隣の席の子がすごいアピールしてくるけど鈍感なフリして無視してたら取り返しのつかないことになってる気がする
俺の今の隣の席にいるのは学園内で1、2を争う圧倒的な美少女、逢沢 楓である。
美の才媛とも呼ばれて、可愛さと美しさを兼ね備えている。
しかしお嬢様やお上品という言葉は彼女には合わないだろう。
なぜなら彼女は人とフレンドリーに接しており、超絶陽キャで最近のギャルとでも言うべきだろうか。
もちろん男女を問わない。誰でも分け隔てなく接している。
故に生徒からの人気が高く、彼女に恋してしまう人も多い。時に学年の壁も超えてくる。
そんな彼女なのだが、告白は毎回断っている。しかし彼氏でもいるのかと思えばいないようなのだ。
あくまでこちらは遊びですよ、というような感じである。
まるで男の子を堕とすことを快楽にしている魔女とでも言うべきだろうか。
そして彼女と隣の席になって恋しなかった者はいない。
一方俺は彼女のことを可愛いとは思うものの、恋心とかいう感情はどこかに置いてきたのでないのだ。
ただ、彼女のことを可愛いとは思うし、性格も嫌いではない。
しかしどうしてこうもまあモテることができるのだろうか、と思っていた俺なのだが隣の席になってよくわかった。
匂わせ発言をしてきたり、色々と魅惑があり、接する時の距離も近い。
たまにスキンシップもとってくる。
「あっおはよ、一ノ瀬 春翔くん」
「ん、逢沢か、おはよう」
そんなことを思っていると、楓が登校してきた。
フルネームで呼ぶとは随分とご機嫌なことである。
普段は春翔くんと呼ばれ、名前呼びにされている。
これも男子が彼女の虜になる理由の1つかもしれない。
「そういえば昨日ね、ちょっと可愛い目のペンギンのキーホルダーガチャガチャがあったから回しちゃったんだー」
そう言い、彼女はバッグについていたペンギンのキーホルダーを取って俺に見せた。
あれ? これどっかで見覚えが......。
横にかけた俺のバッグに目を通すと、俺のキーホルダーと類似していた。
楓もそれに気づいたのか指を指す。
「あっ一緒じゃん、わー奇遇、おそろっちってことかな」
「みたいだな、妹に貰ったんだ」
「へー、気が合うねー、運命ってやつー?」
何故だろう。おそろっちと運命という発言に反応した主に男子からの視線が痛いのだが。
この感覚に関しては居心地がいいものではなく、むしろ悪いものなので話題を変えるために少し素っ気ない対応をさせてもらおう。
「ん、そうだな、こんなこともあるもんなんだな」
そう返すと、だねー、と言って彼女は準備を始めた。
居心地の悪さも消えていた。
俺はいつも鈍感なフリをしてなんとかやっている。
顔にも出さない。
***
「えー、であるからして、ここは......」
あー、ダメだ、授業が耳に入ってこない、眠すぎる。
5時間目の授業、昼食後ということもあり、うとうとしていると、隣から声がかかってきた。
「ごめん、教科書見せてくれない?」
楓の声である。正直眠たかったし教科書貸して寝るか......いやダメだな、睡魔に流されるなー。
「......ん、いいぞ」
そう返し教科書を手渡そうとした。しかし楓は机を寄せて席をくっつけた。
「逢沢だけで使っていいぞ?」
「それだと春翔くんに悪いし」
俺は開いてある教科書を真ん中に置いて見えるようにした。
「ありがと」
「全然いいぞ」
いつもより距離が近く、甘い香りが鼻腔を掠める。
改めて近くで横顔を見るとその美人さが垣間見える。
まつ毛は長く、綺麗で澄んだ瞳も持っている。髪は艶やかで肌はスベッとしている。
そんな女子が隣にいたら男子は目が覚め、もはや緊張して授業どころではなくなるだろう。
しかし今の俺は睡魔の方が強い。
重い瞼を閉じそうになってはまた開けるの繰り返しである。
そしてとうとう限界が来た。
瞼を下ろしたまま開けなくなってしまった。抗えない。ゆっくりと意識が闇に落ちていっているのがわかる。
目を瞑れば真っ暗。しかし気分は花畑にいるかのようだ。
と、夢の世界に行きそうになっていると、ほおに何かの感触が何度も伝わり目を覚ました。
目を開けて横を見ていると、どうやら楓が俺のほっぺを指でツンツンと優しく突いていたようなのだ。
「あっ起きた、おはよ」
小声でそう言って楓はニコッと笑った。
その破壊力抜群の笑みに寝起きの俺はいつもの数倍のを喰らった。
