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妖犬の復讐譚  作者: ショウ
5/10

山の中の殺人鬼

「お、おい!この首ってなんなんだよ!」


「それはどう見てもヒロヤの…だよな…」


「い、いやあ!どうしてこんなことになってるの!?」


この山で起きた異常事態に十数人の男女が一か所に固まっている。セレナが蹴飛ばした男の首が見つかり、人間たちはいつもの暇つぶし、いわゆる虐殺をしている事態ではなくなっている。人間たちは銃のほかにも刀も携えていた。一部の人間曰く、撃つより斬り殺す方が気持ちがいいとかなんとか。


「誰かが獣と間違えて刀でこいつの首を刎ねたんじゃないだろうな?」


「それはないよ。私は来てからまだ動物は殺してないから刀は鞘に収まったままだし、そこには血糊なんかもついてない」


人間たちの中で、刀を持ってきた女が答える。女の他にも刀を持ってきた人間は三人いたが、みんなの刀にも血糊はついてない。まだ使う前だったようだ。


「じゃあこれはなんだってんだ」


「まさか獣に反撃されたわけじゃないよね…」


「そういえば、ヒロヤと一緒にいたタカシはどうしたんだ?だれか見たやつは居ないのか?」


一人の男がその生首となった人間と一緒に居たはずの人間の名を挙げる。すると、


「探してるのは、コイツ?」


山の奥から幼い女の子の声が届いてきた。そちらを向くと、薄茶色の髪にその頭上で垂れる犬耳、そしてゆらゆらと揺れる長く白い尻尾。そして血のように真っ赤に染まった瞳の女の子が向かってきていた。その手には、


「タ、タカシ!!」


腹に穴が開けられたタカシという男のなれの果てがあった。首を掴まれ、ずるずると引きずられている。


「ほら、連れてきてあげたよ」


セレナはタカシを持っていた手をサッと振った。タカシの死体が人間たちが屯している足元に転がる。


「ヒッ!し、死体が…!!」


「い、いやあああ!!」


刀を持っていた女と銃を持ってきた女が思わず悲鳴を上げる。


「こ、これ…お前がやったっていうのか…?」


「そうだよ」


なんてこともないように答えるセレナ。


「獣ならともかく、同じ人間を殺すなんてなに考えてんの!イカれてるんじゃない!?」


銃を持ってきていた女がそんなことを口走った。口走ってしまった。その次の瞬間、女の首が絞められる。セレナは右手の握力だけで女の首を掴み宙へ持ち上げる。


「獣ならともかく…?同じ人間を殺す…?人間って存在はそうしてこうも愚かなの」


セレナは首を掴まれながらも必死で抵抗する女の両手を欠片も気にした素振りを見せずにその手を握る。喉は握り潰され、鮮血が撒き散らされ、一つの生がその場で奪われた。


「い、いやあああ!!!!」


「な、なんだってんだ……」


「お前たちは獣なら殺してもいいとでも思ってるの?」


「え、いやそれはもちろんだろ」


その瞬間、セレナが醸し出す圧力が増す。


「……じゃあ人間が人間を殺すのはどう思う?」


「は?それは有り得ないだろ。なんで人間様が人間様を殺す必要がある?」


次の瞬間、この空間がセレナの殺気で満たされる。


「…じゃ、じゃあ、なんで……!」


セレナは真っ赤な瞳を僅かに濡らして人間たちを睨みつける。


「どうしてコハクたちを殺したの!!」


セレナは理性を投げ捨てて人間たちに突撃していった。






「動物と人間…なにが違う!?同じ生き物だろうが!!」


セレナは激昂した勢いそのままに刀を持っていた人間に向かって握りこぶし豪速でぶつける。人間の腹に風穴を開けられ即座に命が果てる。


「同じ人間同士で殺しあわないというならなんで、なんで!なんでコハクを殺した!!」


殺した人間から刀を奪って鞘までついたまま人間に向かって投げつける。目にも留まらぬ速さで飛んで行った刀は鞘のままにも関わらず当たった人間を真っ二つにする。


「ま、待て!落ち着け!!」


「そ、そうよ!何があったの!!」


人間たちは慌ててセレナから距離を取りつつセレナに対話を試みる。セレナは問答無用で殺してやろうと考えたが、思い直せばこいつらはコハクたちのことを知らないのかもしれない。セレナは投げ捨てた理性を一旦取戻し、対話に応えることにした。セレナが放出していた殺気が少しずつ引っ込み、人間たちも少しずつ警戒を解き始めた。


「お、お前、いや、君はいったい何者なんだ…?」


「私はセレナ。人間たちに復讐を果たすと誓ったコハクの愛犬だ」


「愛犬?君はイヌなのか?」


「ああ。人間に蹂躙された里の生き残りだ」


「さ、里?動物が集まる里でもあるのか?」


「というかあなたは人間と同じような外見してるけど本当に動物なの?」


「私の居た里は動物たちを大事にしている人間たちが住んでいた。でもある日、その里に銃を携えた人間がやってきて私以外全員皆殺しにされたんだ。唯一生き残った私はみんなの無念の思いを食べ、苦痛に耐え、妖怪となって人間に復讐すると決めた」


