第二十二話 獣人族との交友
王宮、ゲストハウス。留学中の獣人族王女はここに滞在している。
「お疲れ様でした、フロイア様。学園はいかがでしたか?」
「皆良い人達で問題なさそうだよ。それより二人きりのときは普通に接してって父上からも言われてるよね、アルフィン」
女執事アルフィン。王女フロイアとは幼馴染だが本来王族と同じ立場で語らうことは不可能。しかし第4王女という性質上、平に下る可能性も考えた王は非公式だがアルフィンに普通に接することを命じた。
「わかったわフロイアちゃん。それから良い男は見つかった?」
「初日からそんな人が見つかるわけ無いよ。まったく、父上ったら無理難題をふっかけて」
「何言ってるのよ。それを受けたからお見合いの話は全部なしになってるんでしょ。それともお見合いする?」
「それもやだな~……」
「気に入った人が見つかったら言ってね。男運びするから」
獣人族の女性は奥手な人が多かった。そこで考案されたのが男運び。夜寝ている間、無理やり騙したり等、とにかく意中の男性を協力者達がその女性の親の所へ連れて行くという風習である。
「魔族の人達にそれしちゃっていいのかな?」
「向こう側も了承しているから問題なしよ」
「まあ、別に断れないわけじゃないから大丈夫か」
「そそ、強制なわけじゃないから。女性が思いを伝えるための風習よ」
(フフフ、王族に呼ばれて結婚を断れる男性はなかなかいないわ。まあ、さすがにいきなりすぎるからじわじわと結婚へと追い込んでいくけどね。なーに、フロイアちゃんかわいいしいけるいける!)
(ブルッ、なんだろ寒気が)
企みを看破できていなかったフロイアは急に来た背筋の寒気を不思議がった。
その夜、シェリルとその仲間達がご飯を食べに家に来た。
「ハハハ、ギルドは大忙しだったよ」
「冒険者ギルドにも何人か獣人達が来てたんだって?」
「うん、なんでも獣人族の領地でも冒険者ギルドを作ろうって話みたいね」
「あっちはギルドがないんだったわね」
獣人族達は今まで助け合いでやってきたけどそれだけじゃ限界があるため、冒険者のシステムを学ぼうと冒険者からギルドマスター、受付候補の獣人達がギルドに来ていたらしい。
他、今日の帰りに工事現場や市場なんかでも獣人族を見かけた。本格的な交流が始まっているようだ。
「それにしても一気に友好ムードになったわね」
「現王制のままいけるか正直微妙なところなんだけどね。すでに力だけならエレメンタルマスターが上だから。ただ、エレメンタルマスターも温和な性格で知られているから彼が王になっても引き続き交友は出来ると考えたんじゃないかな」
「恐怖の魔王も支配しているならとっくにしているだろうから最近の研究では基本動かないのではって考え方が主流ね」
その研究、だいたい当たってる。
「魔王様はほんとわからないわね」
「恐怖の魔王があらわれたら平和が訪れたなんて皮肉よね。メナト王が温厚だったってのが一番強い理由だと思うけど。カレン、お酒おかわり」
カレンがぶどう酒が入った小タルをテーブルに置く。
「ありがとう。ところで獣人族のお姫様はどうだった?」
「やんちゃな子だけど、仲良くなれそうよ」
「そうか、それならよかった。獣人の人達がしきりに気にしてたのよ」
「なんとなくわかる気がする」
戦闘後全裸で退場していったからね。
「そうだ、レッドオリハルコンの剣が完成したって聞いたわ。レイ、明日一緒に受け取りに行こう」
「いいとも」
次の日授業が終わり家に帰る途中で鍛冶屋さんに寄っていった。
「いらっしゃい。出来てるよ」
「わーお、きれいね!」
刀身が薄っすらと赤く光っている。
「普通のオリハルコンより魔力との相性が良くってな。こいつを持っちゃうともう離せなくなるぜ」
「そうなりそうだわ」
イリスは柄を両手で握りしばらく剣を見つめた。
「毎度ありー」
店を出てギルドを目指す。まだ時間があるから丁度いい依頼があれば剣の試し切りかな。
「ワオ、すごい力」
イリスの目線の先を見ると大柄な獣人族の人が建築現場で凄く重そうなな荷物を軽々運んでいる。
「力がある獣人が多いのかしら。王女様もそうだったしね」
「獣人は多種多様。中には力のないものも居るらしいよ」
ギルドに入るとなにやら言い争う声が聞こえてきた。
「バッキャロウ! そういう意味で言ったんじゃないわい!」
あの人は根はいいけど短気で口が悪いと知られている冒険者の人だ。
「あぁ? 喧嘩売ってきたようなもんだろうがよ!」
こんなところで国際問題か。
まあ、レヴィアさんが居るから大丈夫だろう。ここは任せて依頼を受けてこよう。
イリスと共に何匹か魔獣を片付ける。
「これはすごい武器だわ。今までの武器とは段違いの性能ね。特に切れ味、この辺りの魔獣程度では切った感触がないほどね」
良い武器のようだな。
依頼をクリアした後ギルドに戻る。
「へっへっへ、さっきは済まなかったな兄弟」
「何を言っているんだ、俺とお前の仲だろう?」
先程の二人が仲良く肩を組んで笑いあっていた。むしろ仲が良すぎて怖いくらいだけど、さすがレヴィアさん。
笑い声がこだまするギルドを背に俺達は家に帰った。