あっやべっ鼻血出そう。
その時、急に俺の名前が当てられた。
「じゃあ、ここを......さっきまで寝ていた一ノ瀬、答えられるか?」
「はっはい! えーっと分かりません」
「授業中に寝てるからわからないんだ、起きてろ」
「はい、すいません」
クラスが少し笑いに包まれた。
やっぱり授業中に寝るとダメだな。
「昨日何時に寝たの?」
楓が小声で聞いてくる。
「深夜の1時、ゲームしてた」
「ふーん、何のゲーム?」
ここで堂々とエロゲと答える奴がいるだろうか。
正直なところ俺はそういうゲームをプレイした。しかし事情がある。
昨夜、というか今日、友達から勧められたゲームをやってみることにしたのだ。
最初は面白いなと感じていた。しかし違和感も同時に感じていた。やけに女性キャラが多いのである。
それに時々際どい場面もある。
流石にそんなはずはない、友人から面白いよと言われエロゲを送られるはずがない。
そう思い、違和感の正体を探ることなくプレイしていたのだが......そういうシーンが出てきたのだ。
あいつガチかよ......。そう思いながら俺はゲームを一瞬で閉じて寝た。
つまり俺はハメられた側であり、何も悪くないのだ。
「健全な恋愛ゲームです」
「あーなるほど、つまり......」
「違います、健全な恋愛ゲームです」
「......まだ何も言ってないんだけど、というか恋愛ゲーム好きなんだ」
「友達に勧められてやってみただけだ、普段はあんまりゲームはしない」
***
あちこちから話し声が飛び交い、皆が次々と校門を出ていき帰っていく様子に反して、風が吹き、静かな放課後の校舎裏。
俺はハンカチを落としており今日通った道を辿り、探し回っていた。
しかしどこにもない。そして、あるとするば1回だけしか通っていないがこの校舎裏しかないのだ。
ハンカチも妹から貰ったやつなので見つけずに帰ったら、お兄ちゃん? と殺気籠った声で言われボコボコにされるだろう。
もし校舎裏になければ妹に土下座で謝らなければ。
それに俺自身お気に入りのやつだし、大事に使っていたのだ。
あってくれー、頼む。
そんな願いを祈りながら歩いていると声が聞こえてきた。
「僕と付き合ってください!」
ひょいと顔を覗かせてみてみれば、楓と同級生であろう男子生徒がいた。
やっぱり楓はモテるんだな。
よく耳にはしていたが実際見るのは初めてである。
いやまあ人の告白の現場は見ない方がいいのだが。
「ごめんなさい、あなたとはお付き合いできません」
そしてやはり楓は告白を断っていた。
やっぱり断るのか、でも彼氏いないんだしなあ。
もしかしたら楓は好きな人とでなければ付き合えないのかもしれない。
前に結構なイケメンが楓に告ったという噂を聞いたのだが、フったそうだ。
あっもうそろそろこっち来るか。何処かに隠れてあいつらが帰ったら行くか。
そう思い、見るのをやめて元来た道を戻ろうとすると、楓の短い悲鳴が聞こえてきた。
何だ何だと再度見てみれば、壁の方に追いやって、壁ドンというやつをしていた。
壁ドンとはまた違うか。手首を掴んで手を壁に押し付けて逃げられないようにしている。
あれは......ダメだろ。こちらから見ても楓の体は震えて少し怯えているのがわかる。
俺はパシャッとその様子の写真を撮り、2人に近付いていった。
「ねえ、僕は本気で楓のこと好きなんだ」
「......うっうん、えっと、その前に手離してくれる?」
恋は人を盲目にさせるんだなあ。
俺はその男子生徒に近づき、トントンと肩を叩いた。
「だっ誰だ!」
気づいていなかったのか、驚いた表情をしている。
楓の手を掴むのをやめ、俺を強く睨みつけた。
そんな目の前の人に俺は撮った写真を無言で見せた。
すると、みるみるうちに顔が青ざめて行く。
「......ちっ」
舌打ちをしてそいつは去っていった。
楓は余程怖かったのか半分涙目になっている。
可哀想に、あんな奴に迫られて。
「大丈夫か?」
「うっうん、ありがと、お陰で助かった」
見ると楓は手首を押さえている。
「手首痛むか?」
「うん、少し強く握られちゃったから」
「災難だな、モテるって言ってもいいことはないな」
彼女はそれに対して何も答えなかった。
さて俺は帰るとしますか。
何か当初の目的を忘れているような気もするが帰路についた。
