第七十話
ある日の夕方、ノックターン王都ジュレーブの門を、とある二人組がくぐった。
あと数刻で閉門というこの時刻、駆け込むように入ってくる旅人や商人達がひしめくこの場において、ごくごく一般的な旅装な彼らは特に目を引くわけではない。強いて言えば二人組の一方が小さな子供であることくらいだ。子供一人だったら非常に目立つところだが、隣にいるのが大柄な男なため、彼の身内と勝手に推測され、頓着されない。
大柄の男――ベルが入都手続きを済ませ、子供を振り向いた。
「さて、今日はどこに泊まろうか?」
子供――クレアは手慰みにいじっていた小石を放った。
「ん…あの王子に貰った路銀はまだまだあるんだろ。折角だし上等な宿にしようぜ」
「そうだな。ここ暫くまともな寝台で寝てないし、今日くらいはゆっくり休みたいしな。できるなら大通りに面した宿だと安心なんだが…」
「別にそこまで拘らねえけど」
「だめだ。都会であるほど治安の悪さも格段にあがるんだ。子供だとすぐに路地裏に連れ去らわれてしまうぞ」
「ふん」
子供―クレアが小さく笑った。クレアをどうこうできる者など路地裏にたむろっているゴロツキ程度の中にはいやしない。ベルの前で刃を振るったことはないが、ここ暫く一緒に旅をしている中で、何となく察してはいるはずだ。だが、やはりベルは全うな常識人らしく子供というだけでクレアを庇護対象とみなしているようで相変わらず甲斐甲斐しい。
夕日に染まる街並みは、宿や酒屋の前で声を張り上げる客寄せの姿や、仕事帰りだろう、どことなくくたびれた男たちが殆どだった。酒を提供する店が一斉に開店をはじめ、まっすぐ家に帰る気のない男たちはめいめいなじみの店に消えていく。どこからともなく漂ってくる肉や油の匂いに、クレアの腹が空腹を訴えた。
「とりあえず、まずは飯だな。お腹すいた」
「俺もだ。宿を見つけたら、店を探しに行くか、そのまま宿で飯を頼むか」
「宿で食おうよ。今日は早く休みたい」
のんきな宿と夕食の話は、旅人にとってはごくごくありふれたものだ。ベルももちろん言葉の通りのことしか考えていない。
しかし、クレアは違った。
……ジュレーブに近づくにつれてアルフェッラの手先らしき者たちがぱたりと姿を消した。
これまで何かと邪魔臭い奴らだったが全く姿を見なくなって二日ほど。何か別の指令が下りてクレアを狩ることは後回しになったのか、それとも単純にか奴らを撒けただけか。いずれにせよ全く見ないことに逆に落ち着かない。
ここにレイディアの手がかりがあるのだろうか。宿というものは治安のいいものほど街の中央部に近づく。そうすると警備隊も日夜巡回しているものだし、貴族を相手にすることもある為、宿の従業員の質も格段にあがる。凶手達の動きも多少は制限される。
――それに、レイディア様の情報を得られるかもしれない。
下町での情報収集は問題ないが、中央部での情報収集はやはり宿が中心だ。良家の子女でもないクレアが上流階級が行きかう中央部でむやみに動いては非常に目立つ。宿の人におすすめのお菓子屋さんでも聞いていかにもおのぼりさん的に街をうろつこうかと画策する。
「なあ、塊肉を揚げたヤツとかあるかな」
「お、いいな~それ思い切りかぶりつきたいな~肉なんてここ数日ご無沙汰だしな~」
のんびりと宿を探しながら飯の会話をしながら街を歩く。
――それに、レイディアが裏路地で落ちぶれているなんて想像もつかない。何かの偶然でどっかの貴族に保護されているって方が納得する。
何の根拠もないが大当たりな予想を立てたクレアはベルについて夕闇の街に消えていった。
巫女様は大変素晴らしいお方でございます。
まだ二十にも満たぬ御歳ではございますが、陛下のお母上であられる先代の妃殿下とも引けを取らぬご立派な心根をお持ちです。
