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鈴の音の子守唄  作者: トトコ
63/81

第五十八話

ギルベルトは風に靡いて乱れる髪を無造作に払った。


「…陛下」

引き連れてきた将の声に、ギルベルトは振り返った。

「来たか」

将は是、と跪いたまま小さく頷いた。

ギルベルトはバルデロの南方と接する国の国境沿いにいた。毎年雪の少ない地方や作物が不作だった地域から攻め入られることがある。たいてい規模は大きくない為、その鎮圧には地方に駐屯させている兵団が出向くのだが、今回は異例としてギルベルトが出向いていた。それにより、諸国に王の旺盛な精力を示すと共に、この時期下がりがちになる兵の士気を上げる効果を得た。

「規模は、主戦力が五百、援軍に三百ほど。しかし、後ろにそれを掩護する国がある恐れがあるとの報告も受けております」

報告を聞いても、ギルベルトの表情は変わらなかった。将は指示を仰ぐ為にギルベルトを見上げた。小規模とはいえ、戦場に出ているというのに、王の顔には興奮の色が見えない。

…寧ろ、酷く冷めていた。

王は元々冷静な方であるが、これは冷静というよりも、ただ関心がないだけのように見える。

今、王城では王と春妃に関する様々な噂が渦巻いている。しかし、その噂は既に皆の中では真実として浸透している。王も否定はしていない。

噂通り春妃が巫女だとすれば、王の願いは大陸の覇者となることの筈だ。長い歴史の中で、巫女を求める者達の望みがそうであったように。誰もその野望に疑問を抱いていない。しかしこれまでを思い返してみても、王本人はこれまで戦そのものに興味を示すことは殆ど無かった。必要なことを、必要なだけして、必要なものを得る。その作業の中に戦が組み込まれているだけのこと。覇者となることさえ、作業の一つとでも思っているかのように感じて仕方がない。

底が知れないのだ。着々と大陸を支配し得る力を蓄えているのにも拘らず、彼からは生臭い野心を感じない。かといって無欲という訳でもなく…


王は眼前の高原を眺めながら顎を一撫でして、小さく呟いた。

「…暇つぶしにはなるか」

唇の端を湿らす赤い舌が覗くのを見て、将は身震いした。








レイディアは川から上がり茂みの中に飛び込んだ後、がむしゃらに駈け出した。

下着は濡れ、肌に張り付いて身体を急速に冷やしていくことも構わず走り続けたが、突如膝から力が抜けて、転げるように地に膝を付いた。

刹那的に周囲の音が全て消えた。ほんの束の間、レイディアは気を失ったのかもしれない。気が付けば地べたに足が投げ出されていた。そして急に走ったからか、緊張状態にある為なのか、吐き気を催して、レイディアは草叢に向かって胃の中の物を吐き出した。血の気のない手足の震えが止まらない。貧血を起こしたかもしれない。

粗方吐いて多少気分が楽になったものの、未だに心臓が痛いほどに脈打ってレイディアの緊迫を自身に伝えてくる。レイディアは苦しくて胸元を握り締めた。息をするだけでも辛い。


少しして、連れてきた子供達が追いついた。ダレンがレイディアを見つけると一目散にレイディアの胸の中に飛び込んだ。他の子供達も倒れ込むレイディアに驚いた様子で駆け寄った。

「お姉ちゃん、いきなり走ってどうしたの?」

「…ごめんなさい、向こう岸に男の人が…」

「え、いた、そんな人?」

「でも、僕ら火に当たってたじゃん」

「ここら辺は村の人以外滅多に来ないんだけどなぁ」

「でも良かった。怖い猪とか出たのかと思った」

子供達は顔を見合わせて首を捻っている。ただ、皆はレイディアは見知らぬ人に下着姿を見られた羞恥心故に逃げてしまったのだと思っていることは幸いだった。レイディアは震える手をどうにか動かしてダレンを撫でた。