***
翌朝、俺は1番乗りでクラスに着いた。
校舎裏でハンカチを探すためである。
昨日、俺は無事妹にフルボッコにされたのだ。
朝の誰もいない教室は新鮮だ。
俺は結構遅い方なので初めての光景である。
俺が教材を机に入れたりと支度をしていると、2人目の生徒がやってきた。
「あっ春翔くんも早いね、おはよう」
楓である。
「奇遇だな、今日は早いのか」
「春翔くんの方こそ、いつも私たち遅い組なのにね」
何故早くきたのかはわからないが、勉強するためとかだろう。
それよりあの後大丈夫だったのだろうか。
「大丈夫だったか?」
「昨日のこと? うん、手首もなんともないし平気だよ」
「そうか、よかった」
準備も終えたし、行きますか。
俺が教室を出ようとすると、楓の声がそれを止める。
「何か用事?」
「うん、ちょっとな、ハンカチを落としたんだ」
「ハンカチ? ああこれのこと?」
そう言ってバッグからペンギンの絵が描かれたハンカチを取り出した。
「あー! それだそれ、ありがとう」
俺は楓からハンカチを受け取った。
楓が拾ってくれていたとは。感謝しかない。
「妹さん、ペンギン好きなんだね」
「まあな、お陰で部屋がペンギンで埋め尽くされてる」
何それ、と楓は笑った。
***
この助けたことがきっかけかもしれない。俺と楓の距離は近くなった気がする。
家に遊びに来るくらいには。......ってだいぶ近くなってないか?
少しデレセリフというか匂わせ発言も増え、スキンシップの回数も増えた気がしていた。
自意識過剰なのだろうか。しかし俺はいつも通りのらりくらりと鈍感なフリをして誤魔化したり避けたりするのだ。
とまぁこうして1ヶ月。いつのまにか相手が俺の家に遊びにきているのである。
とある休みの日、インターホンがなったのでドアを開けてみれば居たのは楓だった。
「やっほ、遊びに来ちゃった」
正直これにはかなり驚いた。かなり仲良くなっていたとは思うのだが遊びに来るとは思わなかったのだ。
居間でアイスを食べていた妹がヒョコヒョコとアイスを食べながら俺のところまで来て開口一番こう言った。
「えーっと、誰? お兄ちゃんの女?」
「おい、もっとレディらしい口調でいなさい」
「ご機嫌麗しゅう、お嬢様。わたくしは一ノ瀬 美桜と申します、あなた様は兄上のgirlfriendでございますでしょうか?」
「お嬢様言葉を喋れという意味じゃないんだ、妹よ。あと地味にガールフレンドの発音をよくするな」
それに彼女というわけではない。友達である。
「ちょうど暇だったし、来てもらって帰らせるのも悪いし、うちでよければ遊ぶか?」
「いいの? じゃあお邪魔します」
「兄様、私の許可は......」
「いらないだろ」
***
家族以外の女性を自分の部屋に上がらせるというのは初めてかもしれない。
「へー、春翔くんの部屋ってこうなってるんだ」
基本部屋はペンギンのグッズか漫画か本が置いてある。
あとは隅の方に追いやったゲーム機たち。
楓は荷物を置き、読んでみたい本があったのか、1番上の棚に手を伸ばした。
しかしギリギリ届かない様である。
俺はそれを見て、楓の肩に手を置き、背伸びをしてその本を取った。
「これか?」
「あっ......うっうん、ありがと、それ、ちょっと読んでいい?」
「別にいいぞ」
楓は上目遣いでこちらを見て礼を言った。まあ別に心は揺れ動かない。
可愛いとは思うが。
そして躊躇なく俺のベッドに座り本を読んだ。
いや、うん、流石にこれは俺の心が揺れ動いた。
別にいいんだけどね。次寝る時すごい申し訳なくなるから。そこで寝るのが。
パラパラとページをめくり、サッと内容を確認してから本を机に置いた。
「ゲームでもするか?」
「おっいいね」
幸い2人でできるゲームがある程度ある。
「格闘ゲーでもやるか」
「ふふーん、負けないよー」
そう言ったものの、楓は俺に勝てなかった。
というかコンピュータにすら勝てていなかった。
「なっ何で......」
「まあちょっと見てろ」
俺はコンピュータの最高レベルを選び、プレイする。
やはり強いが、昔は平然と倒していたので、腕が鈍っているとはいえ造作もない。
とまあ敵の残り体力も残り僅かで、もうすぐ敵が倒せると言った時だ。
後ろから腕が回された。
そしてそのまま抱きつかれて、後ろに引っ張られる。
「え!? ちょっと!?」
