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何も知らないままの貴方でいて

何も知らないままの貴方でいて if物語 〜もしも貴方がスキンヘッドでムキムキだったら〜

作者: そらちょまる

 パリィンッッッ!!!!!

 大きな音と共に、部屋の窓ガラスが派手に割れる。

 驚いて目を覚まし窓の方を見ると、そこには、頭はスキンヘッドで光り輝き、鬱陶しいくらいに筋肉を発達させた身体をしている男が、右手を軽く挙げ、白い歯を光らせて立っていた。


「やぁ、久しぶり」


「…………いや、誰?」


 私はこんなムキムキを知らない。

 少しイライラしながらも、もう一度寝ようと思い直し、横になる。


「ちょちょちょちょ待ってくれよ!!僕だよ、僕!」


 慌てたムキムキは、無礼にも一切の遠慮を見せることなく、私のベッドに急接近してきた。


「"ちょ"が多すぎだし、近づいて来ないでください。っていうか、ボクボク詐欺でもしてるんですか?私は君のようなスキンヘッドムキムキ汗臭漢、知りません」


 面倒に思い、目も開けずに返答する。こんな知らないムキムキに構う時間があるのなら、その時間は全て本来あるべきだった睡眠に充てたい。

 …………戦争も、もう終盤だ。こちらが圧倒的に劣勢。のんびり王城で眠れるのは、今夜が最後かもしれない。


「僕はボクボク詐欺じゃないし、汗臭くもないよ!!っていうか、汗臭漢に関しては悪口じゃないか!漢って字だけはかっこいいけどさ!!!」


 そんな私の気も知らず、ムキムキは必死に反論する。鬱陶しいのはその身体と頭だけにしてほしいんだけどなぁ……。

 はぁ……と、深いため息を吐く。

 このムキムキに構っていたら、私はいつまで経っても寝れない。ここは無視が一番だ。


「…………鼻の利く君なら、僕が誰だか分かるだろう?」


 誰がこんなムキムキの臭いなんて嗅いでやるものかっ!!汗臭さでむせてしまうに決まっている。仕舞いには、その臭いが鼻の中に残って、暫く不快な思いをしなければならなくなるんだ、絶対。

 さっきから不快な方のにおいを意味する漢字になってるよ、とムキムキに言われた気がするが、これも無視でいいだろう。


 勢いに任せて、布団の中に潜る。幸い、この城内は常に室内温度を快適に保つ魔法がかけられているため、布団の中に潜っていても、すぐには暑くならない。

 暫くの沈黙。


 そういえば、私の鼻が利くことを、どうしてこのムキムキは知っているのだろう?

 一国の姫が、そこらじゅうを嗅いで回っているなんて思われると恥ずかしいからという理由で、私はあまりその情報を他人に言っていない。知っているのは両親と、専属メイドくらいだろう。それ以外の人間は知らないはずだ。

 そこまで考えて、ある事を思い出す。

 あ…………あともう一人だけ、いた。突然三年間も姿を消した、私の愛おしい人。

 君だと思っても、いいの……?


 可能性への誘惑に負け、布団から顔を出し、少しだけにおいを嗅いでしまう。

 懐かしい匂いがする。ずっと、ずっと待ってた、私の大好きな匂いだ。


「僕って、分かってくれた?」


 思えば、三年前と全然変わらないムキムキの……いや、彼の優しい声だ。


「うぅ……君、帰ってくるの、遅いよ」


 思いがけない再会で急に恥ずかしくなり、つい、手で顔を覆ってしまう。

 そんな私に、君は「久しぶりに見る君の顔、僕にちゃんと見せて」と言い、そっと私の手に触れた。

 彼の愛おしい体温に負け、仕方なく手を顔から離す。

 そこには愛おしい君の姿が……____。


「ってムキムキィィィィィッ!!」


 そう言えば君はムキムキだった。彼が窓を割って登場した時の嫌悪感が再び訪れる。


「っていうか姿が変わったのなら、普通は口調が変わったり、あからさまに厚かましくなったりするものだろう!?なんで君は性格そのままで身体ムキムキになっているんだ!!!!中途半端に噛み合わなくて気持ち悪いよ!!!」


