暗い所でバイブスが上がるミミッ子ちゃん
そんな心配をしつつも、俺はミミッ子とともに無限の迷宮地下一階に挑戦することにした。
鉄扉が開くとその先は漆黒で塗り固められている。暗黒領域だ。
これには流石のミミッ子もドン引きしたようである。
「うわぁ……やばいんじゃないです? 強制目隠しプレイ状態なんて」
もしかしたらミミッ子は人間だったとしても変態さんになっていたかもしれない。俺は彼女しかミミックを知らないのだが、世の中のミミックはまともであってほしいと神に祈った。
神様からすれば実にどうでもよい祈りだろう。
軽く咳払いを挟んで俺は説明を続けた。
「方向感覚も平衡感覚もなくなるんだが、歩いているうちに向こうのスタート地点になる小部屋に着くから安心しろ」
先に進んで彼女の心配を取り除こうとすると、ミミッ子は俺の隣にたってギュッと手を握ってきた。
「い、いなくなっちゃったりしちゃいやですよ? もちろんロジャーさんの味はペロペロして覚えましたから、たとえ世界の果てだろうと必ずロジャーさんの元に帰ってくる自信はありますけど、急にいなくなられると怖いっていうか心細いっていうか寂しいんです」
今にも泣き出しそうな彼女が演技をしているようには思えなかった。
「じゃあしっかり俺の手を握っておけ」
「あのあの、ロジャーさんの左の手首から先だけがいきなりなくなってて、闇の中を抜けたら手首と握手してた……とかだと怖いんですよぉ」
「そういう怖いこと言わないで。俺もブルっちゃうだろ」
「だ~か~ら~! えい!」
少女は俺の左腕に巻き付くように抱きついて、大きく柔らかく適度に弾力のある胸の谷間に二の腕を挟み込むように密着した。
「これなら安心ですね!」
「ひっつきすぎだろ。歩きにくいって」
「これなら暗くてもばっちり大丈夫です」
「いいかミミッ子。地下一階に出るまでだからな」
「おやおや~ロジャーさん恥ずかしがってるんですか? 真っ暗なんですから恥ずかしがらず、闇に乗じてわたしのことを押し倒し○ックスボックスしちゃってもいいんですよ?」
「不穏な伏せ方をするな」
「クイズ! ○(ふせじ)の中身の文字はなんでしょー? ちょっと難しいので五択問題にしますね。サ行の中から選んでください」
「ソックスで。ミミッ子お前って衣類箱だったんだな」
「うっ……まさかそんな逃げ道があるなんて。さすがは盗賊王にしてパーティーを見捨てて逃げ出した逃亡王のロジャーさん。このミミックのミミッ子の罠を見事にかいくぐりましたね」
「もうちょっと褒め方があるだろ。それに逃げたくて逃げてるわけじゃ……ったく。ほら、そろそろ行くぞ」
「はーい! いくいくいきますよー!」
求む……俺の人生に潤いを与えてくれるまともなヒロイン。
「いいか。中に入ったら無用な戦闘は避ける。どうにも逃げられそうにない場合は対処していく。戦闘は俺に任せて後ろに下がってろよ。今回は仮パーティーなんだし」
「じゃあわたしは何をお手伝いすればいいんです? エッチなこと以外でお役に立てるかどうか、ちょっと自信ないかも」
胸を寄せるようにして谷間をさらに深くするミミッ子に「お前にしかできないことをやってもらう」とだけ告げた。
「きゃー! ロジャーさんってばエッチな事をご所望だなんて。うふふ♪ 男の子なんですね。あっ……ちょっとドキドキしてきた」
「ちゃんと箱として活用してやるから安心してくれ」
「わたしの手足の自由を奪ってまるで道具のように扱う箱プレイですねわかりますハァハァ」
わかりません。わかりかねます。人間だもの。
不本意ながら夜の歓楽街に消える親密な関係の男女のよう密着したまま、俺はミミッ子とともに闇の中に一歩踏み込んだ。
瞬間――
「あーもう我慢できません。ひとまず落ち着くためにほっぺにチューさせてくださいぃ!」
ミミッ子が俺に襲いかかってきた。闇の中に入って一歩でコレである。
「なんで急にこのタイミングでッ!」
「だって暗いの怖いじゃないですかぁッ!」
お前、ついこの前まで暗い遺跡の奥に鎮座してたろ。
「おいこら本当に頬を舐めるなって」
暗視スキルを使っても闇である。密着しているとはいえ、ミミッ子は的確に俺の頬を狙ってきた。
「こうしてしっかりレロレロ……ロジャーさんの味を覚えておかないとペロペロ……不安になっちゃうんレロレロレロレロ」
頬をねっとりと柔らかいナメクジが高速で這い回るような感触に、背筋がゾワゾワして腰砕けになりそうである。視界が闇で覆われていることもあって余計に敏感だ。
もうやだこの子。砂漠の遺跡に返品したい。
「逃げないから。死ぬまで面倒みてやるから。だから舐めるのはやめてくれ。動けなくなる」
足が止まった俺にミミッ子はぴたりと舐めるのをやめた。
「ううっ……や、約束ですからね! あと、もっとイチャイチャしたいんです。それからいっぱい甘やかしてくださいお願いします。褒められて伸びるタイプの箱なので」
吐息が漏れる。彼女と出会って間もないが、今月分の溜息はつき尽くしたように思えてならない。
「ハァ……だいたいなんで俺なんだよ?」
「女の子の大事なモノを奪ったからに決まってるじゃないですか! あんなに優しくされて好きにならない箱なんて、箱の風上にもおけませんよ?」
鼻声のまま彼女は言うと、それからしばらくは大人しく俺にくっつきながら歩き続けた。
ミミッ子が俺に懐いているのは間違い無いようだが、さすが魔物というべきか人間の価値観とズレまくっているのがとても残念である。
もし性格がまともになってしまったらどうなるのだろう。
本当にだんだん可愛く思えてきて……いやいやないないありませんって。




