第七話 ミレニアムフレンズ
剣の稽古のために着替えて訓練場へ向かう。場所はカレンに教えてもらった。
「来たわね、ゴメンゴメン。料理苦手でさ。まあそれだけじゃないんだけど」
「とりあえず一手お願いするわ」
お互い木刀を持ち相対する。武器に魔力を流せば殺傷能力が上がるが訓練だからそれはナシ。
体の周りを魔力で覆う。これで木刀くらいなら直撃してダメージがほぼない。
「いくわよ」
こちらに向かって一直線に近づき、中段の構えから突きを繰り出す。
狙いはみぞおちか、正確な突きだ。俺は足を後ろに引いて体を半身ずらしながら、下段に構えていた木刀を切り上げイリスの剣を斜め下から弾く。弾かれたイリスはバックステップで俺との間合いを離した。
「やるじゃない。こう見えて学園じゃ一番の使い手なのよ?」
その後しばらく二人で打ち合う。本気を出せば勝てそうだが、イキナリそれは目立ちすぎる。ここは一旦負けておこう。
イリスが中段なぎ払い、俺も中段で防御するがフェイントをしてきた。返す刀で肩に木刀が当たる。
「やった! 勝った!」
「やるじゃないか」
「いやいや、レイこそ強いよ。正直負けるかと思ったわ。私はずっと剣術の稽古してきたんだけどね」
「俺も最近まで稽古漬けだったからね。似たような環境だったんじゃないかな」
「なるほど、そーか」
水分を取り休憩する。この訓練場は広大で、俺達の他にも数十人の人達がいる。冒険者、学生、一般魔族など。
「ここは皆のために開放しているのよ。ギルドマスターのお父さんの権限でって言ってたわね」
「あ、来たみたい。あの子に会わせたかったの」
イリスの目線の先には物々しいガードを連れた女の子がいた。
それにしても彼女の周りが歪んで見える。あれはもしや。
「気がついたみたいね。高等部に来るなら当然か。そう、あれは魔力症、それも特級のね」
魔力症、魔力のコントロールが上手く行かず体から溢れ出してしまう症状。魔力の最大値が増大する若い時期に起こりやすい症状だ。それにしても聞いていた魔力症より魔力がはみ出してるな。
「魔力が近くの人に干渉して体調不良を起こさせたりするの。ただ慣れがあって、しばらく一緒にいれば個人差はあるけど問題なくなるわ。早速特訓しましょ」
遠くにいる女の子に呼びかけ大きく手を振るイリス。
女の子とそのガードはこちらへ向かってきた。
「ちなみに王女様だから粗相のないようにね」
うおっと、王女様か。イリスが粗相してたような、仲が良さそうだからいいか。
「あらイリス、今日は用事があるんじゃなかった?」
「いや、それなら無くなったわ。それより彼が来週から同じクラスになるレイよ」
「はじめまして、王女様。レイ・ファスナーです」
「はじめまして。ルーナ・ゴランです」
(そいや俺、農民だからあんまり近くでウロウロするのはまずいんじゃ)
(大丈夫よ、ウチの学園は身分関係無しなんだって、そりゃ特別であることには変わらないけど)
「あらあらずいぶんと仲が良いのね。お二人はその、恋仲とか?」
「違うからね!」
今日から同じ家で暮らすとは言えないな。
「冗談よ。それよりレイさん大丈夫ですか? すでに魔力の干渉する範囲に入ってますけど」
問題はなさそうだ。もっと大量の魔力を動かしているから干渉しても効かないのかな。しかしそれは魔王の俺。一般魔族ならちょっと魔力酔いする感じだろうか。
「少しふらつきますね」
「へーすごい、普通なら倒れるくらいなのに」
イリスが感心する。そうだな、俺の魔力開放と似たようなものか。
その後三人でしばらく談笑した。
「もう大丈夫そうね、すごいわね。剣技もすごいし、レイ本当は恐怖の魔王なんじゃない?」
うぐっ! っと落ち着け、冗談を言っている目だ。あれだけで正体が判明するはずがないよな。アレ? イリスがしまったという顔をしてるぞ。視線の先にはルーナがいた。怒りの形相で魔力がだだ漏れになっていた。
急激な魔力の増加で近くにいたガード達は倒れてしまった。俺は大丈夫だが急いでルーナから離れた。
「ごめんごめんって! 落ち着いてルーナ」
「ハッ! 私ったら我を忘れてなんてことを……」
(恐怖の魔王はルーナには禁句なのよ)
(なんで?)
(詳しくわわからないんだけど、お父さんに不幸があったそうよ。ほら例の魔獣王の事件)
その後ルーナは落ち着き、ガード達が元に戻ったところで帰っていった。
魔獣王のとき、魔力開放か。命に別状はないはずだ、とは言え何かあったのは間違いないが。ルーナのあの怒りからしてかなりの出来事か。
「私達も帰りましょ」
「そうだな」
今日は色々あった。帰りの支度をしながら、イリスに本音を漏らす。
「田舎にいるときは皆優しかったが同年代の友だちがいなくてね。友達ができるか正直不安だったんだ」
「さっそく3人も友達ができてよかったじゃない」
「うれしいね」
「なんだなんだ~!? クール気取っておいて実は寂しがり屋か」
「そうかもしれないな」
「はっはっは、友達だから許すよ!」
1000年間思い悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらい簡単に友だちができた。こらえろ! 涙をこらえるんだ!!
訓練場を後にし、焼いた肉の匂いだろうか、芳ばしい香りを漂わせている家へ俺たちは帰った。
誰もが寝静まった魔族の王宮、メナト王が妃の元へ静かに訪ねた。
「あら、貴方またですか」
少し嬉しそうな妃と共にトイレへと向かった。
封印の地で気絶してから、夜中に一人でトイレに行けなくなった。この症状はメナトだけに起きたようで、一部の親しい者しか知らされていなかった。魔王の呪いだろうと皆口を揃えて言う。
ルーナにとって父は強さの象徴だった。その父が夜一人でトイレに行けない。ルーナにとっては耐え難く、元凶の恐怖の魔王を恨むようになった。
妃は「カワイイメナトちゃんもアリ」と言っており、なにやらツボに入ったようだった。




