第1話 ニイタカヤマノボレ一二〇八
ーーーー皇紀2601年12月
「大本営より北太平洋に展開する南雲機動部隊宛に“ニイタカヤマノボレ一二〇八”が打電されました。対米戦不可避の状況です」
南雲機動部隊編成
指揮官:南雲忠一中将
第一航空戦隊 空母:『赤城』『加賀』
第二航空戦隊 空母:『蒼龍』『飛龍』
第五航空戦隊 空母:『瑞鶴』『翔鶴』
第三戦隊 戦艦:『比叡』『霧島』
第八戦隊 重巡洋艦:『利根』『筑摩』
第一水雷戦隊 軽巡洋艦:『阿武隈』
第一七駆逐隊 駆逐艦:『谷風』『浦風』『浜風』『磯風』
第十八駆逐隊 駆逐艦:『陽炎』『不知火』『霞』『霰』『秋雲』
補給隊 タンカー: 七隻
支那事変で既に日本は戦争状態にあったとはいえ、海軍にとって局地戦の支那と全面戦争の対米英戦では様相が全く異なる。大本営からもたらされた一報に、高天原にある元帥府水師営でも会議が始まる。
「いよいよ対米開戦が決定した。第一正面はハワイの真珠湾、我が艦隊の戦艦2隻、航空母艦6隻が敵戦艦8隻、航空機四百機と対峙する予定だ。予想損失は航空母艦3隻喪失。これに対して予想戦果は敵戦艦4隻撃沈、4隻撃破である。この戦い、誰か元帥府から随伴して大捷報を齎す者はおらぬか」
時の元帥府の首席水師、初老の伏見宮鳴戸は、いずれも元帥府に列せられた12人の水師を前にして言う。
しばらくの静謐のあと、次席水師の島村実継が重い口を開く。
「恐れながら元帥、此の度の戦は奇襲戦にございます。御府に列せられる水師殿の戦いの機微を見ての神機がごとき判断の妙を発揮できる戦いではございません」
伏見宮鳴戸が不機嫌そうに眉をひそめると実継は言葉を足してとりなす。
「ここ高天原からは地上の情報は手に取るように分かりますゆえ、これまでの水師の地上降下は奏功して参りましたが、今回は水師ではなく、向かわれた先の部隊に神気を放ち神の恩寵を与える尚書、尚書令をご降下させるのがよろしいかと存じます」
尚書とは元帥府に届けられる情報の整理分別をはかる女人官吏のことで、尚書令はその長である。