悪意
「タイムアネステシア発動」教授がそう言って ボタンを押す。
しかし しばらく待っても いつも直ぐに発生する 球場電磁場が出ない。
「教授?」
教授に声をかける。その間も 入口で ガチャガチャ気配がある。
教授が 「うん?」と言いながら もう一度「タイムアネステシア発動」と言い ボタンを押す。
しかし やはり? 球場電磁場が発生しない。
『ちくしょう!ここに来て 故障か? なんて運が無いんだ』俺は 深く絶望する。司令官の死も無駄になる。。今までの努力って。。。
教授は 機器をいろいろと確かめた後。
「あー! そうなのか? そういう事なのか! そんな形をして居ても そんな姿をして居ても やっぱり 生きていたい子が居るんだねー!」教授は続ける。
「内木田くん。これはね。大脳システムの抵抗だよ。素晴らしい! 私達が 彼らに対して『悪意』がある事を知っているんだよ。『タイムパラドックス』を仕掛け様としている事がわかっているんだよ。彼らも『死』を恐れている。不思議だねー。凄いねー」教授は 興奮気味に言う。
「教授。悪意ですか?」俺は やっとの思いで聞く。
「そう 悪意だよ。悪意」教授は やや楽しそうに答える。
『はぁー』更に絶望感が増し 膝から崩れ落ちる。どうでもいい様な気になってくる。
「お前ら そんな姿でも 生きて居たいのかよ? ふざけるなーーーー」俺は叫び 次元カプセルの床を両手でバンバン叩く。右手の短銃が手に当たって 痛む。心の方が もっと痛い。
俺の叫ぶ声に 驚いたのか? 神尾が泣き出す。
『泣きたいのは 俺の方だ』と思う。
『はっ!』と気が付く。
俺は急ぎ立ち上がり 次元カプセルの扉を開けると オペレーターの椅子に座る神尾に 駆け寄る。
泣きじゃくる神尾の 両肩に両手を置き 大きな声で言う。
「なぁ! 神尾 聞いて欲しい! 俺達はいつだって いつも3人一緒だった! もう 頼れるのはお前しか居ないんだ!! お前なら やれる。頼むよー 神尾ーーー」
泣いている神尾を 抱き上げ 次元カプセルまで連れて行き 扉を開けて中に入れる。
『可愛いくて 愛おしい』
俺は ゆっくりと 神尾に『キス』をした。俺にとって 人生初のキス。そして おそらく最期のキスだろう。
なんとなくだが 神尾の目に 生気が戻った様な気がした。
瞬間 後ろの司令室の入口が突破される。俺は 両足に激痛が走り 膝から崩れ落ちる。神尾の顔が上がって行く。両足を撃たれた様だ。
「いけー 神尾!! 俺達は いつだって3人一緒だった! 食べている時も 遊んでいる時も そして それは死ぬ時もだー!!!」
そう言って 右手に持っていた短銃を 神尾の右手に掴ませる。そして後転すると 次元カプセルの扉を閉める。
「教授ーー!」
教授は理解してくれた様だ。
「タイムアネステシア発動」教授が ボタンを押す。
すると 俺の目の前に いつも見慣れた球場電磁場が発生した。
涙が溢れ出てくる。神尾の目を見ると そこにあったのは 生気のある元気だった頃の神尾の目だった。
「いけーー」
もうすぐ 神尾が消える。俺は今度こそ 俺達の『勝利』を確信した。
しかし 俺は神尾が消えるのを見届けてはやれなかった。なぜなら 俺は死んだからだろう。
いつも『パラダイム』を お読み頂き 本当にありがとうございます。
次回で ひとまず 最終回となります。
赤岩の死の真相とか 書きたい事は いっぱいあるのですが 本編に紛れ込ませると 時間感覚がゴチャコチして
書くの難しいかなぁ。と思い 断念しました。
また 機会があれば 書きたいと思います。
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