第29話:友達
リヒトの隣には、昨日話したティアがちょこんと座っている。
二人の前の三人掛けの座席だけがポツンと空いているという状況だった。
俺たちは、顔を見合わせ、リヒトに導かれるままに後ろの方へ行く。
「わざわざ席取りしてくれてたのか?」
「まあね。友達なら当然だろ?」
「ん?」
俺とリヒトがいつから友達になったんだ……?
なぜかライバル認定はされたが、友達になってくれと言われた覚えはない。
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない」
まあ、細かいことは別にいいか。
友達に何か定義があるわけではないし、いて困るわけでもない。
それに……ふむ、友達か。なかなか良い響きじゃないか。結構なことだ。
俺たちはありがたくリヒトたちの前の座席に腰を下ろしたのだった。
ちなみに、この三人掛けの座席の並びは、左から俺、ユリア、シーシャである。
なんとなく窓際の席が良かったのでスッと奥へ入ったのだが、シーシャがなぜか不満そうな顔を浮かべていた。シーシャも窓際が良かったのだろうか。今度は譲ろうかと思う。
それにしても、なかなか賑やかだな。
教室を見渡してみると、楽しそうに談笑している学院生の姿が半数以上を占めている。
昨日入学式があったばかりなので、ほとんどは初対面だと思うのだが?
などと思っていると——
「このクラスは実家が上位貴族の人が多いので、もともと知り合いがいる人が多いんです」
「な、なるほど……」
ユリアはエスパーなのかな?
それとも、自分で思っている以上にソワソワしてしてしまっていたのだろうか。
まあ、いいか。
「エレン、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
後ろに座るリヒトから肩を叩かれた。
「ん?」
振り返ると、号外と書かれた学院誌を見せてきた。
「実は昨日、魔導テニス研究会というけしからん研究会の会員五人が学院にこれまでの過ちを自白し、退学することになったそうなんだが」
「ん、ああ……」
もう噂が広まっているのか。
それにしても、ここまで早く俺の命令を忠実にこなすとは思っていなかった。
ちょっと脅かしすぎただろうか……?
「僕が仕入れたとある情報によると、彼ら五人は二年生の中でもかなり戦闘面での成績は良かったらしいんだ。にもかかわらず、同じ学院生に単独でボコボコにされたらしくてね」
「へ、へえ……。誰がやったんだろうな」
すっとぼけようとした俺をなぜかリヒトは笑う。
そして、俺にだけ聞こえるくらいの声量で言う。
「これ、エレンだろ?」