まだお仕えして数日ですが、わたくしは幼いころから陛下の傍にあり、王宮にて権謀術数の荒波を掻い潜ってきました。人を見る目はあると自負しております。そして王宮という栄えある場で勤めるからには、最高位の方にお仕えしたいという願いは使用人として誰もが思うもの。その点でいえば、巫女様はご身分も気品も兼ね備えた申し分のない方でした。そして何よりも普段はお隠ししているお顔をわたくしにだけさらしていただけるということ。お美しいそのお顔を、正体を知るわたくしにだけ。あの黒曜石の瞳を間近で拝見させていただけるのはこの上ない僥倖です。
ただ、彼の方がいらっしゃる折、遠征中の王から内密に手紙を受け取るまで半信半疑でした。
――身分はまだ伏せるが、しかるべき処遇に遇されるべき女人を一人同行させる。王子の乳母として城に上げるため、王太子宮の調度品を一新せよ。そば近くに仕える人選はお前が特に信用のおける者をおけ。
といった内容の手紙を受け取り、リアンヌはとりあえず王の御命令に従ったものの、納得できたわけではなく。万が一、王をたぶらかしたろくでもない女ならば早々にお引き取り願おうと王太子宮付きの侍女らと話し合い、結果的に杞憂に終わったものの、当初は何事かと思いました。
ただ一つ、不満とすれば、巫女様が何も求めてくれないことだったが、巫女様の気持ちの上では一時的な客人のつもりで、決してリアンヌの主人のつもりはない様なのでそこは致し方ないと自分を慰める。
ノックターンは元々アルフェッラと懇意にしてきた国柄か、とにかく“みこ”様に対して心酔している者が多く、リアンヌも例にもれず、幼い頃より“みこ”に対して平和の祈りを捧げてきた。心の拠り所でもある巫女様には何不自由なく、日々をお健やかにお過ごしになっていただきたい、とリアンヌは切に願う。そしてそれはリアンヌが自ら整えて差し上げられるという状況にこの上ない充足感を感じていた。ここ数日彼の方を観察して好みを把握し、日々着々と巫女様好みの—―質素に見えるけど最高級の調度品やお召し物――を揃えていくのがリアンヌの、否、巫女様付きの侍女達皆の日課となっている。
何が言いたいかというと、巫女様の一番近くに侍ることができて大変幸せであるということだ。
そんな“巫女様”に、先程暗に釘を刺されたことで、リアンヌは罪の意識で胸が張り裂けそうな思いをした。オズワルドが来るのがもう少し遅ければ、危うくレイディアの足元にすがりついて全て暴露してしまうところだった。
ああでも、巫女様に直接祈りを捧げられるのはそれはそれで至福…いやいやでも、陛下より、何とか滞在期間を引き延せと仰せつかっているし…。
レイディアは王太子の立場を確認し、様子が落ち着き次第、王城を出て行くつもりらしいので、裏であれこれと画策しているリアンヌだ。オズワルドはレイディアの滞在を“延ばす”のではなく、“ずっと”ここで暮らしてほしいと思っているのは明白で、その思いはリアンヌも同じ。オルテオ殿下もたいそう慕っておられる。ただの期間限定の乳母なんてお立場ではなく…正式な母としてのお立場となって頂けたら…
――なんてことを夢想しながら、リアンヌ女官長はオズワルドとレイディアが並んで池を眺めている後姿を、そうとは悟られずにうっとりと眺めていた。
オズワルドはレイディアの腰にそっと手を添えており、レイディアも特段邪険にはしていないように見える。今の時期は池に浮かぶ花などは咲いてはいないが、それでも庭の景色を楽しめるようにと庭師たちがあれこれ工夫して美しく整えられていた。
陛下が庭を楽しむなどということは殆どなく、顧みられることはなかったが、今漸く庭師たちの苦労が報われたことだろう。
