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第五話 ボールを相手の剣にシュート

 村を出発した俺は、馬車に乗るため村から一番近い街を目指す。

 これから長い旅が始まる。日数にして10日ほど。魔王の力を使ったり、ブックに乗っていけば早いだろうが、「どこからどうやってきたの?」「旅はどうだった?」などと聞かれると返答に困ってしまう。

 そう、一般的な魔族と同じ動きをしようと考えていた。全ては計算ずくである。


 魔王時代、本当に世間知らずだった。しかし、今回は違う。親兄弟、村の人達、勉強を教えてくれた先生から様々なものを学んだ。もちろん失敗した魔王時代に書庫で勉強したことも活かせるはずだ。


「今回はうまくやる、友達作ってみせるぞ!」


 大きな目標を胸に、街道を徒歩で進んでいく。

 半日ほど歩き、街についた。さっそく馬車に乗ろう。


「運が悪いな少年。いや、良いのかな? 今朝街道に巨大な魔獣が現れて今は運行停止中なんだ」


 魔獣。基本的に我々に対して害をなす動物、生物の総称。魔法生物や、一部野生動物もこの中に含まれ、かなり広い意味で使われている。

 それにしても巨大な魔獣? まさかな。


「どんな魔物ですか?」


「詳しくわからかないけど大きな熊のようなやつって聞いたな」


「まあ、比較的弱い魔獣らしいからすぐ退治されるだろうよ。あれから時間も経ってるし、そろそろ討伐報告が来るんじゃないか」


「昼ご飯を食べ終えた頃には乗れるかもな」


「わかりました。また来ます」


 これが俺が魔王の時代だったら、あの魔物は魔王が放ったとか俺のせいになるんだろうな。辛い人生だった。

 街の中を散策し、公園を見つた。椅子に座り持ってきたお弁当を食べる。食べ終え一服していると、街の中が少々慌ただしくなる。


「そろそろ、馬車に乗れるかな?」


 乗り場へ向かうと先程の男が忙しそうにしていた。


「ああ、君か。街道の魔獣は片付いてね。皆一斉に馬車に乗り始めたから忙しくなってね。君も乗るかい?」


「ええ、もちろん」


「わかった、あの馬車に乗ってくれ。ハハハ、今度こそ運がいいな少年。その馬車に街道の魔物を倒した冒険者さん達が居るぞ。さっきの話も聞けるし、強い魔物が現れても彼らが守ってくれるだろう」


「へ~、心強いな。それに俺は戦闘の話、好きなんですよ」


「長旅だから、じっくり聞く時間があるさ。それじゃ良い旅を」


 指示された馬車に乗り込み挨拶をした。


「よろしくおねがいします」


「おー、礼儀の良い少年だね。こちらこそよろしく」


 女性か。剣を携えている、剣士だろうか。

 他男性二人女性一人。この人達も挨拶を返してくれた。仲が良さそうだ、チームを組んでいるのかな。


「街道の魔獣を倒したのは貴方達ですか?」


「お、早速噂になってたんだねぇ、リーダー自慢しようよ」


「と言っても今回弱かっただろ?」


「ああそうさ、私達で片付けた。我々『ヴィクスンヘッド』がね」


 先程の女剣士が話に入ってきた。右手をこちらへ出す。


「私はリーダーのシェリルだ、よろしく」


「レイです。よろしくおねがいします」


 笑顔で応じ手を握り返す。


「ホォ、こりゃすごい。かなりの使い手だね」


「ええ? 握手しただけでわかるんですか?」


「インフェルノ流に限りだけどある程度わかるよ、私も同派だから。ほらここの筋肉の突き方とか」


 同流派ということもありすぐに仲良くなる。先程の魔獣のことや今まで経験した戦闘等も話してくれた。


「ハッハー、気が合うねぇ。どうだい少年? 冒険者になってうちのパーティに入らないか?」


 冒険者。冒険者ギルド、いわゆる民間の仕事斡旋所に所属し雑用から戦闘まで幅広く仕事をこなす人達。イングリッド婆から学園の話がなければ冒険者になろうと思っていた。


「すみません。俺はこれから学園へ通うことになってまして」


「そーだよね。またリーダーは無茶を言う~。それにしても『ヴィクスンヘッド』のシェリルって結構有名だと思うんだけどね、レイ君知らなかった?」


 黒色で派手な刺繍が入ったローブをまとう女性が話しかけてきた。


「はい、家は田舎で情報もなかなか入ってこないんですよ」


「そっかそっか。どんなところへも名前が響き渡るよう、まだまだ精進あるのみだね、リーダー」


「ハッハッハ、そうだな」


 馬車の旅を5日間終え、街に着いたところで、シェリー達と別れることとなった。


「それじゃまた、ご縁があったらね」


「バイバ~イ」


「さよーなら」


 挨拶を終え、町の入口にあった宿にはいる。部屋に荷物をおいて、軽く街の中をぶらつく。陽が沈み始めたところで宿に戻る。食事を済ませて一服していた。


 宿の外から激しい爆発音が聞こえた。近くの森かな、煙があがっている。ん? この魔力は。

 部屋に戻り、念の為に戦闘準備の着替え、仮面を用意してこっそり宿から抜け出す。街を出る前に森の方を確認する。大きな魔物、ひと目で何者かわかった。


 やっぱりブックか。誰かと戦っているな。げえっ! シェリルさんとその仲間の人達じゃないか!

 早く止めなくては……。急いで現地に向かった。


 戦闘はブックの圧勝かと思っていたが以外にもシェリルさん達が奮闘していた。シェリルさんの剣技、仲間の魔法、その他補助。お互い役割を決めてそれをきっちりこなしている。良いチームだな。

 いやいや、感心している場合じゃない。とにかく場所が悪い、街が近いからな。


 えーっと、少人数を行動不能にする武器を使おう。


「いでよ『奈落戦器(タルタロスウエポン)』No.3『臆病者の投げ縄(オクノスネット)


 空中に小さな魔法陣が現れ、そこから飛び出した黒い玉がシェリル達に向かって飛んでいく。


「あれはなに!?」


 剣で黒い玉を受け止めたシェリル。瞬間玉が網目状に広がり、彼女達に覆いかぶさった。


「グッ! 身動きがとれない」


 素材はわからないが粘着性のある物体がシェリル達の動きを止めた。今のうちだ。


(ブック、逃げるぞ)


 ブックにささやき、急いでその場から離れる。ある程度距離をとったところでブックを小さくさせ、武具にそそいだ魔力を解除した。


『すまねえ大将、いやー強いやつがいたんでついつい』


「街が近くにあったじゃないか。まったく、気をつけてくれよ?」


 お説教は終わり。まあ俺も魔族の端くれだから、好戦的なやつの気持ちはわからなくもない。


「ブックも移動中だったんだな」


『ああ、ここらで半分ってとこか。大将乗ってくかい?』


「いやいい。魔獣王に乗って田舎からやってきましたとは言えないだろ」


『はっはっは、ちげーねえ』


『んじゃ、お先に失礼するぜ』


「またな」


 小さなサイズのまま、森へ突っ込んでいくブック。それを見送り俺も街へ帰った。


 こっそり宿の部屋へ戻る。明日乗る馬車は出発する時間が朝早い。寝坊しないよう今日はもう寝ることにした。俺はあくびをしてベッドに潜り込む。

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