王族がそんな気安くて良いのだろうか
人の噂は75日と言いますが、褪せる事もなく絶好調です。
「どうしたものかしら」
悩みながら歩いていると曲がり角で人とぶつかってしまった。
その弾みで転びそうな所を支えられる。
ドンッ
「っすみません」
「すまない、余所見をしていた」
「いえ、私も考え事をしていました」
体勢を立て直しお礼を言う。
「助けて頂きありがとうございます」
「怪我がなくてよかったよ」
その方は長い髪をひとつに結び気品のある佇まいで何処かの貴族の方だろうという事が感じられた。
「そうだ、ちょっと迷子になっていたんだ、道を教えて欲しいんだけど」
「畏まりました、どちらに向かわれるのでしょうか」
「この国の王妃に用事なんだけど……」
「エカテリーナ様にですか?」
今日はエカテリーナ様への来客は聞いていない。少し警戒しつつ問い掛ける。
「どの様なご要件でしょうか。本日はエカテリーナ様への来客は伺っておりません」
「ん? 君、王妃の侍女? 丁度いいや、ちょっと頼まれ事をされてさ」
「はぁ」
「大丈夫、怪しくないから! ちゃんと知り合いだから!」
十分怪しいですがとりあえずエカテリーナ様に確認しなければ。
「分かりました。ご案内致します」
※
コンコン
「エカテリーナ様。お客様が来られています」
「え? 今日約束なんかしていたかしら?」
考える姿にやっぱり……と思っていると後ろに立っていた筈の彼が私の横をすり抜けて部屋に入る。
「ちょっ!! お待ちくださっ!」
「エカテリーナ! 久しぶりだな!」
「グレンお兄様!?」
「お、お兄様……!?」
なんとその方はエカテリーナ様のお兄様。ガルシア王国第2王子グレン・ガルシア様だった。
「お兄様、どうしてこちらに?」
「ん? ちょっと用事でこっちに来てさ、ついでに妹の顔も見て行こうかと思ってな」
「それなら来るって連絡して下さればいいのに」
「たまたまだったしな、あとこれ兄上からのお土産。お前の好きな紅茶」
「うわぁ! ありがとうございます! この紅茶こちらにはないので嬉しい」
突然の訪問で驚きましたがエカテリーナ様の嬉しそうなお顔に私も嬉しくなります。
「あんたもすまないな、無理言って」
「いえ、こちらこそ殿下に失礼を致しました」
「エカテリーナを心配してのことだろ」
「寛大なお心に感謝致します」
「いくら隣国とはいえ住むとなると分からない事もあるだろうし心配していたんだが、しっかりとした侍女も付いてくれてるみたいだから安心した」
「そうなの、お兄様。リリィにはたくさんお世話になっているのよ」
「リリィって言うのか?」
「リリアン・バイデンと申します」
「俺はグレンだ。よろしくな」
「よろしくお願いします殿下」
「グレンでいいよ。俺もリリィと呼ばせてもらう」
「いえ、私はただの侍女ですので……」
「大丈夫よリリィ。お兄様は気に入った方には名前で呼んで貰いたい方なの」
「そうそう、堅苦しいのは苦手なんだよ」
「分かり……ました」
王族ってなんでこんなに気安い人が多いのかしら。
そんな風に思っていると。
「グレン殿下!」
「陛下、お久しぶりです」
「こちらに来ていたなら私にも声を掛けて下さいよ」
聞き付けたのか陛下もやって来た。この2人は歳が近いからか仲が良い。
「陛下が良い侍女を付けてくれているから妹も安心して過ごせています」
「エカテリーナの為ならなんでもしますよ。それにこの侍女は学生の頃から信用に足る者でもあります」
「ほぉ、そんな昔から」
陛下と私は学園にいた頃の先輩後輩で当時は殿下だった陛下が3年になった年に私が入学したのだ。
その頃は殿下に扱き使われるわおちょくられるわで本気でしばこうかと思ったのは内緒である。
っとこんな事をしている場合ではないわ。
「エカテリーナ様それでは私は一度下がらせて頂きます」
「あ、うん。ゆっくりしてね」
「ありがとうございます」
「リリィは何処かに行くのか?」
「本日は午後休を頂いています」
「用事はあるのかい?」
「いえ、特には……少し市場に行こうかと思っていたぐらいなので」
少し考えたグレン殿下は何を思ったのか「それなら俺もついて行こう!」といいだした。
次回明日の18時に投稿します