チェンジは無しで
初めまして。ボツボツ書きます。
バトルがある筈なので、R15を入れてます。
チェンジは無しで
都心部から離れた街の川沿いに建つ瀟洒なマンション
指定された上階の部屋番号を呼び出して、指定の呼び名を告げると、すぐに返事があり、階層専用エレベーターが扉を開けた。
エレベーターは上昇してしばらくして止まる。清潔な白い廊下に出て、落ち着いた色合いの絨毯の感触を感じながら、部屋番号を探して歩く。部屋前でインターフォンに来訪を告げると、扉が開いて、予想していた、そして検索で見つけた通りの公務員風の青年が招き入れてくれる。上着は無くて、白シャツにパンツのラフな格好で、こちらを一瞥して
「チェンジは無しで
どうぞ」
入った部屋は、応接室で、つまり、スイートルームという奴だ。
黒のセーター、ジーンズ、ブーツ、魔術師のマントを裏張りに縫い込んで隠したトレンチコートを脱いで、左手に持つ。
「良かった。マジでチェンジは勘弁して欲しかったから」
「そうですか。それは良かった。ちゃんとお話ができるみたいで」
「ナニ?」
「貴方みたいな美人がチェンジを恐れるって、やっぱり異種族って事で避ける人がいるんですね」
「表向きは差別は禁止、ダメって言っても、こういう「サービス業」だと、本音のところはって感じかな」
「でも、ビックリですよ。貴方みたいに美人で、魔力が高い方って少ないですよね」
ヤバい系かな
「あ、お客さん、チェンジしてもらっていいかな」
「今更チェンジはだめですよ。捜査や査察じゃありませんから、そんなに身構えないで大丈夫ですよ。アンケートみたいなもんですから。落ち着いて、座ってもらえます?」
「はぁ、別に犯罪は犯してないつもりだけど」
何だかエスコートしてもらいながら、高級そうなソファに対面で座る。
「そうですね、犯罪じゃあありませんけど、特殊な状況なので、出来れば、穏便に済ませたいんですよ、よろしいですね」
「はいはい、で、何が気になったのかしら」
「ま、変な話、人気が出過ぎたって言うか」
「え?」気を付けてたはずだけど
「満足度が高くて、リピーターも激増、で、ネット露出不可で実際何も出てこないって不自然です。
で、引っかかってんのは魔法でなんかやったってことかな、と
そうです。ハッキリ聞きますけど、眩惑だけして、肉体接触は実はない、ってことで間違い無いですか。」
「はぁ、そうだけど、ダメなの?」
「成人同士の合意の上なら構いません。でも、微妙なところでして。貴方自身が麻薬的な扱いに成りかねないんですよ、今までの下調べだと」
長くなりそう…
「外しても?」
「え?ええ、どうぞ」
『身隠しの耳飾り』を外すと、視界がすっと明るくなる。
「それが本来の姿なのですね。金の瞳に虹色の虹彩、金髪、だけを隠していたのですか」
「ええ。変わり過ぎても違和感があるし」
「では、まず、改めて貴方のご出身、職業を伺っても?まず、ご出身は、こちらではありませんね」
「そう。扉の先。名前を言えない場所よ
ここからは、オフレコね!」
「思い出して報告書にするのは許可してもらえますかね」
「思い出せれば。」
「それでいいです」
種族は人。
「一応、種族は、人種に、エルフとヴァンパイアのミックス、職種は、サキュバス、魔女、錬金術師のマルチロール。多分、翻訳の行き違いだと思うけど、職業は重複できて、それとは別に称号があるのよ。聖女、聖騎士、守護者とかね」
「えっと、称号なんですか、それら?
覚えた魔術の系統で勝手に付くの」
「職業的なものとは…」
「違うわね、実際に働いたものは職業だけど、称号は使うために世界から貰う許可!だからこれは、そっちの翻訳ミスみたいだけど、職種とか称号はスキルセットに付いた名前で、不変なものじゃなくて、条件が揃えば、重複も可能な、本当に職業の種類なの。」
「それでは、まとめますね
身分としては、あちらから派遣された使節団の扱いで、現場の仕事としては、害獣退治の依頼で来訪されたと。噂以上に害獣が弱く、ご自分一人で依頼の用件に足りてしまったため、他のパーティメンバーが働かなくなったので、最終的にチームは解散されたと。現在は、比較的平和な世界を堪能していらっしゃると」
「一応、正規の使節団なので任期を過ぎれば一度帰還する義務があるのだけれど、せっかく来たのに、まだ帰りたくないから、法に触れない範囲の伝手で生活基盤の構築を目論んでます、はい」
「うちは、公安局異界外務課、名前の通りです。ご存知の通り、相互交流が進んで、適正な許可の範疇から外れてしまった状況を解決するために設立されました。今回は、魔獣退治のために招聘された使節団という名目の傭兵団が任務終了後、空中分解して、主要メンバー数名を残して帰還した経緯の調査です。帰還時には、それまでの小遣い稼ぎで成果があったのか、ほとんどのメンバーは納得して帰還していまして、残り一名の行方を追っていたところです。」
「それで、見つけただけで解放してもらえるのかしら」
「ビザ切れですからね…」
「労働で対価を支払うのは、どうかしら」
「切り出してくれて助かります。そのつもりでしたので。
新しいビザと、署名済みの契約書がテーブルに載っているので、確認してください」
「手回しが良過ぎて、罠に掛かった気分だわ
事務所の住所、都心じゃない、どうして、今回はここだったの」
初回くらい、お洒落な場所でも良いでしょと言われれば、それもそうだし、文句は無い。
アルバイトで害獣退治なら、まぁ、来た時と同じだし、ビザ更新がセットなんだから、受けない理由が無いし。
公安の名刺をもらって、呼び出し用の呪符を交換したら、夕飯をご馳走になるかな。
扱き使われなきゃいいんだけど。