「ごめんなさい。不安にさせてしまったわね」

瞳を覗きこむと不安げに揺れていた。置いて行かれた為に軽い恐慌状態に陥らせてしまったようだ。幼子を泣かせてしまった自分の過失に自分自身に嫌気が差した。けれど、あれ以上あの場に留まり、己の姿をさらし続けることなど到底無理だった。

レイディアは簡単に髪を拭い外套を着直すと、ダレンを胸に抱きこみ、顔を俯けて子供達から自分の表情を隠した。


―あの男。


ずんぐりした体付きを、影の向こうに見た。それはほんの一瞬のことで顔を見ることは叶わなかったが、レイディアはあの男を知っていた。その気配はバルデロにいた当時から度々感じていたものだった。誰だろうと常々警戒していた、顔も知らぬ己の周囲を嗅ぎまわる存在を。正体は分からないままだったが見当は付けていた。恐らく、ソネット達が取りこぼした情報屋の類。


だとしたら、一刻も早く、ここアドス村から出て行かなくてはならない。


レイディアはこの村に来てから機織りで稼いだ金額を素早く計算した。長旅の路銀としては心許無い金額ではあるが、ここを離れることはできる。一人なら……と考えて腕の中に収まる子供のつむじを見下ろした。

「………」

そのまま動かないレイディアを不思議に思ったシイナがしゃがみこんでレイディアの顔を見上げた。

「お姉ちゃん、そろそろ帰ろうよ。濡れたままじゃ風邪ひいちゃう」

「…そうね」

レイディアは数拍目を瞑ると立ち上がろうとして、それが叶わないことに気付いた。込み上げる焦燥感に、ひゅっと息を呑んだ。

「…どうしたの?」

「……い、いいえ、何でも」

レイディアは慎重に木の幹に手を置いてゆっくり足に力を入れた。今度は難なく足はレイディアの命令に従った。レイディアはそっと息を吐いて子供達に笑みを作った。

「さ、帰りましょうか」

レイディアは子供達の背をそっと押して家路へと促した。




髪を湿らせたまま帰って来たレイディアを、アンは驚いた顔で出迎えた。

「何だいレイディア。ずぶ濡れじゃないか」

アンは先程モリーと剥いていた豆でスープを煮込んでいるところだった。

「すみませんアンさん、お夕食の手伝いを…」

「そんなのはいいから、さっさと着替えてきな。冬に濡れたまま歩いてくるなんて馬鹿な娘だね。病気の神様が身体の中に入っちまったら追い出すのは大変なんだよ」

アンはレイディアに木綿の布を無造作に被せた。

「どうしたんだい? レイディアだけ土砂降りの雨に打たれてきたようじゃないか」

「ええ、まあ…」

アンの笑いを含んだ声に曖昧に答えながら漂う湯気を吸いこんだ。香ばしい香りも交ざっていることからして、鹿の肉でも焼いているのかもしれない。

「でも、日が暮れる前に帰ってきて良かったよ」

「どうしてですか?」

「ああ、さっき街からジャンが帰ってきてね。ノックターンの軍がこちらに遠征しに来てるんだってさ」

身体を拭うレイディアの手が止まった。

「…ノックターン」

「ああ…って言っても、この村には来ないよ。街に立ち寄るだけさ」

「……そうですか」

「だけど、偵察隊や隊列から外れて来る奴がうろつくこともあるからね。あんまり言いたくはないけど…若いあんたは連れて行かれるかもしれないから…」

行軍中の兵は、民にとってある意味盗賊以上に注意しなければならない相手だ。特に末端の兵士は兵士であることを笠に着て町民に向かって無理難題を吹っ掛けてくる輩もいる。食糧や金を要求し、本職の娼婦だけでは飽き足らず街の女も娼婦のように扱うことさえある。アンはそれを心配したのだ。