オズワルドは普段の尊大さは鳴りを潜め、レイディアの歩調に合わせてゆっくりと庭を散策する様子は、リアンヌから見ればまるで初々しい恋人同士のよう。甘やかな雰囲気がある訳でも、二人が見つめあったりしている訳でもないがリアンヌにとっては十分だった。何故ならオズワルドは男児を設けるために、オルテオの母親以外にも何人もの女性を侍らせたが、親しく口を利くことはおろか、肩を並べて歩く姿さえ、ついぞ見なかった。それは、正妃である方とも同様で…。
池にかけられた石橋を渡り終えたところで、リアンヌの夢心地も終わった。
城の方がにわかに騒がしくなり、そのざわめきはこちらに近づいてきているらしく、レイディアはぼんやりとしていて気付かない様子だったが、リアンヌにはオズワルドが眉間にしわを寄せたのに気付いた。
誰かを引き留める声が少しすつ大きく聞こえるようになってきている。
「なんだ。人払いをしている筈だが。衛兵は何をしている」
オズワルドが不機嫌になったのをいち早く察した侍従達が声のする方へ駆け、リアンヌが王妃から見えないようにさりげなくレイディアの壁となった。
「…随分と楽しそうですわね、陛下」
何事かとぼんやりする頭で考えていたレイディアの耳に声が届く。リアンヌの背で見えないが、甲高い声に声の主が女性だと分かった。
「何故お前がここにいる」
「あら、わたくしも散歩する気分になることもございます」
王が声の主と言葉を交わす。侍女や侍従達のかすかなざわめきからレイディアも察する。
声の主は、これまで散々の噂を聞かされてきた件のノックターン王妃、テルミアナ。
「そうか。なら好きなだけ散歩するがいい。俺はもう戻るところなのでな」
「折角お会いしたのですから、久々にお話などを…」
「余は昼休み中だ。何か話があれば女官長を通せ」
「討伐から帰ってきてからもお会いする時間もなく、たまには…」
「話ならば本日の晩餐で言えばよいだろう」
オズワルドは固い声で告げると、食い下がろうとするテルミアナに口を開かせる隙を与えることなく彼女を横切った。腰を抱かれているレイディアも当然それについていくことになる。レイディア達に追従する侍女達も。その時、侍女らの隙間から美しく着飾った女性を垣間見ることが叶った。
「……―――」
暗い瞳をしたその女性を見てレイディアは噂の真実を悟る。
ああ、この女性は、人を殺している――…
レイディアはその夜、リアンヌを連れ、オズワルドから貰ったばかりの扇を手に王太子宮の庭に出ていた。
扇を月に照らし、ゆっくりと扇を翻した。
ゆらり ふわり くるり
繰り返し、繰り返し、くるくると優美に動かし、そっと腕を下した。
「巫女様…」
「お昼時のあの女性は、王妃様ご本人でよろしいですね」
「はい。ノックターン王妃であり先日お会いしたカサンドラ王女のご生母様テルミアナ様でございます」
「…そう」
テルミアナ王妃。容貌は美しいが、華やかさはなく、どこか重苦しい陰気な雰囲気をまとっていた。それは、その肩にとてつもなく重いものを背負っているから。
その重みは、命。
レイディアはバルデロの側妃ムーランを思い出す。彼女も初めて会った時、既に何人もの命の重さを背負っていた。ただ、彼女には重苦しさは感じなかった。
誰を殺そうと人一人の命を奪えば、その命の責任を一生背負う。その重みは王族をだろうが平民だろうが赤子だろうが老人だろうが等しく一つ。社会的に下される罰とは違う。自分への覚悟だ。ムーランは合理的に考えて良しと判断し、今後のことを全て了解した上で人を死に追いやるが、それはあくまで手段のひとつでしかない。
一方、テルミアナは…、既に決壊寸前だ。
ムーランとの違いは、良くも悪くも器の大きさによるのだろう。同じ人を殺す、ということも、器がなければ殺しを行った者は命の重さに潰れる。
独裁者が周囲の者達を殺して殺して、最後は自滅していくように、彼女は誰も信じられないし、自身を愛せてもいない。
彼女は誰を殺した?ダレンの母親だけじゃない。罪の重さに耐えかねるのは、通常、見ず知らずの者より、身近な者を手にかけたときが多い。
