第八話 つわもの達の片鱗
帰ると、豪勢な食事が待っていた。
「レイさん、学園長2日後に会おう、だってさ」
カレンの報告にうなずく。2日後ね。
さて、お食事だ。家の外でバーベキュー。イリスは今にも食べ物に飛びつきそうな状態。残った理性でギリギリ耐えていた。
「ほいじゃ食うか、いっただっきまーす!」
うまい。カレンは料理上手か。すごい勢いで食べるイリス。運動後で気持ちはわかるがもっとよく噛みなさい。
賑やかな歓迎会が終わり、のんびりくつろいだ後風呂に入りその日は眠った。
学園長からの呼び出しの日。そろそろ時間だな、時計を見て学園へと向かった。
「3階の学園長室へ向かってください」
受付を済ませ言われたとおりの部屋の前に到着、イングリッド婆に教えてもらった作法を思い出し、まずは入室を知らせるために軽く扉を叩いた。
「どうぞ」
「失礼します」
挨拶をし、部屋に入る。正直こういうのは苦手だ。俺は冒険者向きかもしれないな。
「ようこそ、魔法学園へ。ワシは学園長のミック・アレクサンドリアじゃ」
「はじめまして、レイ・ファスナーです」
「イングリッドとベルは元気だったかの」
「どちらも元気です。ベルさんに至っては現役にしか見えないほど」
「ほっほっほ、あやつらしいな」
立派に蓄えたひげをさわりながら、こちらの全身を見回す学園長。
「ふむ。その歳にしては、強い、な。もしやお主は恐怖の魔王か?」
突き刺さる言葉。しかしここで動揺したら俺が魔王ですって言っているようなものだ。
「違いますけど、僕と同じ世代にいるんじゃないかってのは聞いてますね」
「そうじゃ、しかしわからない」
「動きも少ない。何を考えているのかまったくわからん。強力な精霊を使役して、たまに暴れている。本気を出せばすぐにでも世界全土を征服できるじゃろうに」
その後、学園長ととりとめもない会話をし、最後に励ましの声を貰う。
「では失礼します」
「気をつけて帰るんじゃぞ」
お辞儀をして俺は学園長室から出た。
「どうだ、レイ・ファスナーは」
学園長室の本棚が動き後ろの隠し扉から一人の男が姿を現した。
「恐怖の魔王ではない、のでは? 文献では残虐非道という記述でしたし。そもそも判別法がないからわかりませんけどね」
「強大な魔力を保有してるったって、魔力をしまわれていたらわかりません」
「それもそうじゃの」
「それに、大人しくしていてもらったほうが何かと都合がいいのでは?」
「見たいんじゃ」
「え?」
「見たいんじゃ、恐怖の魔王様の戦いぶりを。魔族最強と言われたその力を」
(この方も魔族なんですねぇ。戦闘種族、行き過ぎて泥沼の戦闘になることもあるんですが)
「まあわかってますけどね。それで私を雇っているんでしょ」
「そのとおりじゃ、『頭が爆発している』のリーマ・ボンよ」
「その肩書はやめてください。エクスプロージョンのリーマとお呼びください」
「そ、そうかこれは失礼した」
「それに、その言い方ではまるで私が負けるようではありませんか?」
「ほっほっほ、勝ってもええぞ、弱いなら興味はない」
「その時がきたらわかりますよ。それでは失礼します」
隠し扉の方へ戻り、姿を消すリーマ。
「ふざけたやつじゃが強さは本物。あの精霊は倒せるじゃろうし、もしや魔王も? これはおもしろい」
ミックは一笑し窓の前まで歩き、生徒たちが通う校舎を眺めた。
ふぅ、誰にでもカマかけしているんだろうな。こちらとしてはいつ言われてもいいように身構えてはいるがやっぱり心臓に悪い。バレたらこの生活はおしまいだからな。
そう言えばイリスが今日ビッグイベントがあるから訓練場へ来なさいって言ってたな。家に帰り、向かった先の訓練場で、ちょっとした騒ぎが起こっていた。人だかりができて訓練場に入れない。一体何が起きているんだ? 人が良さそうな魔道士風のお兄さんに聞いてみた。
「知らないのかい? 冒険者パーティ最強と謳われる『インペリアルデーモン』が来てるんだ。2時間後に試合があるんだよ」
「あ、レイいたいた。ごめん言い忘れてた、関係者入り口から入って」
イリスに連れられて関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉に入っていく。中にはシェリルとその仲間たちがいた。
「あれ、レイ君。キミ、冒険者になったの?」
「いえ、違いますよ。ギルドマスターさん、その娘さん達と仲がいいからここへ入れたんじゃないかな」
「あれ? 姉さん知り合い?」
「ああ、ちょっとね。そっか、イリスが言っていたのはレイ君のことか。なるほどなるほど」
「姉さんてことは姉妹なのか」
「そうなんだよ、ウチは娘ばっかり3姉妹なんだ」
奥からボーマンがあらわれる。
「何なら全員もらっていってくれて構わんぞ」
「ハイハイ。それでお父さん、インペリアルデーモンの方は?」
「もう、みな揃ったようだ。時間までのんびりさせておく」
時間となりシェリルのパーティが訓練場へと向かう。俺たちはその後についていった。
「それでは、『インペリアルデーモン』対『ヴィクスンヘッド』の模擬試合、初めます!」
シェリルとインペリアルデーモンのリーダーらしき男が訓練場真ん中で握手を交わす。
「よろしくおねがいします。シェリル・ウィンターです」
「レヴィア・ディブだ。よろしくシェリル。ああそうだ、君に言っておかなくちゃいけないことがある」
シェリルに近づき耳打ちをする。話が終わり戻るレヴィア。対してシェリルは目を見開き体を震わせる。何か起きたか?
「あっちゃー、やられたな、ありゃ」
「何が起きたんです」
「まあ、試合を見てみようぜ」
試合開始。しかしシェリルの動きが悪い。体が固まっているのか。仲間たちも困惑している。
レヴィアは槍使いか、その攻撃にシェリルが押されている。
「レヴィアは強いんだが、勝つために色々やってくるタイプでな。何か吹き込まれたのは確かだな」
困ったやつだと言いつつ笑っているボーマン。舌戦も戦いの一つってのは本で読んだな。この場合は一方的だが。
試合も一方的だ。コンビネーションも何もなく各個撃破されるシェリル達。
「そこまで! インペリアルデーモンの勝利です!」
盛り上がる訓練場。
「また一つインペリアルデーモンの株が上がったってとこだな」
お互い礼をし控室へと戻っていった。
「姉さんなんて言われたの?」
「俺が恐怖の魔王だってさ。今考えると笑っちゃうけどしてやられたわ……」
「はっはっは、修行が足りんな。敵は腕っぷしのやつらだけじゃないんだぞ」
「わかってるよ父さん」
それにしても、レヴィアはまだまだ余裕そうだったな。これももちろん試合だが、ちゃんとした試合も見てみたかったな、残念。
次の日、シェリル達は朝早く旅立った。彼女達もいずれ魔界の強者となる日が来るのではなかろうか。