しかし、レイディアの意識はそこにはなかった。

「…その軍を引き連れている司令官のお名前を、御存じでしょうか」

「え? ああ、それが聞いておくれよ。なんとノックターン王御自ら出向かれておられるそうだよ」

「ノックターン王が…近くまで来るのですね」

レイディアはダレンが外套の裾を握る力が強まったのを感じた。しかしアンは気付くことなく話を続ける。

「バルデロの王様も南の小競り合いに出向いているって話じゃないか。なんとまあ、近頃の若い王はなんて活発なんだろうね。寒い冬に態々兵を出してどんぱちやるなんてさ」

「……バルデロも?」

レイディアの声音が微かに低くなったことに気付かず、アンはそのまま続けた。

「ああ、ジャンが向こうからやって来た商人から聞いた話だから詳しくは知らないけどねぇ、どういう訳か大して大きくもない戦に出てきたとか何とか。まあそんな遠い地の話はどうでもいいんだよ。これから暫くは家からあんまり出るんじゃないよ。分かったね」

「はい。……ダレン、アンさんに温かい飲み物を貰っておいで」

レイディアはダレンを食卓の椅子に座らせると、着替えてくると断って一人台所を出た。



「……バルデロと南の国境と接する国には、良い鉱山があったわね…」

小さく呟き、窓越しに空を見上げた。



飛んでいる鳥は、一羽も、見られなかった。










クレアはぼんやりと宿の窓から人の流れを見下ろしていた。日の暮れる時間が早いこの時期は、既に宿に面した大通りの街灯が、薄ぼんやりと道を照らしている。

今クレアはノックターンにほど近いズーマという小国にいる。相変わらずレイディアの手掛かりはなし。時々衝動に任せて暴れたくなるのを、ベルに内緒で夜の街に繰り出してならず者を相手に発散している日々を送っていた。

「………あの男めっ」

そう、そのベルだが、あの保護者なベルはクレアを子供扱いする。今朝なんて足がちょっと切れているのを見つかってしまい、今日一日外出禁止令を出された。ベルの言いつけを守る義理などないが、保護者役を引き受けてもらっている手前、下手な行動は慎んでいた。

後宮の門番をしている彼は中々に腕は立つし、クレアの内情に無理に踏み込んで来ようとしないし、何よりレイディアの話題を共有できる。ある程度の事情も承知している彼は旅の共として非常に好条件の男なのだが、面倒見が良すぎるのは困りものだった。クレアは過保護な扱いに慣れていない。もっと放任してくれないかと思う。レイディアへはクレアが自主的に甘えに行っていた。

レイディアの顔を思い浮かべ、唇を尖らせた。

…レイディア様、風邪なんかひいてないかな…。

クレアは寒いのは苦手だ。これまで生きてきた環境が過酷だった為に我慢するくらい容易なだけで、季節の変わり目には気分が悪くなることがある。一方、レイディアは寒さに非常に強く、真冬でも厚着している姿を見たことは殆どなかった。けれど環境が変わると体調も崩しやすくなる。恐らく情報の出入りが限定された設備の整っていない地方の田舎にいるだろう彼女を案じる。



「今帰ったぞ。…また外を眺めていたのか」

椅子の上で膝を抱えてじっと外を見つめるクレアに、ベルは苦笑した。クレアの体勢が部屋を出て行った時と殆ど変っていない。

「窓辺は冷える。…何だ、暖炉に火も入れてないじゃないか」

「………」

クレアは最近はあまり会話をしなくなってしまった。塞ぎこみがちになり、何を言われても上の空であることが増えた。しかしベルはクレアの態度に怒る気配を見せない。姉のように慕うレイディアに会えずに寂しがる気持ちを察してくれる。そのあたりは流石レイディアの友人だと思う。そこを有り難いと思うのと同時に、疎ましくも思ってしまう。いっそ怒って、クレアの非を突きつけて欲しい。でもそれは、クレアの抱える罪が、少しでも軽くなることを望み、その為に己を責める声を求めているからかもしれない。

