちゃったんだ」
手放したくないと強く思った。
彼女の肩を抱く。
「一緒にいれば良いじゃない。ずっと、2人で暮らしていこうよ」
あなたは首を振った。
「君を、こうしてしまったのは私なのか」
カチリと公園の時計の針が動く。
彼女は私の腕からするりと抜けて、すべり台を滑り降りて行った。
勢いのまま数歩進み、振り向く。
「さようなら」
私は叫んでいた。
「どうして!?どうしてあなたまでいなくなってしまうの?嫌だ!いなくならないで!」
「君が、嫌いになったわけじゃないよ。……いつか、どこかでまた会えたらその時はあらためて友だちになろう」
彼女はこちらの顔を見上げて言う。
「私は、私の人生を頑張ってみようと思うから。君も諦めないでみてほしい。これが、私の願い」
そうして、彼女は去っていった。
その後、どう家まで帰ったかは覚えていない。
今後、どのようにすれば良いかは分からないけれど、彼女の願いを叶えるために生きていきたいと思う。