第二十一話 獣人族のおてんば姫
「はいはい、皆静かに」
先生と留学生が入ってくると生徒たちは急いで自分の席に戻り座る。
今日は留学生が来る日だったな。俺が入ってきたときと違ってルーナは魔力の制御がほぼ出来ている。密着するくらいの距離じゃない限り魔力酔いを起こすことはないだろう。準備は万端だ。
「今日から一緒に勉強をするフロイア・ベレスさんです。皆さん仲良くしてあげてください」
「第4王女のフロイア・ベレス。よろしく」
額から一本角が生えている金髪の女の子。麒麟族という種族で現在獣人族の王族はこの種族だ。
「学園にいる間は身分は関係なしという話は聞いている。すでに王女は居るようだから同じように接してくれればいいかな?」
さすがは平和を愛し、凶を払い吉を招くと言われる種族。とてもフレンドリーだ。これならすぐにでも仲良くなるだろうな。
「ハッハー、それと僕は戦闘好きでね。どうだい? 腕に自身があるやつ、僕と戦ってみないか?」
あれー、麒麟族の情報間違ってたかな? それにしてもいきなり戦闘のお誘いか。下手したら国際問題だがそこはさすが戦闘種族の魔族、すでに数人挙手をしている。俺も気づいたら右手を上げていた。
「よしよし、じゃ一番最初に手を上げたそこの君、バトルしよう!」
俺との戦闘を所望か、いいだろう。
「まって下さい、これから授業です。そうですね、今日は実技がありますからその時に訓練という名目でどうでしょう」
「おー、話がわかる先生だね」
「だろ? うちの先生は最高だぜ!」
んー? 結果的にうまくまとまったからよしとするか。
話が終わり、空いているところ、俺の隣りの席にフロイアが座る。
(気さくそうな人が多そうだね)
(変わり者が多いけどね)
仲良くできそうかな? それなら嬉しいね。
(俺はレイだ、よろしく)
(よろしく!)
握手をすると彼女の尻尾が激しく左右に揺れた。
昼休憩の時間、イリス、フロイアと共に学食を食べに食堂へ向かう。
「これはうまいね。あ、こっちも」
「この学校の学食はその辺の料理屋さんに負けてないから」
「これから昼休みが楽しみだ」
「ところでどう? この学園は」
「うん、やりやすいね。クラスにすでに王女様が居るってのが大きいのかな?」
「ハハ、それプラス色々あったからちょっとした王女様じゃ皆物怖じしないわね」
「?」
ルーナの魔力漏れのことか。皆笑いながら苦労したって言ってたな。
軽く説明しその後談笑。
「そろそろクラスに戻ろう」
午後からは実技の授業、着替えて運動場へ向かう。
「皆さんフロイアさんに魔力をみせてあげて下さい」
生徒達がそれぞれ魔力を放出する。
「授業で説明してくれた魔力だね。体にまとわりついてる薄黒いものがそうだね。生で見るのは初めてだな」
「じゃ次は僕が『破力』をお見せするよ」
フロイアも同じように破力を放出、魔力と違い色は金色。パッと見はただ色が違うだけに見える。
「使い方なんかは実戦を見たほうが早いと思うよ」
「それじゃ練習試合を始めましょう」
すでに準備万端の俺が彼女の前に立つ。いつものように服に魔力を流す。
彼女も全身に破力を流している。武器はナックルダスターを改良したものだな。
「OKかな?」
「いつでも」
試合が始まると即こちらへ突っ込んできた。その勢いのまま拳を突き出してくる。まずは挨拶代わりってところか。体を半身にして剣で受け止める体勢を取る。
「バキャン」
受けた瞬間木刀が悲鳴を上げ真っ二つに弾け飛ぶ。彼女の勢いは衰えなかったため体を捻り横へ逃げ、彼女の攻撃をかわした。
「うわっと、大丈夫!?」
「平気だ、新しい木刀を持ってくる」
木刀を持ってきて再び試合開始。今度は木刀にも魔力を流す。殺傷能力を上げるためではなく防御のために魔力を流した。
「いくぞー」
フロイアが先程と同じように突進、俺に近づいたところで一瞬しゃがみ飛び上がりながら拳を突き上げる。
「ズガァーン」
その威力で少し飛ばされるも今度は木刀が無事でほぼノーダメージ。
「そうこなくっちゃね!」
無邪気に笑うフロイア、俺も笑みをこぼしていることに気が付いた。
良い破壊力だ。まだまだ本気も出していないだろうし。こりゃ楽しい。
「二人共楽しそうに戦ってるわね、イリス」
「そうねぇ、基本的に仏頂面だけど戦いのときたまに嬉しそうにするのよね。ああ、カレンの料理でもにっこりするわ」
「ふふふ、イリスはどうなの?」
「なにが?」
「なにって、ほら」
「……何を言いたいのかわからないわ、ルーナ」
「そんなことでいいのかな、今後どうなるかわからないよ?」
「ム~……」
「ハッハー、盛り上がってきた! それじゃとっておきを見せるよ!」
先程より体を包む破力の量が増加、それにともないフロイアの体に異変が起こる。唸り声を上げながら徐々に肥大化する体が服を突き破る。
『聞いたことがあると思うけど僕たち獣人族はこのように獣化といって変身することが出来る』
フロイアが居た場所には今、四足で地面に立つ獣がいた。
『続きだー!』
先程より速い速度で、こちらに突っ込んでくる。こちらも魔力を上げ迎え撃つ準備をする。
突如彼女の体がブレたように見えた。瞬間前方から姿が消える。
(後ろか)
移動した場所はわかったがこの機動力を『レイ』がさばくのは無理だった。
『こっちだよ!』
こちらに声をかけ突進、ガードをするが半端なガードで吹き飛ばされる。ただ、ダメージはほとんどない。手加減してくれたようだ。
「強いね、参った」
「ヘッヘッーン! どう? 麒麟族は強いでしょ!」
獣化を解いて徐々に元の体に戻るフロイア。
「あ、忘れてた」
「どうした?」
「服を突き破ったから今全裸だよ!」
俺は慌てて服を脱ぎ彼女に渡す。
「サンキュ、危ないところだった!」
そそくさと更衣室に向かうフロイア。はぁ、最後ヒヤリとしたがまあ楽しかったからよしとするか。
やんちゃな子が入ったなとクスリと笑みをこぼしながら俺も更衣室へ向かった。
次回投稿はいつもより早い時間となります。