自分勝手で、自分本位な望みだ。ベルが態々城を出てクレアの我儘に付き合ってくれているだけでも、クレアはベルに多大な恩があるというのに。

ああ嫌だ嫌だ。思考がとても後ろ向きで、気が滅入る。自分の嫌な部分しか見えてこない今の精神状態は危険だ。

…衝動を抑えづらくなる。

「今日は奮発して甘い菓子も買ってきた。夕飯の後に食べよう、な?」

そしてクレアはベルの何気ない言葉に現実を思い出し、ゆっくりと息を整えるのだ。


ベルが手際よく準備した夕飯の席で、クレアはポツリと口を開いた。

「何か情報を得られましたか?」

茶を淹れていたベルはクレアに向き直った。

「レイディアに関することは今回も空振りだった。専ら東とノックターンの侵攻具合と地元の流通事情だった」

クレアは肩を落としかけたが、ベルの話はそれで終わりではないようだ。

「…東…というか我が国バルデロの、だな。南方の国境沿いに陛下御自らお出ましになったそうだ」

「…王が?」

「ああ、って言っても大きなものじゃない。いつもは地方に常駐させている軍が任務にあたるんだが、王も冬になって城に籠もりがちで、外に出たくなったのかもな」

暫しの沈黙が二人の間に落ちた。クレアは、そんな理由だとは思えない。ベルとてただの冗談だろう。

「………春が訪れたら、本当にバルデロとアルフェッラとの戦が始まると、商人達は言っていた。…南方には、良質な鉱山が豊富だからな。アルフェッラの前に、出来るだけ資源を確保を狙っているのだろうか」

「去年、一騎当千と名高い軍事国家のベリーヤも制して軍備も一段と充実しましたもん。だから、今回を足がかりに南に難癖付けて一気に落とすつもりなのかも」

態とらしく明るく言うと、ベルは弱々しく笑った。自国が強く豊かになることは喜ばしく思えど、強引なやり方には賛同しかねるのだろう。

「それはまた…随分と乱暴な話だな」

南方と揉めるのは国境付近に暮らす少数民族が主な理由で、その他多くの国々とは貿易を通じてそれなりにやってきた。今の時代、国交のあった国を滅ぼしてその地の物資を独占することなど珍しくない。しかし、ギルベルトは多くの国を支配下に置きながらも言いがかりをつけて強引に侵攻したことはなかった。


このままいけば、確実にそれは真実となるが、今回ギルベルトが出てきたのはそれだけではなさそうだ。クレアは、ギルベルトの許にレイディアがいない、という事実を踏まえて、ギルベルトがしたいと思っていることを考えた。

ギルベルトは食えない男であるが、案外適当で面倒を嫌う性格をしている。唯一レイディアに関しては疎かにしない彼だから、きっと今回も彼女が関わっている。

ギルベルトは当然誰かに捕まる前に、春が訪れる前に、何とかレイディアを連れ戻したい筈で、だから、蔭を各地に散らせていた訳で……と考えて一つの仮説が思い浮かんだ。

「王は、南を征服して、さらに南と東から、中央を攻めるつもりなのかも…」

そうだ。アルフェッラに味方する可能性があるのは主にバルデロに不満を持つ国々と、中央地方の諸国である。そういった国々の力を削ぐ為にも、春までにレイディアを見つける為にも、中央を征服すれば話は早い。南を征服している間に、蔭達に中央や北でレイディアの行方を探らせて、目星を付けていけば……

「でも、今は冬だ。南を制しても、そんな長い遠征は自国の兵力も疲弊する。民の不満も溜まる。それが分からない陛下ではないぞ」

情勢的に安定していない南方は、その隙を上手く利用すれば可能かもしれない。地理的にも東国のバルデロは南方を攻めやすいと言える。だが、中央となると距離も離れ、治安もある程度保たれており侵攻はいっそう難しくなる。何より…