「リアンヌ女官長…」
「…はい」
ずっとそこに立ったまま動かないレイディアを心配そうに見守っていたリアンヌを傍に呼ぶ。
「王妃様は、ダレンの母親以外に、誰を手にかけたと、噂されているの?」
リアンヌはしばし逡巡した後、声を潜めて答えた。
「………王妃様の実姉、ナスターシア様でございます」
「何故疑われているの?」
「当時は、王太子であった陛下のご正室様を選ぼうとしている時期でした。その中で最有力候補と言われていたのが、ご実家が公爵家であるナスターシア様でした」
レイディアに促され、リアンヌはゆっくりと続けた。
「勿論、他にも有力候補の御令嬢は何人もおりました。その、物騒な手段で他の御令嬢を退けようとする動きも決して珍しくありませんでしたから、御令嬢方は各々身を守るべく、常に護衛を傍においたり、解毒剤などを常備したりなどの対策は常識でした。当然ナスターシア様も公爵家をあげて御身の安全をはかっていたと思います」
それなのに、ある朝、家の使用人がいつも通りにナスターシアを起こしに部屋を訪れた時には、既に彼女は冷たくなっていたのだという。
「そこで、父君である公爵様は急遽妹であるテルミアナ様をナスターシア様の代わりに候補者として後押しし、そのままナスターシア様がご正室に収まりました」
「………それだけなら、他の御令嬢も容疑者として疑われると思うのだけど」
「はい。当時、ほぼ決まりかけていただけに、王太子であった陛下自ら調査に乗り出しましたが、証拠はあがらず、真実は闇に消えてしまいました。ただ…ナスターシア様の死によって最も利を得たのは、王妃様でしたから、彼女に対する黒い噂だけが残りました。王妃様は兼ねてより陛下のもとに嫁ぐことを熱望されていたというのは有名な話でしたが、候補者はナスターシア様。ナスターシア様は生まれた時より王妃になるべく教育を受けてお育ちになられたので、公爵様も姉に代わって妹を、とはなさらなかったようです」
レイディアは納得した。誰かが殺害された時、まず疑うのは近しい人。死によって利を得る人間は特に疑われるのは当然だ。自分がなりたい立場にいる姉を…と疑うのは動機として十分。証拠がないのも、外部の犯行ではないからだ、と思えば、自然、テルミアナに疑いの目は行く。
「けれど、正室と迎えられたのだから、とりあえず疑いは晴れたのでしょう?」
たとえ有力な家とはいえ疑わしい者を正室にあげるとは考えづらい。
「…はい。当時は証拠もなかったので、疑いは晴れました。姉君を亡くされた妹君と、同情もありました。しかし…」
最初の綻びは、正室として必要とされる能力を、テルミアナは揮えなかったこと。
王妃教育は一年や二年では身につかない。生まれた時から王妃教育を施されていた姉と、そうではない妹では、当然差がつく。
王城の者は優秀な姉を知っているから余計にテルミアナへの目は厳しくなる。だが、懸命に学んでいけば周囲の目も和らぐはずなのだが…
「姉君を悼んでいるご様子がなかったことも、疑いを再燃させるきっかけでした」
正室に収まって少しの間は姉を失って悲しんでいる姿を見せていたそうだが、だんだん、姉を軽んじる発言が目立ってきたのだという。ずっと姉の死を嘆けというのではない。姉の死をどこか喜んでいる気持ちを言葉の端々から滲み出て、それが周囲に伝わった。それが疑いを再燃させたのだ。
「元々、陛下にとって身近な幼馴染でもあったナスターシア様とは違い、妹君のテルミアナ様とはそれほど親しくなく、当初から夫婦仲は良好とはいえませんでした」
当初は王太子妃として相応に遇していたが、それに見合う能力を示せないくせに夫の愛情を求めるテルミアナに、オズワルドもだんだん遠ざけるようになった。一般家庭ならそのまま離縁も可能だが、王家の婚姻は簡単に破棄できない。
