師匠、おかえりなさい
夢を見た
あれは幼き記憶…
ゆりかごの中にいる私を見つめる師匠がそばにいて
私に向けて何かを言っている。
そして無表情だった顔がいきなり歪み…崩れる
ゆりかごにもたれかかったのかゆりかごがぐらついて師匠の顔が見えなくなる
なんで泣いているんだろう
あの顔は見たことがない
しばらく経って顔に影が落ちる
私に向かってなにかをつぶやくが…
理解できなかった
私にとっては近くの窓の隙間から吹く風のようにきこえる
わかるはずがないのだ
「おい、お前朝からそのままか?」
そして今、私の目の前には、あの頃からちょっと老けた師匠の顔がある
「あ、あー…師匠、今日もお綺麗です」
まずい。なにもやってなどいない。
洗濯物なんて途中だし…下手したら、引き上げきれていない師匠の服が水場で回っている。
「…おまえ…」
師匠が片膝をつき起き上がらせようとする。
その時、頭が…目の奥に鈍い痛みが走った。
「いたっ」
耐えきれずに目をおさえる。
「なに?どうした?…まさかっ。」
はっと息をのむ声が聞こえる…が、最後に聞こえたのは自分が崩れ落ちる音だった。
帰り道にあいつが落ちているのが見えた。
そして、あいつを起きあがらそうとしたら、急に目を押さえている。大切な目を押さえて。
「おいっ、起きろ、おいっ!」
まずいことになった。もしかするとと思い、自分の服を捲り上げ、太ももを見る。
…消えている。
どうして…けれど、これは明確だ。
「私がこいつに触れることはできない…ラン、すまん」
もう一人の同居人の名を呼ぶ。待ってましたとばかりにそばにくる。
「わかりました。持ち運びますね。」
話の早い奴だ。
「ありがとう。今日は、一人にしてくれ。よろしく頼む。」
運んでいく背中を見ながら太ももをさする。
いつ消えたんだ…
思い当たる節もない。
それより応急処置をしよう
そして、どこかへと歩いていった。