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9/12

バレる

 王の即位を祝う祭りが始まってから数えて三日目のこの日。ディランは仮面を付けるのに僻意したため、仮面をつけずに済む屋敷の庭のパーティーを楽しんでいた。リアと共に使用人達と談話に講じているディラン。そんな彼は不意にボラスに呼ばれた。


「ディラン!ちょっとこっちに来い!」

「はい!では僕は父に呼ばれたんで失礼するね。」


 大好きな父に呼びつけられ、すぐさま話を切り上げてリアと共に父の元に向かうディラン。


「来たな。宴はどうだ?無礼講はいいもんだろ?」

「はい!とてもたのしいです!」

「そうかそうか。それはよかった。して、これはちょっと小耳に挟んだんだけどな、実は戴冠式の日、六公爵家の一つ、レルンシュタイン公爵家の演者が誘拐されたそうでな。」

((ぎくっ))


 思わぬ話題に動揺するディランとリア。しかしなんとか取り繕って話の先を促す。


「そ、そうなんですか。それで、そのご令嬢は無事に助かったんですか?」

「ふむ?俺は別にその縁者が令嬢、とは一言も言ってないが?」

「い、いえ!その、誘拐されてしまう、と言われ最近人気の小説を思い出してしまいまして!その小説で誘拐されるのが公爵家の令嬢なんですよ!」


 崩れるのが早い。


「そうか…まあ今はいいとしよう。で、だな。話を続けるが、その令状は助かったんだが実は救出した者達は憲兵の到着前に逃げ去ってしまった様でな。」

「へ、へえー。きっと目立ちたくなかったんでしょうね!」

「ふむ、そうかも知れないな。しかし、実に幸運な事に被害者は恩人の特徴を覚えていてな。」

「「っ!?」」


 今度はわかりやすく肩を跳ね上げる二人の子供。二人は小声で互いに囁き合っている。ボラスはそんな二人を無視し、話を続けた。


「その恩人、と言うのが紫髪の仮面年齢の少年と金髪の仮面年齢の少女だそうでな。」

「へ、へえーそうなんですね。なんだかそれだけ聞きますと僕とリアみたいですね〜。あははは」

「そして、片方の名前が“ディー”もう片方の名前が“リア”だそうなんだが。うん?どうした、二人とも顔色が悪いぞ。」

「あははは…お父様、少し用時を思い出しましたのでここらで失礼させて___」

「まあまあ、もう少しで話は終わるから待ってくれ息子よ。」

「い、いえ。急ぎの用事なものでして。」


 逃げ出そうとする息子の方に手を置くボラス。


「ふむ、しかし現在この屋敷の外では紫髪と金髪の仮面年齢の二人組を公爵家の者達が血眼になって探してるいるぞ?その様なもの達に捕まりたくないだろう?俺の話を最後まで聴き終えたら侯爵家の正式な馬車を出してやるからもう少し待て。」

「は、はい…」


 ディランは最も簡単に留まるほか無くなってしまった。そんな二人にリアが声をかける。


「旦那様、ディラン様、私めはお屋敷の仕事がありますのでこれで…」

 

 自分だけ助かろうと逃亡を図るリア。しかし、それを許すディランではない。彼は全速力で駆け出そうとしたリアの腕をしっかりと掴んだ。


「リアも聞いてからで大丈夫だよね?お仕事遅れちゃったら僕が謝ってあげるからさ!」


 リアはニマニマと嗤うディランに殺意を込めた視線を向ける。


「え、ええ。そうですね。ディラン様の御厚意に甘えさせていただきます。」


 しかし、リアの本来の立場は下っ端の侍従であり、ディラン達への対応を侍従としてのものに切り替えたため、命に従うしかない。渋々ではあるが、彼女も留まってボラスの話を聞くこととなった。


「それで?茶番は終わったな?

