第四話 旅立ちの日
『動物がいっぱいいそうな森だ、いいとこじゃねえか』
「それじゃあこの森や、奥の山でのんびりしていてくれ、僕は一旦家に帰る」
『おう、またな!』
森の中に向かって走っていくブック。姿が見えなくなったと思ったら鳥の鳴き声が聞こえた。早速狩りでもしているのかな。
そろそろ皆の意識が戻る頃かな、争いがまた起きる可能性もあるかなぁ、念の為現地に行って状況を見ておくか。
封印地に到着、先程の大木に登り辺りを見渡すと、まだ沢山の人が残っていることがわかる。皆疲れた表情をしている。殺気を出している人はいないな。
お偉いさん同士が話し合っている、落ち着いた感じの会談かな? これなら大丈夫だろう。
家に帰るとするか。
翌日、いつもより早めにイングリッド婆のところへ向かう。昨日の今日だ、心配なところもあった。
「今日は早いじゃないかレイ坊や。ま、わたしゃ暇だからいつ来られても大丈夫なんだけどね!」
元気そうだな、良かった。
「ん~? ああぁ、心配で早く来たんだね。はっはっは、ほれこのとおり大丈夫だよ」
「色々あったけどね……」
「ささ、今日は魔法学だよ。30ページを開いて」
有無を言わさず、授業が始まった。そうか、魔物は逃げ、恐怖の大魔王が現れた。そんな事小さな子に軽く言えたものじゃないよな。ここは何も聞かず勉強することにしよう。
授業が一段落し、イングリッド婆さんハーブティーをいれてくれた。
「そうそう、レイ坊やに良い話を持ってきたよ。まだ早いんだがね、15歳になったら学園へ通ってもらおうと思っとるんだ」
「僕が学園へ?」
「そうだ。国立魔法学園。12歳から行かせたかったんだが、とてもお金がかかるし実際のところ高等部卒業の証さえ持っていれば問題ない。まあ本来なら15歳から学園にはいるのはかなり難しいんだがな」
「ただ一つ問題があってな。ああ、学問の方は問題ない、何なら今から高等部へ言ってもらっても良い。そのくらいできる子だ、レイ坊は」
「へー、そうか僕はできる方なんだ」
「そうそう、自信をもっていいぞ」
まあ、1000年書庫で読書してたからね。
「話がずれたの。15歳になるまでに戦闘術を習ってもらう」
「後輩が前からここで暮らしたいと言っておっての。一ヶ月後王宮騎士団を引退してこっちへくるそうじゃ。その後輩にお主の先生をやってもらおうと思っておる」
戦闘技術か、いいね。俺のレベルアップに繋がるだろう。今までの戦闘は大量の魔力によるゴリ押し戦法ばかりだったな。まあ魔王時代ぼっちで教えてもらえる状態じゃなかったんだけどね。
「ん~僕にできるかな?」
「常に農業で体を使い、山や森の中で遊んでいるから身体能力は高いんじゃないかの。まあ戦闘系が向いてなくても高等部には無理矢理にでもねじ込むから安心せい」
心強いというかちょっと怖いというか。
そうこうしている間に一ヶ月がたち、婆さんが話していた後輩が村へやってきた。
「ご機嫌麗しゅう、イングリッド殿。おっ、その子が秘蔵っ子のレイ君かい?」
「ああそうだ。ご挨拶なさい、レイ坊や」
「はじめまして。レイ・ファスナーです」
「はじめまして、ベル・キャンだ」
白髪で頬に大きな傷、大きな体格に大量の筋肉を搭載している老年の男性。強そう。まだ現役でいけるんじゃないか?
「聞いていると思うがこれから俺が戦闘術を教えていく。よろしくな」
「はい、よろしくおねがいします」
笑顔を見せ俺の頭を撫で回す。
「一通り挨拶は済ませてきたよ。何なら今から授業を始めてもいいぞ?」
「はっはっは、相変わらず気が早い男だね。今日はゆっくりしようじゃないか、顔合わせってとこかね。ほら、酒も用意してあるよ」
「いやいや流石はイングリッド卿、気が利きますな」
一度家に戻り、晩御飯を婆さん、ベル爺さんと一緒にすると言ったら食料、お酒をもって皆ついてきた。話を聞きつけた村の人達も食料お酒持参でイングリッド家へと向かう。気づいたら宴会になっていた。
「ハハハ、いいところじゃないか。気に入った、気に入ったぞ!」
結構飲んだであろうベル爺さん、破顔して豪快に笑う。村の人達も一緒に笑う。
こうしてまた一人、村の住人が増えた。
――4年後
「インフェルノ流奥義、針山連突」
構えた剣を大きな岩に向けて連続の突きを放った。岩は跡形も無く吹き飛ぶ。
「お見事! 総合武術のインフェルノ流を奥義まで納めたし、高等部へ行っても問題はない」
「よし。今日はここまでにしよう」
あれから4年、勉強をイングリット婆さん、戦闘技術をベル爺さんに一通りの基礎を教わった。爺さん婆さん両名にお墨付きをもらい後は学校へ行くだけになった。
「じゃあまた明日な」
「はい、ありがとうございました」
家に帰ると中から子供が現れこちらに向かって走ってくる。
「お兄ちゃん帰ってきたのぉ? 遊んで!」
「いいとも」
兄は結婚し、子供が出来た、男の子。跡取りも出来たな。
学校へ行く日が近づくにつれ、期待もあるが寂しい気持ちも大きくなってきた。早くもホームシックというやつだろうか。心の中で苦笑いする。
「母さん、ちょっと山へ行ってくる」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
「いってらっしゃーい」
近くの森の奥地にまで入り、口笛を吹く。
「ピュィーー」
しばらくすると遠くで草をかき分ける音聞こえた。それがだんだんと近づいてくる。
『おう大将! 今日もどこかで特訓か!」
「いや、今日はそうじゃないんだ」
『ああ、例のッガッコウってやつだな。おう、この前チョウサしてきたよ。比較的近くにいい森があったぜ。そこで暮らす!』
「そうか、よかった」
あれからブックと手合わせをしたりしていた。たまにやりすぎて恐怖の魔王が暴れていると騒ぎになったりもした。実際暴れていたわけだけどね。
『まあ適当なタイミングて向こうに移るよ。それじゃな!』
元気よく森へ突っ込んでいくブック。相変わらず騒がしいやつだ。きらいじゃないけど。
家に戻り、夕飯を食べその日は寝た。
いよいよ出発の日。村の皆が見送りに来てくれた。目的地はかなり遠い、しばらくは村に帰ってこれないだろう。
「お前は家族の誇りだ。頑張ってこい」
「兄さん……」
涙をこらえ俺は皆に挨拶をした。
「今までありがとうございました。レイ・ファスナー行ってまいります!」
励ましの声を送ってくれる村の人達。本当にこの村で過ごした時間は幸せだった。
ただ立ち止まっているだけではいけない。これから進まなくては。
お辞儀をし、声援を背に、俺は村を出た。




