第39話:全属性魔法
「エレン、行くよ!」
リヒトは、シーシャの隕石魔法が途切れたタイミングで攻撃を仕掛けてきた。
ユリアと協力して俺を挟み込む作戦のようだ。
狙いは悪くない。
だが、シーシャの魔法が途切れたことで俺の動きの自由度が上がったため十分に余裕を持って対処できる。
ザンッ! ザンッ! ザンッ! ザンッ!
俺は二人の動きを予測し、軽い身のこなしで次々と攻撃を避けていく。
「くっ……! 素早い! でも、避けてるだけじゃいつか——」
リヒトは、俺が距離を取りにくい絶妙なタイミングで体重を乗せた一撃を繰り出してきた。
ドゴオオオオオオオオンンンンッ‼︎
俺が間一髪で躱したリヒトの一撃は地面に突き刺さり、大爆発を起こしたのだった。
『火球』から火属性を取り込んだ剣は衝突時に爆発を起こすらしい。
この世界には、属性という概念がある。
属性は火・水・地・風・聖・闇の六種類があり、同じ魔力量の魔法であっても属性が乗っている分で一・五倍ほど効果が高くなるという特徴がある。
例えば、プレーンの『魔力球』よりも『火球』の方が強いという風に。
属性には相性があり、水は火に強く、地は水に強く、風は地に強く、風は火に強く、聖と闇はお互いに強い……など細かなルールがあったりもする。
と、それはともかく。
仮に攻撃を喰らっても直ちに戦闘不能になるほどではないとしても、当たればかなり痛いはず。
リヒトの言う通り、避けているだけではそのうち避けられないタイミングがやってきてしまう。
三人の能力は把握できたので、既に俺の目的は達成している。……そろそろ、頃合いか。
さっさと決着をつけるとしよう。
「悪いな、ちょっと熱いぞ」
俺は、ユリアに向けて至近距離から『火球』を放った。
「えっ……! こ、この発動速度で魔法ですか……⁉︎」
ドオオオオオオオオオンンンッッ‼︎
俺の狙い通り、この一撃でユリアは気絶したようだ。
更に、距離が離れているシーシャとティアにも『火球』を放つ。
ドオオオオオオオオオンンンッッ‼︎
ドオオオオオオオオオンンンッッ‼︎
よし、これでリヒトと一対一の状況になった。
「なっ……この一瞬で三人も⁉︎」
リヒトも一緒に『火球』で吹き飛ばしてしまっても良かったのだが、俺は一つ試してみたいことがあった。リヒトが相手なら申し分ない。
「ああ。ちょっと練習相手になってくれ」
俺はそう言いながら、気絶してしまったユリアの剣を拾った。
「ちょっと、借りるぞ」
俺は、ユリアの剣を右手に持ち、左手で轟々と燃える巨大な『火球』を生成したのだった。
『火球』だけでなく、更に各属性の魔力球——『水球』、『地球』、『風球』、『聖球』、『闇球』の五種類も準備しておく。
リヒトがティアの『火球』を取り込んだ場面を思い出しながら、パッと手から放った六種類の魔力球を空中で野菜を切るかの如く剣で掬い、纏わせた。
見よう見まねだったが……うん、完璧だな。
「う、嘘だろ⁉︎ 僕と同じ……いや、僕以上の剣技をこの一瞬で⁉︎ そもそも、全属性の魔法を扱える魔法師なんて、英雄のユミル様以外で聞いたことないよ⁉︎」
リヒトとティアが、俺の想定以上に驚いていた。
あれ……?
ちょっと俺の想像していた反応と違うな?
リヒトの剣技を再現して見せたことに関しては驚かれるかもしれないと考えていた。
魔力球の方を驚かれるのは、完全に俺の想定外だ。
リヒトの言葉の通りなら、もしかして全属性の魔法を使えるのってレアだったのか……?
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異世界最強の全属性ヒーラー 〜ゲームのモブに転生したので、原作知識を駆使して世界最強の回復術師を目指す〜
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