「「はい…」」


 二人の表情はまるで大切な者のお通夜に来ているかの様だ。


「じゃあ、一度だけ、チャンスをやる。これに正直に答えれば拳骨は勘弁してやろう。」

「「は、はい…!」」


 まるで救世主を見つけたかの様な表情を見せる二人。ボラスは非常にわかりやすい二人の子供に小さく溜息を吐くと、言葉を続けた。


「戴冠式の日、お前らは式直前に何をしていた?」


「…屋敷を一軒燃やして子供を拐かしてた輩を倒しました…」

「左に同じです…」


 ボラスは額に手をつけ、深いため息を吐いた。実は心の中でほんの少し、雀の涙程、目の前の二人が件の人物ではない事を期待していたのだ。しかし、ボラスの特殊能力である嘘感知器に反応はない。二人の話が真実である、と嫌でもわかってしまったのだ。


「なんでやったかは聞かない…と言うか結果的にはよくやった。が、しかしだ!正体を隠すなら隠し通せ!大人に余計な手間をかけさせるな!わかったな!」

「「はい…」」

「よろしい。では今から公爵家の屋敷に行くぞ。」


 ボラスはそう言って近くにいた執事を呼びつけた。しかし、ディランがそんな父の袖を引っ張る。


「あ、あの…」

「んなんだ?」

「実はお父様に伝えるな、と言ったのはケルビンお兄様でして…」

「は?」


 ボラスは嘘を感じることのできない息子の発言に戸惑う。しかし、それもそのはず。確かに二人は元からボラスに伝えるつもりはなかったが、最初にボラスには伝えるな、と言ったのはケルビンであったのだ。彼はディランを不本意ながらも危険に晒してしまった事で父に殺されかけるのでは、と思い保身に走ったのだ。ディランは意地悪くも、実の兄を道連れにする事に決めた。


「実は、屋敷を燃やして敵を倒した、とまで伝えたら確実に俺が怒られるから言うな、って…」

「ほお、そうかそうか。だからあいつは二人が屋敷に人がとらわれてることを察知して連絡してきたけど令嬢を助けた事は知らなかった、と言ったんだな…最後まで話を聞かなかったから令嬢である事は知らんかったのか……そこの者!アホ息子一号を呼べ!」


 ケルビンがどの様にして自分の能力を掻い潜ったのかを理解したボラスはケルビンを呼びつける事にした。


「ディランとリアは先に馬車に乗っておけ。俺はちょっとバカと話があるんでな。」


 そう言ってボラスは二人は近くの執事に任せ、屋敷の方に入っていってしまった。そして聞こえてくるのはケルビンの悲鳴。あまりに悲痛な叫びに、ディランは自分が売ったにも関わらず、内心冥福を祈るのだった。



 現在ディランとリアはドナドナされていく仔牛の様な悲壮感を撒き散らしながら、ボラスと共に馬車に搭乗している。その雰囲気たるや酷いもので、ボラスは二人の様子に何度もため息を吐く。


「元気を出せ元気を…お前ら二人の取り柄だろ?別に向こうもとって食おうってわけじゃねんだから。どっちかって言うと感謝されると思うぜ?」


 励ましの言葉をかけるボラス。しかし、二人の様子は一切改善の兆しを見せない。


「違うんですよお父様…僕が嫌なのは公爵家に行く事自体なんです…」

「は?なんでだ?」

「冒険者になる前に高位貴族と会ってしまったが故に無理な指名依頼を受けて命を落とす冒険者の話ってたくさんあるじゃないですか…」

「ぶふっはっあはははは!」


 息子が悲壮感を滲ませて何を言うのかと思いきや、非常に子供らしいことを言われたのでつい笑い出してしまうボラス。しかし、当のディランにとっては死活問題だ。


「笑い事じゃないんです!そう言う話はたくさんあるんですよ!?」

「っいや、すまん。あはっ。いや本当にすまん。はー笑った…あのな、ディラン。」

「なんですか?」

「五百年ぐらい前から一国家より冒険者ギルドの方が権力が上になってるんだよ。なんせ高位冒険者の戦力は半端じゃないからな。冒険者ギルドに喧嘩売るぐらいなら夜逃げしたほうがいいって貴族ばっかだ。エブレンでも同じだよ。もう昔の冒険譚みたいな貴族の横暴で〜ってのは起きない時代だ。だから心配すんな。」

「そうなんですか!?」


 一気に顔色が回復するディラン。あまりにもわかりやすい息子にボラスは内心苦笑する。


「ああ、だから心配すんな。」

「「よかった〜…」」


 こうして不安を取り除かれたディランとリアは道中、ボラスと雑談に講じるのであった。


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