師匠、話してください!前編
「師匠、せんりがんってなんですか?」
玄関でやりとりを終えてベッドに入ってきた師匠に言う。
「まだ知らなくていい」
長い黒髪を抑え、跡がつかないように枕に頭をあずけて、そう言った。
どうやら眠たくて、説明するのが面倒らしい。
綺麗な人で、可愛いとこあるのにモテないのは、相手のことを考えた行動をしないからだろう。
「今、失礼なこと考えたな?」
「別に?」
「お前のことミて…あっ、いやなんでもない。」
「師匠、昨日もそう言いましたよ?なんで教えてくれないんですか〜!」
腕を掴んで揺らす。
「…寝る前に言うからだ」
ほら寝ろ、と私を腕の中に入れる。
その扱いがどうも気に食わなくて、蹴る。
「やめろ、人の嫌がることはするなと言っただろ?こうするやつは…」
あっ、これは!服の中に手が入ってきて…
「あひゃっ…ちょッ…くふっあはは」
こちょこちょされる。
師匠こそ、人の嫌がること、平気でやってるくせに何をいうんだ。さいてーだ!教えてくれないし、
勉強熱心でいいことじゃないか!
ほんとに…
目の前が霞んで暗闇の中に落ちていった。
気がついたら朝だ。
窓からさす朝日を避けるように転がって師匠の枕に顔をうずめる。
もう何日も同じやりとりを繰り返している。
どうして教えてくれないんだろう。
朝にきけばいいじゃないかだって?
何故か朝には聞かない。聞くことができない。
師匠なりに理由があるかもしれない。普段はなんでも教えてくれる。自分でと思ったが、本を探してもない。すると扉がいきなり開いて、
「お前、なんでいつもそうやって人の寝汗嗅いでるんだ?…正直、きもいぞ…」
なんでそこで、「私、ひきました…」って顔するんだよ!師匠だって、庭師のジロウとサブロウがイチャイチャしてるって、興奮してたじゃないか!どんぐりもびっくりな背比べだ!
師匠に文句を言いつつ着替えて、いつのまにか、椅子に座って卵焼きなのか、目玉焼きなのか、スクランブルエッグなのかわからないものをスプーンで食べていた。
「どうした?今日は砂糖と塩、間違えなかったぞ?」
当たり前のことなのに、どこか「私、偉いだろ!」と言ってるようだった。
急にあの枕の匂いが思い出されて…ふと目を逸らす。
遠くの方で抗議する声が出てくるが聞こえない。
それよりも…
今日だ。今日はちゃんと聞くんだ。