第24話:素手
なるほど。
上位貴族なら平民程度殺したとしても、事実を揉み消せる。
死にたくなければ、何も見なかったことにして大人しく去れと。
「はあ」
俺は、ため息をつくしかなかった。
「じゃあ、答えはノーだ」
「て、てめえ! 自分の立場を分かってんのか⁉︎」
「ああ、分かってるさ。いくら罪に問われないとしても、人の口に戸はたてられない。現場を見た人間がいるのはお前たちにとって都合が悪い。手段として殺人を持ってるなら、俺がこの場を去ろうが、二人を連れ帰ろうが、どちらにせよ同じようにするつもりだろう?」
俺は、悪人の言葉を額面通り受け取るほど子供じゃない。
単純な損得の問題で考えても、この場をただ去るのは何の利益もない。
そして何よりも、二人とは知り合ったばかりとはいえ酷い目に遭う姿を想像すると気分が悪い。
やれやれ。仕方ないな。
ここでしっかりと決着をつけておくべきだろう。
「へえ……良い度胸してんじゃねえか! せいぜいあの世で後悔するんだな!」
そう言って、金髪の男は四人の仲間に目配せした。
「ヒャハ! 久しぶりの殺しだぜ」
「ウェイ」
「力の差を思い知らせてやろうじゃん?」
「謝ってももう遅えからな?」
どうやら、かなり自分たちの力に自信があるらしい。
見たところ、剣士が二人、拳闘士が一人、魔法師が二人か。
一人で複数人を相手にするのは厄介だが……まあ、俺は知識を持っているおかげで、相手がどんな技を使ってくるのか想像することができる。
さすがに師匠——英雄たちより強いなんてことはないだろうから、何とかなるだろう。
「おりゃああああああああ‼︎」
「死ねええええええい‼︎」
俺は二方向から同時に斬りかかる剣士の二人。
「ん……?」
しかし、あまりにも動きが遅い。そして、パワーも足りていない。
手を抜いているのか……?
「武器を持たないところを見るに、お前は支援職か魔法系の攻撃職。この距離からの本気の攻撃には対応できないだろう! フハハハハ!」
本気の攻撃……ということは、手を抜いてはいないようだな。
はあ……これが、上級生。残念な連中だな。
俺は、右手に二種類の強化魔法を付与した。
『硬質化』……鋼のように手を硬くする効果がある。
『鋭利化』……剣のような鋭くなる効果がある。
準備が整ったので、反撃を仕掛けるとしよう。
俺は、迫り来る剣の切っ先に対して、素手で迎え打った。
剣のように鋭く、硬くなった俺の手は、拳闘術と剣術の知識により、百パーセント以上のポテンシャルを発揮することができる。
そのため、実力差が離れていれば——
キン——‼︎
と、このように敵の剣を素手で切断することも容易にできるのだ。
「なっ……⁉︎ なんだと⁉︎」