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第九話 試練の時

 学園登校日当日。

 ヤバイ。めちゃくちゃ緊張している。魔王の時代にも全地区から代表者達が集まり顔合わせが何度かあったが、そんなものとは比較にならないほどテンパっている。


 落ち着け、とにかく落ち着くんだ。そうだ! すでに長年の目標、友達作りには成功しているんだ。もはやどうってことはない、胸を張っていけばいいさ。

 俺は着替えて母屋へ向かった。


「おはようイリス」


「ちょっとレイ、ズボン履いてないけど!?」


「あ」


 そのままズボンを取りに戻る。


「ん~? 冷静沈着な人かと思ってたけど案外お姉ちゃんタイプ?」


「いや、私は……。たまに履き忘れるけど朝だけでしょ!」


「何回やらかしてるのよ」


 朝食を食べ、一服し学校へ行く準備を済ませた。


「いってきまーす」


「おう、いってらっしゃい」


 ボーマンを一人家に残し、3人で学園に向かう。

 俺とイリスは同じクラスの魔法特選科、ここは簡単に入れないらしい。イングリッド婆、すごいところにねじ込んでくれたな。

 カレンは魔法専攻科で一学年下のクラス。他にも、普通科、戦技専攻科という体を動かし戦闘術をメインに学んでいく学科がある。


 学園に到着、靴を履き替えカレンと別れる。


「今日は皆の前で紹介だったわね。先生のところへ行ってらっしゃい」


 イリスと別れ職員室へ向かう。


「来たわねレイ君。これからよろしくね」


 挨拶を済ませ、ほどなくして5分前のチャイムが鳴る。


「これから教室へいくわよ」


 先生の後についていく。

 廊下を進んでいくと、魔力が少し流れ出している教室があった。


「ルーナさんの魔力の件は 知ってますよね」


「はい」


「では問題ないですね、教室に入りましょうか」


 イリスの話では俺以外は中等部から皆同じメンバーらしい。それならすんなりいけるだろうか。

 ふぅ、大丈夫だ、堂々としろ。イリス、ルーナ、カレン、俺に力を貸してくれ!

 扉を開き先生が先行、その後ろを俺が歩く。ガヤガヤと騒いでいた教室は少し静まる。

 どうにも注目を浴びている気がする。平常心、平常心だ。


「はいはい、皆静かにして。今日からこのクラスにはいるレイ・ファスナー君よ」


「レイ・ファスナーです、よろしくおねがいします。まだ田舎から出てきたばかりで右も左も分からないので、もしよかったら色々教えてください」


 挨拶をし、お辞儀をする。


「それじゃ、そこの空いてる席へ」


 一番うしろでイリスの隣、やりやすい位置だ。このへんは考えて配置しているのかな?

 席まで歩き着席する。


(おー、ホントに大丈夫なんだな。皆は最初ルーナの魔力にやられちゃったんだけどね。中等部の最初の頃は一週間くらいはまともに授業できなかったな、懐かしい。おっと俺はトマス・コッコだ、よろしくな)


(よろしく。先に会わせてもらってね、しばらく特訓したんだ)


(レイくんは田舎から来たんだ。私も田舎から来てね、最初はホント緊張したな~)


「はいはい、授業が始まりますよ。私語は慎むように」


 男子女子学生に話しかけられた、雰囲気も良さそうかな? ウッ、嬉しいからって泣くな俺。まだ学校は始まったばかりだぜ。


 その後、授業が終わり好奇心旺盛な学生たちが俺の周りに集まってきた。イリスと仲が良いってことと、ルーナの件のおかげで自然と会話が出来る俺。

 魔王時代なら近づいてくるどころか話しかけただけどアウトになる場合も多かったからな。そうか、いろいろな意味で生まれ変わったんだな。

 周りの人達に感謝、か。


 昼食後、用事でルーナが早退。王女様だから忙しいんだろうな。


「それじゃ、歴史始めるわよー! 今日は恐怖の魔王について」


 嬉々として授業を始める先生。そっか、禁句だったな。なんだか申し訳ない気持ちになる。


「恐怖の魔王が存在していた時代の人口は1000万人と言われています。そして魔王が殺した数は年間1億人と言われています」


 ここはイングリッド婆さんから学んだが、ふと思った。世界の人口超えすぎてるけどこの文献大丈夫? 年間一億人はさすがに絶滅しない?

 死因3位じゃなかたっけ、1、2位はどんだけすごいの。

 授業が終わり休憩後次の授業がはじまる。


「はい、まだまだ恐怖の魔王よ~」


 ルーナがいない間にやってしまおうってところか。


「当時の魔界には5つの死刑の方法がありました。火あぶり、水攻め、電気椅子、土浴びせ、恐怖の魔王」


 あまりにも自然に俺の名前が入っていた。まあ、昔はいつもこんなものだった。


「皆恐怖の魔王だけは避けたそうです」


 今日の授業が終わり皆と軽く挨拶をして帰った。


「みんな、いい人よ。変わり者が多いけどね」


 帰宅後、イリスと共に訓練場で汗を流す。家に戻ると、豪勢な食事が用意されていた。


「お疲れ様レイさん。お姉ちゃんが居るから大丈夫だった思うけど今日は緊張したでしょ。たくさん食べてね」


「いただきまーす!」


 カレンの料理に舌鼓を打ちつつ今日のことを思い返していた。

 すごく緊張したけどうまくことが運んで良かった。最初って肝心だな、魔王時代はそのまま挽回できなかった。


「そうだレイ、明日は冒険ギルドに登録してみる?」


「え? 学生は無理なんじゃ」


「本格的な登録は無理だけど、ここの学園の生徒だけ仮登録は可能よ、私も持ってる。お小遣い稼ぎには良いんじゃないかな」


「あー、それはいいな」


「決まりね。授業が終わったらいきましょう」


 お世話になってばかりも悪いからな。お金が稼げるなら少しでもやってお返ししていかなくては。それに冒険者やってみたかったんだよね、丁度いい機会だ。


(くっくっく。レイの勧誘、ご苦労イリス)


(なんだか騙してるみたいだけど)


(何を言っている。人材ってのはどこも取り合いなんだ。レイレベルならなおさらだ、お前と引き分けレベルだぞ? それに勧誘は早ければ早いほうが良い、その差が最後効いてくる)


(はぁ、悪い顔しているわ、お父さん)


 頷きながら骨付き肉にかぶりつき、これから起こるであろう出来事に思いをはせていた。

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