「それでも一人は子供を、と周囲に押され、カサンドラ様が誕生されましたが、それ以降、オズワルド様が王妃様に触れることはおろか、公式の場以外でお会いすることはなくなりました」
妃として子を一人設ければ石女と謗られることは避けられ、オズワルドとしても責任は果たせる形になったが、男子でないためにテルミアナは国母にはなれない。テルミアナが男子をとオズワルドに懇願したが、オズワルドはテルミアナの部屋を訪れることはなくなった。
「…テルミアナ様の王妃としての評価が芳しくなく、王家の者として引き付ける魅力もなく、ただ周囲に求めるだけの王妃様に臣下の心は離れております」
加えて姉を手にかけた疑いが再び頭をもたげ、それが真実だろうが、そうでなかろうが、テルミアナを厭う者達には関係なく、彼女を謗る要素の一つとして語られて、今に至るのだろう。
初めから、リアンヌが王妃にいい感情を持っていないのを感じていた。
王の乳兄弟でもあるリアンヌならば、当然ナスターシアとも面識があるはず。もしかしたら友人関係だったのかもしれない。その友人の殺害を疑われている者を主として仕えるには、抵抗を感じるのも無理はない。
証拠はないし、実家も有力な公爵家、女児とはいえ子を設けていれば、簡単にその立場は揺るがない。しかし、オズワルドがテルミアナを嫌うことで、臣下もそれに従う。そして念願の男児は他の女の胎から生まれ、テルミアナは立場を失った。
疑いは、疑いに過ぎないが、それが、真実だとすれば…
レイディアはそれを断罪する気もないが、あのままだと、いずれほんの少しの刺激で決壊する。その時にダレンに被害が及ばないようにしなければ。王妃を刺激することだけは避けたい。そのために、夜の冷えるこの時間帯を狙って扇を月にかざして簡易的に扇を翻すだけの舞を舞った。少しでも、心の澱みが小さくなるように、夜が優しいものに感じられるように願う。これだけ職人が丹精込めた作品は、それだけでいい媒介になった。
本調子ではない、今の自分の舞に、どれだけの効果があるかは分からないけれど、ほんの一晩でも、優しい夢を見られたらいい。
「…戻りましょうか」
もう一度月を見上げてからリアンヌを振り返り、レイディアは月に背を向け、宮に戻っていった。
暗い夜道、音もなく小さな影が走る。
今起きているのは、夜番の見張りか、歓楽街か、姿を忍ぶお尋ね者か隠密業務に勤しむ勤労者くらいだ。月明りが頼りの夜道ではすぐそばに人がいても顔を確認するのは容易ではない。
夜目は利く方なので、すぐに苦労なく動けるクレアは、ノックターンの王城の周囲を探っていた。
城は堅固な造りをしており、よく訓練された兵達が油断なく見回りをしている。篝火も惜しむことなく使われて、城の中に侵入しようとすればたちまち見つかってしまうだろう。
ま、それはその手の玄人にゃ関係ないけども。
音を立てず、影を捉えられる前に兵達の意識を落としてしまえば簡単だ。勿論、それを簡単といえる、それができる技量を持つ者に限るが。
夕飯後、ベルが眠ったのを見計らって王城の様子を見にきたが、クレアの勘が何かあると告げてくる。
…強盗に押し入られたわけでもあるまいし、何か理由がありそうだ。
戦時中の警戒態勢並みの物々しさだ。バルデロの王様みたいに四六時中戦しているなら別だが、ノックターンの王はこの間は小規模ながら自ら討伐に出向き、そこから帰ってきたばかりだそう。ひとまずは小休止となり多少は緩むはずだが。鼠一匹城に入れるものかとノックターン王の警戒心を表しているのか、警備が妙に物々しい。特に、王族が暮らすあたり一帯が、特に。王族の警備が厳しいのは当たり前だが、上から見ると場所によって篝火の数に偏りが見える、微かな違和感。
「………ちょっと明日調べてみるか」
クレアはまた音もなくベルの眠る宿に戻っていった。