背中に柔らかいものが当たり、自分でもわかるくらい顔が熱くなっている気がする。
「なっ何してるんですか、逢沢さん......」
「自分で考えてみれば?」
そう言って楓は腕を離さない。
美少女に突然わけもわからず抱きつかれ、鼓動が脈打っているのがよく聞こえる。
ゲームオーバーの文字がテレビに映し出されるがそれどころではなかった。
そして次第に足も絡め始めた。
「あのー、逢沢さん?」
「離さないもん。絶対」
そして数分後、やっと離されたと思い、立ち上がったら、今度はベッドに押し倒される。
「......何で私はこんなことをしてるでしょう?」
楓は少し不敵な笑みを浮かべる。
心臓がさっきから落ち着かない。それもそうだろう。美少女に押し倒されるシチュエーションなんて中々ない。
今まで鈍感を取り繕ってきたわけなのだが、これに関しては誤魔化しきれない。
「そっそういうの好きな人とかにやった方がいいぞ?」
俺を揶揄って遊ぶつもりに違いない。そう思って俺はそう言った。
しかし返ってきた言葉は......。
「春翔くんが初恋の人だから。あの時助けてくれたわけだし、見た目で判断しない紳士だし、まあ私の隣になって告白来なかったの春翔くんだけだったからっていうのもあるけど」
堂々とそう言われて俺は何も言えなく、何もできず、ただ押し倒されているだけ。
次第に唇が近づいていく。
......俺はどうすればいいんだ?
その時だった。
「おにいー、ちょっとヘルプー......」
妹が扉を開けた。
あっやばい、まずい。
「お取り込み中失礼しましたー」
サーっと何事もなかったかのように妹は扉を閉じた。
扉を開けた瞬間、楓は俺から離れたが、おそらく見られただろう。
「あああ、えっと、私もう帰るから、じゃっ」
「おっおう、まっまたな」
両者顔が限界まで紅潮していた。
あのまま妹が来なかったらどうなっていたのだろうか。
その後、妹に「お兄ちゃん? 私はピュアな女子中学生なんだよ?」と言われ、少々怒り気味だったのでペンギングッズを渡してなだめると同時に黙っておいてもらった。
***
後日、めちゃめちゃ気まずかったのは言うまでもないだろう。
目が合えば逸らしてしまうし、無理にでも意識してしまう。
あんなのやられて堕ちない男子いないだろ......。
いつも通りにやり過ごそうとしても無理だ。意識が違うところに行ってしまう。
はぁ、とため息をつき、額を手で押さえた。
昼休み。校舎裏のベンチ、やっぱりここが落ち着く。
人もあまりいないのでゆっくりと心を落ち着かせることができる。
教室も廊下も騒がしいし、屋上はリア充の巣窟となっている。
というわけで俺は最高の穴場スポットを見つけることができたというわけだ。
本当にごく稀に人は通るが気にならない。
まあでもそろそろ教室へ戻ろう。
と言った時だ。
楓が来ていた。
「春翔くん、隣いい?」
「えっああ、いっいいぞ」
しまった、折角落ち着いて午後に臨めると思ったのにこうも来られると心臓が......。
すでに少し顔が熱い。
「ねえ、春翔くん、この前はその、あんなことしてごめん」
「まっまあ、別に俺は気にしてない、でも好きな人とかにやった方がいいぞ、それ」
過度なスキンシップは良くない。下手したら勘違いされかねない。
しかし楓はキョトンとした顔でこちらを見た。
「あれ、あの時言わなかったっけ、君が初恋の人だって」
「ん?」
俺は前のことを思い出す。
......あっ確かに言ってたような。
そして楓は俺の首元に腕を回して、こう囁いた。
「だから、返事頂戴? 私と付き合ってくれる?」
お互いの息が聞こえるくらい近くなっている。
そのせいで鼓動が速くなりすぎて返事どころではない。
「おっおう......」
「ん、本当!? じゃあこれからよろしくね」
そして楓は顔を近づけ、俺の唇に口付けをした。
「私のキスだけで顔赤くなってるの本当ピュアだよね」
......ていうかさっき俺告白の返事「いい」って言ったようなもんだよな。
「じゃあこれからよろしくね、私そろそろ教室戻るから」
そう言って彼女は去っていった。
もうすっかり彼女の虜になってしまったのかもしれない。
胸が落ち着かない。顔を手で隠し、ベンチにバタッと倒れるようにして横になった
最後まで読んでいただきありがとうございました。