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「天皇の恋人」(Emperor's Lover):灯×澄善

#記念日にショートショートをNo.57『風に舞い、桜ひらひらり:前編』(Dance in the Wind,The Cherry Blossoms Flutter:First Part)

作者: しおね ゆこ

2021/3/3(水)ひなまつり 公開

【URL】

▶︎(https://ncode.syosetu.com/n5140ie/)

▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/nee27ae3ef29e)

【関連作品】

「天皇の恋人」シリーズ

 彼女と初めて出逢ったのは、彼女が16歳で僕が22歳の時だった。

 「いらっしゃいませ。」

カラン、とベルが鳴った音に振り返った僕は、思わず目を瞠る。店の入り口に、真っ白なコートを着た、頬の白く染められた美しい女性が立っていた。

「…どう、されましたか。」

驚いたのは女性が美しかったからじゃない。彼女が皇族だからだ。

彼女は僕の言葉など聞こえていないかのように店内を見渡すと、その場にゆっくりと頽れた。

「大丈夫ですか!」

彼女に駆け寄り、その肩に手を添える。

「…ごめんなさい……少し…目眩がして……」

そう謝罪の言葉を口にするが、その声は弱々しく途切れがちで、身体も熱い。

「いえ、お気になさらず。すみません、失礼します。」

相手が皇族であるということに少し躊躇しながらも彼女の額に手を添え、熱を測る。

「熱が出ているようです。僕に体重を預けていいので、身体を楽にしてください。あの、店の外に関係の方は……?」

皇族の彼女がなぜ一人でここへ来たのか、外に護衛はいるのか、分からないことを問う。彼女は皇族だ。人助けにも壁がある。

「…いないわ……いま私がどこへいるか……宮中の者で知っている者は…いないはずよ……」

「では早急に宮内庁に連絡を入れた方が……」

「連絡しないで……」

僕が言葉を言い切るのを、彼女の否定の言葉が止めた。

「しかし……」

驚きと困惑で躊躇う僕を、彼女が説得する。

「…今日は一年のうち……私が普通になれる数少ない日なの……公序良俗に反しない限り……護衛なしで自由に外出が出来る……だから…日付が変わるまでに帰れば大丈夫だから……」

そうか、今日は雛祭りだ。皇族の休日は、天皇が自身の誕生日,その他の16歳以上の皇族が自身の誕生日と雛祭り,15歳以下の皇族が自身の誕生日とこどもの日、であると聞いたことがある。

「分かりました。ただ、夕方の6時には連絡をさせていただきます。さすがに皇族の方を無断でお預かりするわけにはいきませんから。」

「…ありがとう……ごめんなさい…ご迷惑をお掛けして……」

そう弱々しく声を発した彼女に微笑む。

「体調が優れない時に迷惑も何もありませんよ。あの、奥に運んでも構いませんか?」

彼女が頷いたのを確認し、身体をそっと持ち上げる。思った以上に軽く、袖の先から僅かに覗く手首は細いものだった。傷を付けてしまわないように、包むように手を添える。

出来るだけ負担をかけないように静かに店内を歩きながら、腕の中で緊張している彼女に声を掛ける。

「ほら、身体を楽にして。大丈夫、何もしませんから。したら僕は大逆罪ですよ。」

僕の言葉に緊張がほどけたのか、彼女が安心したように微笑んだ。と、緊張がほどけるついでに身体を縛っていた糸もほどけたのか、熱が抜けるように筋肉が緩む。

「皇女さま……?」

そして微かな寝息が空気に馴染んでいく。

腕の中でスヤスヤと寝息を立てるそのあまりにも無防備な姿に、思わず笑みが零れた。彼女を店舗と繋がっている自宅の寝室へと運び、そっと僕が使っているベッドに寝かせる。手早く氷枕を作り彼女の額に載せると、店舗に駆け戻り扉の外側に〝Close〟の札を下ろす。お店のホームページにアクセスして臨時休業に変更すると、種々のアカウントでその旨を投稿する。

寝室へ戻り、湿らせたタオルで彼女の肌を拭いたりしながら、様子を窺う。

普通の16歳の女の子と同じように眠るその表情は、ただただ愛らしかった。

【登場人物】

○桜宮 灯(さくらみや あかり/Akari Sakuramiya):16歳

●京家 澄善(きょうや すみよし/Sumiyoshi Kyouya):22歳

【バックグラウンドイメージ】

①設定・ストーリーについて

○ウィリアム・ワイラー 監督作品/『ローマの休日』(Roman Holiday)から

②「京家ましろ(きょうやましろあん)」について

○望月 麻衣 氏作/『京都寺町三条のホームズ』シリーズの主人公・家頭 清貴とヒロイン・真城 葵から

・「京家」:京都の「京」+家頭の「家」

・「ましろ」:真城の読み

【補足】

①年齢・時間経過について

○灯16歳・澄善22歳:出会い(本作)

○灯18歳・澄善24歳:交際承認

○灯22歳・澄善28歳:交際を断つように要請されている

②皇族の休日について

○天皇:自身の誕生日(2/23)

○その他の16歳以上の皇族:自身の誕生日(2/23)・雛祭り

○15歳以下の皇族:自身の誕生日(2/23)・こどもの日

③大逆罪について

現在の刑法には存在していませんが、作中では存在しているものと定義して記載しています。

【原案誕生時期】

公開時

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