セレナの言葉を聞き終えると、生き残っていた7人ほどの人間は互いに顔を見合わせながら微妙な顔をしていた。


「なにその顔。文句あるの?」


「いや、だって…」


「言ってる意味がいまいち理解できないというか…」


「理解できないならそれでいい。私はただ殺すだけ」


セレナは近場にいた刀を持った女の首を掻っ切ると、その手に持っていた刀を奪い取った。


「私が直接この手で殺すのもいいけど、たまにはお前たちが殺してきた動物たちと同じ苦しみを味あわせてやろうか」


セレナは刀身を引き抜くと、片手で柄を握り、6人に減った人間に向ける。人間たちは慌てて銃の用意や刀を持とうとしたが、セレナのスピードの前では何もかもが遅かった。


一番近くにいた男が銃を持ったと同時に刀を横薙ぎし、心臓の位置をしっかりと切り裂く。次にスコープを覗き込んだ人間二人を返す刀で二人まとめて斬り捨てる。

これで3人となった人間たち。刀を持ってきていた女が刀を振りかぶり、セレナを斬りつけようとするが、セレナはその振り下ろしてきた刀を弾くように斬りあげる。すると同じ斬れ味の刀のはずなのに人間の刀だけが真っ二つに切られる。切られた刀は勢いそのままにセレナの後ろの木に突き刺さる。


「な、なんで!?」


「知らない。力量差じゃない?」


セレナは女の言葉を軽く流すと振り上げた刀をそのままの勢いで振り下ろす。頭から真っ二つにされた女はその場にゆっくりと倒れ伏した。


「さて、あと二人…」


セレナは刀に付着した血糊を振り払いながら残った二人の男の方を向く。と、同時に銃声が響いた。その音に呆然としながらセレナは胸元を見た。真黒な穴が開いている。


「こ、これ以上、お前の好き勝手にさせない!」


人間は声を震わせながら懸命に銃を握る。その表情はこの凶悪な殺人鬼を倒せたと僅かに安どの色が見えた。セレナは目を見開き、呆然とした様子で胸に開いた穴を見つめ、そしてやがてゆっくりとその場に倒れ…


「るとでも思った?」


セレナはかわいらしくも不気味でもある笑みを顔に貼り付け、人間たちを睥睨する。


「……え?」


妖怪化した体は頑丈だった。あんなに脅威だった銃がもはやなんともない。…わけでもなく、実はかなり痛かったりするが、根性で耐えている。


「ふっふっふ」


セレナは不気味に笑いながら刀の柄を握りなおす。


「私を殺せたと思い込んでたお前の顔は」


刀を下段に構え、先ほど自分を撃った人間に迫る。


「心底滑稽だったよ…」


その勢いのまま刀を思いっきり振りぬき、人間を切り裂いた。


「ば、化け物…」


その様子を見ていた最後の一人は体を震わせながら呟く。


「化け物…ね。確かに妖怪となったわけだし化け物なのかな」


セレナは最後の一人となった人間もさっさと殺してやろうと思ったが、そこで考え直す。一方的に虐殺していくだけでは面白くない。どうせなら人間側からももっと本気で抵抗してくる方がいい。そして全力になった人間を打倒す方がより強い絶望を与えることが出来るだろうということに気が付いた。


「人間。お前は特別に見逃してやる。ただし、今から私が出した条件を飲めばの話だが」


「じょ、条件…?な、なんなんだ…?」


「そんなに構えなくても大丈夫。お前は生きてこの山から下りて私の存在を人間の社会に伝えるんだ。今まで殺されてきた動物たちの無念の念が凶悪な妖怪を生み出した、と。そしてそいつが人間たちに向かって復讐をしてやると息巻いてるとな」


「…その程度でいいのか?」


「ああ、序に動物を殺すのを止めろとも伝えたら百点満点だ。できるな?」


「そ、それでこの命が助かるというのなら幾らでもやるさ!」


「そうか。なら任せたぞ」


セレナはずっと抜き身だった刀を鞘に納めるとその人間に手渡した。


「まあいずれお前も殺すことになるだろうがな。それまで精一杯抵抗できるように力をつけておくんだな」


「……」


刀を受け取った人間は自分の肩ほどしかない背の女の子に完全に生死の全てを握られていること実感し、底知れない恐怖を感じる。


「わかったらさっさろ行け!二度とこの神域に穢れた足を踏み入れるな!!」


セレナが脅すと人間は飛び上がりながら慌てて山を駆け下りて行った。


「さて…」


一人残ったセレナはそこらじゅうに倒れる死体を目に付けた。


「妖怪は人間を食べるんだったらしいよね。そこらに転がってる肉の味見でもしてみようかな…」


セレナはお腹をさすりながら静かに舌なめずりをする。


後にほかの人間がその虐殺が行われたその現場に行ってみたが、人間の死体は欠片も残されていなかった。



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