Episode.1 自己紹介と転落。
僕の名前は石垣拓巳、そう、どこにでもいそうな至って普通な1人暮らしの19歳大学生だ。特に目立って良いところも悪いところもなく、フツーの大学生活を送っているわけなのだが、そんな僕にも1つ得意というか、趣味がある。それは「戦国」。
きっかけは小学生の頃、従姉妹がいらないからといってくれた武将が出てくるゲーム。このゲームで戦国武将に興味を持った僕は中学生になって日本史にハマり、現在に至る…というわけだ。これテストに出るから覚えておくように。………いいえウソです。ちなみにその従姉妹は今じゃもう大人になって仕事をしながらアニメを見たりラノベを読んだりと大人生活をマンキツしているそうだ。
……などと丁寧に自己紹介をしている暇はないのである。僕は今非常にピンチに立たされている、いわば「背水の陣」といったところだ。
「オイオイ兄ちゃん、どうしてくれるんだあ〜?」
僕は3連休の日曜日に電車で1時間ほどの名スポットで武将のゆかりの地巡り……をするはずだったのだが、歩いているうちに足元の悪い道で足を滑らせ転んでなぜか後ろにいた不良軍団にぶつかって絡まれ……という漫画か?と疑うかのような運の悪さを発揮しているのである。
「オイ、話聞いてんのかあ?」と不良①。
「この服どうしてくれるんだよ?」と不良②。
「自分が何したかわかってるんだろうなあ?」と不良③。
「いや逆にお前らはここで何してたんだよ…」とツッコミなくなるのを心の中にとどめる。
いかにも面倒臭そうな顔をして静かに忍び足でその場から立ち去ろうとするカップル、おじさん、観光客… 勘弁してくれよ〜
「何とか言えや何とかあ?」と不良②。
「いやいやお前らの語彙力どうなってんだよ」…とこちらも心の中にとどめたまではよかったのだが……
バキッ
掴んでいた杭が不吉な音を立てて折れたのを見て思い出した。
「ヤベ…ここ…崖だっt…うぉああああぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」
流石に見てみぬフリをしていた人達も放ってはおけなかったらしい。
崖の下に落ちながら
「な、なにしてるんだ!」という怒号を聞いた。
「お、俺死ぬの…か…?」
……
「いいかタク、死に際によくきく「走馬灯」っていうのはな、実は回り灯籠とも言われる灯籠でな、影絵が回転して動くようになってるんだ。江戸時代中期に夏の夜の娯楽として登場して、夏を表す季語にもなってるんだぜ」
「へえ〜そうなんだやっぱ物知りだなー優等生大輝はー」
……
そうか…これが走馬灯か……
「って走馬灯の中で走馬灯の説明をするんじゃねえクソウンチク野郎があぁ‼︎」
なーんてツッコむ余裕があった僕は気づいた。あ、ちなみにこの大輝くんは高校の同級生である。説明以上。
「ん?この崖はそんなに高かったか? かれこれ転落してから4、50秒は経ってるぞ?」
死ぬ間際にとうとう頭がおかしくなったのかと思った。と我に帰った途端、上から何か重たい物が落ちてきた。
「グハッ」
「ぎゃあああ」
その「何か」が頭に直撃し、フッっと意識が消えた………
僕が聞こえたのはその「何か」があげたのかも知れない悲鳴までだった…