「…中央の半分はノックターンの影響下だぞ」

「何の為に、中央と東を繋ぐメネステ国と同盟を結んだと思うんだよ」

ベルははっとしてクレアの言葉を待った。とはいえクレアも難しいことは分からない。国勢事情は全てソネットらから教わったものである。クレア考え考え言葉を紡いだ。


メネステは中央寄りのバルデロの隣国で、現在バルデロにシェリファン王太子を留学と称して預けている。メネステは自国の安全と王太子の命を守る為に、そしてバルデロは交通の要所を押さえる為に、利害の一致で結ばれた同盟だ。国力に差があり過ぎる両国の同盟を、ただの建前でメネステを属国としたと噂する者も多いが、ギルベルトは今の所メネステ国の旨みと王の器をある程度評価しているようだ。そのメネステと協力すれば、少なくとも中央に領土を食い込ませることが出来る。それだけでも、今のところは十分なはずだ。


一方で、クレアはシェリファンが少々気がかりになった。王ギルベルトと交友を持ち両国の絆を深める大任を背負ってやってきたメネステの王太子シェリファンだが、今後の彼の立場はどうなるのか。


あの王子は、万が一中央の国がバルデロに攻め入ろうとした時、真っ先に狙われる立ち位置にメネステがあることを自覚しているのだろうか。

その場合は後ろ立てのバルデロが援護するが、自国がバルデロの都合で傷つくことを承知しているのだろうか。

メネステを踏み台に中央へ進出すれば、バルデロはそれだけ余裕が出来る。


「……何故だろう、王が焦っている様に感じられるんだが」

アルフェッラ戦に備える為でも、大陸制覇の為だとしても、迅速に事を進めることは必要だろう。しかし迅速と焦りは違う。

「それは…巫女の生存が確定的となったんだ。不穏な種は早めに潰すに限る」

「レイ…巫女の顔は殆ど知られていない。だから、そう簡単に捕まるとは思えないが。元々“みこ”は滅多に人前に出ず、会える特権を持つ者も限られていた」

「そうじゃないよ」

クレアはパンを机に置いた。食欲はすっかり失せてしまっていた。


「王がさ、この数年躍起になって他国を征服してきた一番の理由は、巫女を共有しようと言わせない為だよ」


ベルもパンを齧る歯を休めた。

「共有? 意味が分からんが…」

「巫女は唯一、複数の夫を持つことが許された女性だ。だから…複数の国の王を夫としても、建前上、何の問題も無いんだって…聞いた」

ソネットが建前はとても便利な道具だと言っていたのを思い出す。間違ってはいないから、撥ね退けるのが面倒なのだとも。

神の愛し子たる“みこ”は諸国の王よりも上とされる。

「……なるほど。自分の妃を共有するだなんて、普通の神経では許せるものではないな…」

「でも、それもこれも全部、レイディア様がいなけりゃ意味のないものなんだよね」

「………」

大陸には女王を冠する国もあるが、いずれも正式な伴侶は一人しか認められていない。愛人を囲うことはあっても正式な位はただ一人の物だ。巫女だけが、夫を複数持つことを認められている。

だからギルベルトは当初、巫女は死亡したと発表した。

だからギルベルトは力を欲したのだ。

そうして着実に自国の力を押し上げ、大国とまで呼ばれるまでに発展させた。単純に富を得たいが為の侵略ではないから、必要以上に他国を虐げることもなく、効率よく制圧してこられた。それは全てレイディアと二人で生きる為。


しかし逆に言えば、レイディアを失った今、ギルベルトは指標を失ってしまったことになる。


領土拡大の理由がレイディアにあるのなら、レイディアのいない国をギルベルトが大きくしていく理由はない。にも拘らず、既に事態は止められない所まできてしまっている。

理由のない戦はギルベルトを暴走させてしまう。

ギルベルトがレイディアを取り戻す為には手段を選ばず突き進むなら、これまでの融和とも言える征服した国への対応は期待できない。今や大陸中に知れ渡る『灼熱の獅子』はこれまで以上に血を浴びるだろう。

「……つまり、どうあっても中央で戦が起こるということか?」

「そうだよ。ノックターンとも戦り合うことになるかもな」

ベルは静かに、唾を呑みこんだ。





四方の国々と道を繋げる中央地方に大きな戦が起こる。



それはつまり、大陸全土を巻き込む戦に発展することを意味していた。



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