第六話 寄宿
村を出てから10日目、街道を走る馬車から目的地の街が見えてきた。小高い山の頂きに築かれた城があり、その周りを街が取り囲んでいる。
街の入口で検問を済ませ、馬車は街の内部に入っていく。
首都ドラグリート、魔界最大の規模を誇る街。そして魔王城ブリース城。
懐かしいな。魔王時代、俺が住んでいたところだ。まさかまたここへ来るとは思わなかった。1000年前より街が大きくなっている。周りの山を崩し平地にして街を拡大したか。広大な街だ。
街に活気があるな。俺の時代は皆死んだ魚のような目をしていた。恐怖の魔王のお膝元だったからな。
気分を入れ替え、イングリッド婆さんの知り合いで、卒業するまで俺を受け入れてくれる貴族が住む家を目指す。
いやいや、いたれりつくせりで本当に申し訳ない。が、少々問題もあるという。行けばわかると言われたところが少し不安だな。でも、ここまでお膳立てしてくれているんだ。多少のことなら自分でなんとかしよう、頼ってばかりじゃだめだよな。
街の北側へ向かって歩く。町外れまで来ると大きな訓練場が見えてきた。そこを回り込むように歩き隣接する貴族の家を見つける。ここだ。
門をくぐり家の扉のノッカーを叩く。中から女の子の声が聞こえ、ほどなくして内側から扉が開かれた。
「こんにちは、レイ・ファスナーといいます。イングリッドさんに紹介して頂いた者です」
「はい、こんにちは。お話は伺っております。こちらへどうぞ」
俺より少し下の子かな。言われるままに中へ入っていった。
「ここで待っていてくださいね」
居間に通され、少しして一人の男性と女の子二人が部屋に入ってきた。
「はっはっは、待たせたなレイ。俺はボーマン・ウィンター」
「娘のイリス・ウィンターです。よろしくね」
「その妹カレン・ウィンターです。よろしくお願いします」
「はじめまして、レイ・ファスナーです。よろしくお願いします」
挨拶を済ませ、お互い椅子に座る。
「俺達は一応貴族だが、名前だけの名誉貴族、だからしきたりとか硬いこと考えず自由にやってくれ。さすがにレイの寝室は離れだがな。以上だ」
「以上じゃないでしょ、お父さん!」
娘のイリスさんが間髪入れず食ってかかる。
「この契約書を読ませてサインしたらここで暮らしていいって話をしたわよね!?」
「いいじゃあないか面倒くさい。イングリッド婆さんの紹介なら間違いないだろうし、お前らだって楽しみにしてただろ? 男手が欲しかったーとか。俺は留守にすることが多いしな」
「そうだけど……そうじゃないでしょ」
「わーったよ。悪いなレイ、この書類に目を通してもらえるか。読み終わったらここにサインをしてくれ」
「読み終わって同意したらここにサイン、よ。まったく本当にこの父は……」
渡された書類に目を通す。部屋に入る前に必ずノックするとか、お風呂の時間を決して間違えないように等、男女間のトラブル対策が事細かに書かれていた。お互い年頃なのだから納得た。正直俺も女性の扱いは慣れてない、というかわからない。本の知識しかないからな。適度な距離が保てるならむしろありがたい。
読み終え書類にサインする。
「えー、迷わずサインしちゃうの? 書類をちぎるくらいしても良かったんだけど」
「良くない! はい、ありがとうね」
「改めてよろしくね。後これから長い付き合いになりそうだし、同じ歳なんだからお互い丁寧な言葉使いはやめましょ。名前もさん付けなし」
「わかった。イリスでいいかな、よろしく。カレン、よろしくね」
「よろしくお願いします」
やれやれ、参ったな。友達すらいないのにいきなり女の子と一緒に暮らすとか。イングリッド婆さんが言っていた少々問題ってのはコレのことかな? まあなんとかするしかないか。
「それじゃ、学校へ行って手続きを済ませてこい。イリス連れってってやれ」
「はいはい、それじゃいきましょ」
「ああ、それではいってきます」
荷物を離れの部屋において、イリスに連れられ学校へ向かった。
「家のお父さん軽いでしょ? 根は優しいんだけどねぇ」
「いいんじゃないかな? 面白いお父さんだ」
とりとめのない会話をしながら、街の中を歩き、学校にたどり着く。
「ここが国立魔法学園よ。どう? 大きなところでしょ。魔界で最大の学園だとか」
広大な敷地を白い壁が囲っている。壁には豪華な模様、装飾がそこかしこにしてあった。
学園に入り一路受付を目指す。
「あの受付で手続き出来るわ」
「いってくる」
受付に書類を出し、待合室で待つことになった。ここにはトロフィーやメダルがたくさん置いてある。
「うちは様々な大会でいい成績を残しているらしいわ。私もあんまりわからないわね」
しばらくして受付の人から呼ばれる。
「お待たせしました、手続きが終わりました。後、今日は無理ですが学園長がお会いしたい、とのことです。日時が決まりましたら後日ウィンター邸へ連絡しますね」
「おねがいします」
家に帰り、持ち込んだ荷物の整理を済ませ部屋で一服していると、イリスが訪ねてきた。
「レイは剣術いけるくち?」
「インフェルノ流を少々」
「そっかそっか。晩御飯まで時間があるし、剣術の稽古に付き合ってよ」
「いいとも」
「お姉ちゃん」
「ハッ!?」
「今日は一緒にお料理作る約束でしょ? そんなんでお嫁に行く時どーすんのさ」
「ごめん! もうレイと約束しちゃったから! また今度ね!」
ダッシュで逃げていくイリス。肩を落とすカレン。
「ホント、お父さんそっくりなんだから……」
そのやり取りを見て自然と笑ってしまった。確かに似ている感じがする。
「面白いお姉ちゃんでしょ?」
カレンは微笑み次第に微笑、こらえきれず笑い始める。結局二人で一緒に笑った。