 キョトンとしている彼は、息切れしてまで訴えた私の言葉なんてまるで知らないと言ったふうに、「そうかな?僕は結構、気に入ってるんだけど」とポージングしてみせた。

 ため息を吐き、ツッコミを放棄する。どうしよう、三年も想い続けていた人のはずなのに、もうこれ以上、彼の相手をしたくなくなってしまった。


 遠くを眺めていると、彼は私のドレッサーの前に置いてあった椅子をベッドの隣に持ってきて、そこに座り、「僕はこれから、戦争に終止符を打とうと思う」と、さっきのふざけていた雰囲気は微塵もなく、真剣な口調で言った。

 突然の告白に、驚く。

 だって、君は戦争が昔から嫌いなんだ。そんな君から戦争なんて単語、聞かされる日が来るとは、夢にも思わなかった。


「三年間の修行で、この身体や実力を鍛えたのは勿論だけど、覚悟もきちんと決めてきたんだ」


 これでようやく君の恩に報いることができるよ、と嬉しそうに自分の掌を見つめる君に、行かないでとは言えないな。

 それに、彼の手助けがあれば、我が国が勝利することも不可能ではなくなるだろう。実践で戦ったことがないのに最強と噂されている謎のムキムキ漢の正体は、おそらく彼だろうから、戦力としては申し分ない。

 国や、彼の気持ちを想うのなら、今からただ守られるだけの私には、君を止められるだけの理由も、資格もないな。


「君の幸せに貢献出来ることが、何よりも嬉しいよ」


 そんな寂しいこと、本当に幸せそうな顔して言わないでよ。私は、君と一緒に居られるだけで、幸せなんだ。

 何も言えずに、ただ俯いてるだけの私の頭を、君は優しく撫でる。


「それじゃあ、こんな戦争、一刻も早く終わらせるね」


 私がコクリと頷くと、君は立ち上がった。

 君が、もう少しでいなくなる、手の届かない所へ行ってしまうんだ。そう考えると、声を掛けずにはいられなかった。


「待って!」


 彼の手を掴む。


「どうしたの?」


 不思議そうな顔をする彼を、抱きしめる。

 大きく、逞しくなった君の身体。きっと、この日のためにいっぱい頑張って鍛えてくれたんだね。


 そんな彼を引き止めちゃいけない、と思い直し、パッと離れて、「何でもないよ、ごめんね」と涙をこらえて笑う。

 君が最後に見る私の表情は、笑顔であってほしい。だから、私はちゃんと、最後まで笑っているよ。


 それじゃ、終わらせるね、と言う君に両手を組み、「貴方に神のご加護があらんことを」と祈りを捧げる。


 すると、君は指をパチンッと弾いた。


「はい、これで敵兵は全員死んだから、我が国の勝利だね」


 ____は?

 状況がうまく飲み込めなくて呆然としていると、君が鼻の先を人差し指で擦りながら「実は僕、鍛えすぎちゃったみたいで、魔力を込めて指を弾くだけで人を殺せるようになったんだ」と照れくさそうに言った。


「え……じゃあ、どうしてあんなに真剣に話して、シリアス展開みたいな流れにしたの……?」


 私がそう言うと、君はあっけらかんと白い歯を光らせながら笑って答えた。


「一応戦争に参加するし、それっぽくしてみたくて」


 戦争が終わったその夜、城から大きなビンタの音が聞こえたという。

お読みいただき、ありがとうございます。

君視点Ver.で触れたムキムキの流れを、今回は思い切ってネタとして使ってみました!

よければ、ブックマークや高評価、感想をしていただけると励みになります。

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできるので、是非お願いします。


また、本編を知っているからこその、この物語への愛着……のようなものがあると思うので、気になった方は是非、本編も読んでみてください!この小説とは全然違うシリアス展開になっているので、ギャップを楽しんでもらえると幸いです。

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